アフタヌーンティ


『私も、お仕事手伝ってみたいです!』


さて、つい先日のサイボーグ捕縛事件から数日後。

しばらくは配信ばかりしていたコノミであったが、こちらが仕事で外に出るときにそんなことを言ってきたのであった、

こちらとしてはあの事件以降チャレンジャーギルドで無数にできてしまったつながりとか、交渉の延長などで忙しいかったため、突然そんなことを言われてもと言う思いもあった。

が、それでも、よくよく考えれば人間である自分が外で働いているのに、アンドロイドであるコノミが配信や家事などがあるとはいえ、家のなかで過ごせているという事実に僅かな苛立ちを覚えたため、彼女の同行を許可。

今はこうして、調査依頼の仕事で一緒に外出しているわけだ。


「調査依頼といえば、張り込み!

 張り込みといえば、あんパンと牛乳!

 これが鉄板ですよね!」


「普通の喫茶店とかでドローンを使いながらの監視の方が楽だろうけどな。

 にしても、あんパンはともかく、こっちの合成牛乳はあんまりうまくないな。

 コーヒーでも買ってくるか」


「おお!コーヒーと牛乳を混ぜてコーヒー牛乳ですね!

 そういう選択肢もありですね!」


公園のベンチに座りつつ、ドローンやセンサーを使い、コノミと二人でのんびりと張り込みをする。

今回の食事は、ここに来る途中で買った無数のパンと牛乳だ。

あんパンの餡は、小豆ではなく芋餡的な何か。

甘さよりも芋の風味が際立ち、前世で食べたあんパンをイメージすると少し裏切られた感じがする。

しかしまぁそれでもまずいわけではないし、芋餡に混ぜられた雑穀がほのかな香ばしさと風味が感じられて、美味しさや満足度はかなり高い。

しかし、逆に牛乳はダメだな。

無駄にアンドロイドと人間兼用の合成牛乳にしてあるせいで、味こそ牛乳ではあるが、それ以外は牛乳の様な何かだ。

匂いが灯油のような上、舌触りがギトギトしている。

喉越しの違和感だけで、思わずどう耐性のあるこの体でさえ、むせ込みそうになる程だ。


「……まぁ、無料でもらったものだから、文句は言えないけどさぁ」


「えへへ~、あそこの店員さんも親切でしたね!

 このアンパンもおいしいですし、今度また行きましょうね!」


なお、この牛乳自体はコノミが店頭でパンを買った時におまけでもらえたものではある。

一応キャンペーンとか、初めてのお客さんにはサービスとか言ってたがどう見てもコノミの顔面とコミュ力効果である。

やっぱり、こいつの人間ひきつけ力はやばいって。


「……ふふふ、ずっと長いこと、夢だったんです。

 こうやって、大空の下でゆっくりと、風を感じながら食事をすることが」


コノミは空を見上げながら、そうつぶやく。

声は柔らかくも落ち着いており、その表情は喜びと哀愁が入り混じっている。

何時もの天真爛漫ではない、愁いを帯びた表情を浮かべていた。


「……で、どこまで思い出したんだ?」


「あ、やっぱり、わかっちゃいましたか?」


「それで隠せている思うのなら、そっちの方がおかしいだろ」


コノミの似合っていない苦笑に、こちらは溜息を吐きつつそう答えた。

そうだ、こちらとしては彼女がなぜあのサイボーグに襲われたのか、そもそも彼女の正体が何なのかはおおよそ把握済みなのだ。

それこそ、あのサイボーグを捕縛したときにぶっこ抜いたデータや四首の捕獲時など、コノミ、いや、彼女の前世ともいうべきシズク少女についての情報について入手できる機会は多かった。

それらの情報を組み合わせた結果、コノミが今回襲われた理由である、彼女があのサイボーグの元親族をもとにしてできