大決戦の後始末


どのような祭りにもいずれ終わりが来る。

たとえそれが楽しいものでも、危険なものでも。

かくして今回のコノミ救出作戦というか万国通への大侵略は、大成功。

こちらから攻め入ったからか被害者はほとんど発生せず、この侵略による死者はなし。

報復は済ませたし、十三地区の金銭的被害の回収も完了。

さらには、コノミの救出及び犯人の確保という大前提も成功したわけだ。

犯人の拘束及び事情聴取はこれからではあるが、それでもこの地区全体で働きかけた結果と考えれば、これ以上のものはない。

そうだ、十三区的には大成功なのだ。

あくまで、としてみれば、だ。


「というわけで、私はこの奴隷の保有権は絶対に開放する気はないわよ。

 そうでしょ?だってこいつらは我がチームが手に入れた正当な報酬だもの」


「だから、ちゃんと報酬は払うといってるだろ!

 十三地区の代表として、人道に反する所業はできるだけ控えてもらおう!」


「もちろん、そこのところわきまえているわ。

 何せ私はアンドロイド、決して人間様のご迷惑になるようなことは致しません」


「貴様ぁ!!よくもぬけぬけと!」


「ああっ!ようやく収入が入ったのに!!

 勝手に持っていくとか、殺される覚悟はできているのかしら?」


「うるせぇ!これはお前の借金分だろ。

 こういう機会でもないとすぐ逃げるくせに。

 それにこんな大金を手に入れて、貴様はどうするつもりだ?」


「もちろん!そんなの私の電霊彼氏君につぎ込むに決まってるじゃない」


「クソみたいな理由だな」


「ぶち殺」


もっとも、それでも十三区内部での報酬の取り分は非常に混迷を極めていた。

そもそも今回の依頼自体が、合同依頼とか、共同作戦とかそういうのなのだ。

だからこそ、報酬やら結果報告は大いにもめるもめる。

各々がおのれのやりたいこと欲しいものを好き勝手の報告するのだ。

そりゃぁ、もめないほうがおかしいというものだ。


「皆さん大変そうですね!

 それじゃぁ、こちらはコノミが戻ってきたから、今回はこの辺で」


「「「ちょっと待て」」」


余りの混沌ぶりにこっそり逃げ出そうと思ったが、どうやら話はそうも簡単にいかないようだ。


「いや、もう報酬は(宝石の庭を通して)十分に払っただろ?

 それに、今回はあくまで助けてもらった立場なんで、あんまり口出ししないほうがいいかなぁと」


チャレンジャーギルド会議室に集まった高ランクチャレンジャーや爺隊幹部からの視線が一斉に集まる。

まさしく視線で穴が開きそうというか、視線センサーもレッドアラートがなっているレベルだ。


「っは、なら礼の一つも……いや、それは結構聞いたか。

 ともかく、当事者が抜けたら会議が進まねぇから、お前はこの場に残ってろ」


「そうですよイザムさん♪

 しかも、こんな修羅場でこっそり抜け出したら、どんなのが報酬に乗られるか分かったものじゃないですよ?

 それこそ、勝手にあなたやコノミちゃんの身代とか……ねぇ?」


「馬鹿言わないの、そんなの頼むのはあなたくらいでしょ」

 

「それに、なんだかんだ今回の一番手柄は旦那自身だろ?

 超アンドロイド殺し級の敵だったらしいじゃねぇか。

 一番手柄が一番報酬じゃなきゃ、通りが通らないからな」


「うむ。それにこちらとしては、おぬしが倒したボスについてもじっくり聞いておきたいからのう。

 できればきちんとみんながいる前で、何があったか話してほしいからのう」


各々十三区の実力者が、好き勝手なことを言う。

こちらとしては、コノミを取り戻し、以降めんどくさい騒動が起こらなければ、このような面倒くさいタイプの報酬などなくてもかまわないのが本音だ。

しかし残念ながら、ここは十三地区チャレンジャー・ギルド。

貢献度と協調性が肝な場所なのだ。

そんな場所においてはわが身のバックレは、早々に許してもらえなさそうだ。


「……はぁ、しかたない。

 まぁでも、こちらもコノミの診察や治療、今回の事件の後処理が控えているんだ。

 早めに終わらせよう」


「ふむ!その意気やヨシ!

 我らも、このような話し合いは相応に終わらせたいからな。

 さっさと、議題を進めるとしよう」


だからこそ、この竜人型サイボーグの言う通り、話をさっさと終わらせることを念頭において会議に参加することにした。

なお、コノミの診察や治療云々は半分ぐらい方便である。

あいつ、帰ってきたら、すぐに無事だった配信やりやがったからな。

あの精神のタフさなら、まぁ、まず問題はないだろう。


「よし!それじゃぁ早く終わらせるためにも、この今回の一番手柄兼お姫様を救った王子様に、今回の二番手がら決めてもらおうぜ!

 それならいろいろと公平だろ!」


おい馬鹿やめろふざけるな。


「……へぇ、それは面白いわね。

 あの人なら、裏方の重要性を間違えないと思うけど。

 それでも実際に評価は聞いてみたいものねぇ」


あの、チアさんまでそっちに回られるときついんですが。

ストッパーとかいないんですか?


「あらあら、それは面白そうね。

 これで噂の謎のギルド№2の人物評が見れるというものですね♪」


おい、そこの№4。

うれしそうな顔をしてないで止めろ。

いいのかそんなこと言って!なんなら俺以外全員報酬なしにしてやろうか!?


「ふむ。まぁそれだけで決めるわけではないが。

 参考にはなるだろうな。

 というわけで、イザム君さえよければ、是非評価のほど頼む」


まぁ、そんな内心はさておき、ここに自分以外のチャレンジャーギルドのトップ5

全員がいる時点で、そんな頓痴気な行動がとれるわけもなし。

かくして、私はこのチャレンジャーギルド会議を、チートや超能力をフル活用して、何とか乗り切るのでした。



◆◇◆◇



「正直、あのサイボーグを殺すよりも100倍疲れたぞ、おい」


「ふふふ、どうやらいくらあなたでも、十三地区ほぼ全員同時に交渉するのは、流石に骨が折れるみたいね。

 ちょとだけ安心したわ」


「というわけで、この疲労分は宝石の庭に医療費として請求するからな。

 覚悟しやがれ」


「え」


さて、場所は宝石の庭のとある個室。

あのクソみたいなギルド会議の後、帰ろうとしたところをこの翡翠女氏につかまってここまで連れてこられたというわけだ。

私個人としては、こんな疲れるような大騒動に巻き込みやがってとか、せめて明日にしてくれない?など思うところは多かった。


「……本当にいろいろと巻き込んで悪かったわね。

 狙っていたとはいえ、少々話を大きくし過ぎた。

 そのせいで、あなたにもいろいろと面倒がかかったでしょう?」


「いまさらだな。

 でもまぁ、そっちもアンドロイドとはいえ身内がやられているんだ。

 そのくらいやりたくもなるだろうさ」


「……ふふっ、ありがとう」


が、それでも彼女も今回の事件の被害者でもある。

だからこそ、まぁこのように多少迷惑がかかるとしても、真っ先にこちらに謝りたかったわけだし、彼女自身の心労を考えると、ここで呼ばれておこうと思ったわけだ。


「……横、座らせてもらうぞ」


「あらいいの?

 見ての通り私はサイボーグよ?

 あなたみたいな、貧弱な低改造な人間なんて、間違えてつぶしちゃうかもしれないわよ」


思ってもいないことを口に出すあたり、どうやら、彼女もそれ相応に精神的疲れているようだ。

なればこそ、これから先の良好な関係のためにも、不労所得のためにも、了承を得ずに無理やり隣に座らせてもらった。


「ほ~、いい生体素材使ってるな。

 見たことないタイプではあるけど、これは?」


「……まったくもう、勝手な男ね。

 でも、そこのパーツに目を付けたのは褒めてい上げる。

 この髪の毛パーツは、私の娘……まぁ、義理のアンドロイドの娘が作ってくれたものなの。

 見てくれ重視の非戦闘向けのだけど、義母さんも時々はこういうのでおしゃれをして~って。

 本人はそこまで気にしていないのにね」


「でもまぁ、この色は本当に似合っていると思うな。

 落ち着きながらも明るさを感じる輝き、優しさと安らぎを感じさせる色。

 あなたの雰囲気によく合ってる」


「……口説いているつもり?」


「まさか、思ったことを言っただけだ」


そのあとも何となく続ける無秩序ながらも、平和な会話内容。

犠牲と悲しさや疲労から目をそらし、ごまかすだけの内容ではあるが、それでも心が荒れ、傷ついている今の翡翠女氏必要なものなはずだろう。

次第に彼女は、心を許し、体をこちらに預けてくれるようになった。


「……私、あなたに謝らなきゃいけないことがあるの」


翡翠女氏はこちらに肩を預けながらそう口を開いた。


「私は初め、あなたがあの謎のアンドロイドを私たちに預けた時、何か悪いことを企んでいると思ったわ。

 秘密主義者で、出身不明のチャレンジャー。

 腕は立つが、チームを作らず。

 なのに戦闘もハッキングも電脳操作すらできるらしい。

 ……これは何ある、絶対何か起こすつもりだと思ったの」


翡翠女氏わずかにうつむきながらそう言つぶやくように話す。


「だからこそ、あなたは知らないだろうけどあなたが私に接触する前から、私はあなたの十三地区定住を反対していたわ。

 十三地区の有権者として、アンドロイドの守り手として。

 今回の件もそう、コノミちゃんから出たあなたへの悪評やらも、定期報告義務も」


「それだじゃない。あなたが安全だとほぼ確信してからも、結局私はあなたを疑い続けてしまったわ。

 今回の救出劇であなたを巻き込んだのもある意味ではその表れだったかもしれないわ。

 そして、今回のギルド会議も……結局、こんな目に見える結果が出るまで、私はあなたを疑い続けてしまった」


その言葉とともに、彼女はとある資料を取り出す。

するとそこには、今回の事件の被害者……いや、今回の事件で捕まった無数のローママフィアの配下の電脳尋問結果とその証拠が書かれたものであった。


「そう、今回の事件はあの狂気のサイボーグもどきが主犯ではあったわ。

 でも、調べていくとわかるけど、今回の事件の真の黒幕はこの【新機教】と呼ばれる一派だったの」


その言葉とともに、彼女が映し出したのは立体映像。

そこには歪んだ傷のついた十字架のアクセサリーを付けたサイボーグ混じりの小柄の人影が写っていた。


「【新機教】。

 情報通のあなたなら、当然知っていると思うけど、奴らは世界的にも有名な裏組織、いやテロ集団の一種なの。

 そして、このサイサカにもこの魔の手が当然やってきていたわ」


翡翠女氏は、こちらの腕をやや強めに抱き込む。

まるで、不安を押し込めるかのように。


「奴らの悪事は多岐にわたるわ。

 新種のアンドロイドのウィルス、暴走性サイボーグパーツの販売、さらには洗脳ソフトや催眠アプリまで。

 おおよそ、まともでない悪事は大体奴らの精ともいわれているけど……。

 同時に決定的なボロは出さない。

 それがこの【新機教】という組織なの」


そして、彼女は改めて一つの映像を映しあげた。


「だからこそ、この【新機教】の幹部がこの辺に潜伏しているという情報を入手した時、私は非常に怖かったの。

 この町が大事だから、今の家族が大事だから。

 ……だから、怪しそうというだけで、私は心の中であなたを犯人に仕立て上げてしまった」


彼女はその鉄の拳を強く握りしめんがら話を続ける。


「でも、犯人は別にいた。

 このサイボーグを改造した相手。コノミちゃん、いや旧シズクの作成データ的に、あなたがこの地区での活動時期とは一致しない」


「……許してとは言わないわ。

 でも、せめて、せめて私の家族やアンドロイドは………あの子たちは恨まないで上げて」


翡翠女氏の腕の力が抜け、顔は伏せ、声を小さくしてそういった。

だが、彼女の発言に対してこちらが言うことはただ一つだ。


「別に、対して恨んでもない。

 だから謝る必要はないぞ」


「でも……」


「それに、これらの一連の行動はあなたが家族を思いやったからだろ?

 なら、それはきっと、仕方ないことだった。でいいだろ」


「……ふふ、ありがとう」


翡翠女氏は、ようやく顔を上げ、こちらに涙ぐんではいるが笑顔を向けてくれるのであった。

それにまぁ、彼女は彼女自身が言うほど、嫌がらせできていたとは思えないし、嫌がらせを感じていなかったのも本音だ。

さらに言うと、翡翠女氏の自称悪意よりも、コノミの天然無自覚な行動のほうが100倍厄介だ。

そもそもこの一連の騒動は9割9分コノミが原因であることを考えると、やっぱりあいつは疫病神か何かで間違いない気がする。

サイボーグさんも、コノミにかかわってしまったばかりに…カワウソ。


「私の事は、翡翠でいいわよ」


「あ~、それじゃぁ翡翠さんで?」


「翡翠、呼び捨てでいいわ」


「え~、いやでも……」


「……」


「はい、よろしく翡翠」


無言の圧力に負け、名前で呼ぶといい笑顔をこちらに向けてくれる翡翠。

いろいろ言いたいことはあるが、翡翠のサイボーグパーツは非常に高級品であり、特に顔面の暴力はすさまじい。

そのことだけは確かなようだ。




「ところで、今夜は空いているかしら?

 ……お礼も兼ねて、もうちょっとあなたと話したんだけど?

 あなたが望むなら、私ができる範囲でどんな償いも……」


「あ、コノミが家に待ってるから帰ります」


「え」


「コノミが家で待ってるから帰ります」


「……しょぼーん」


わざわざ口に出して落ち込むふりをするな。

年齢不詳なくせに。


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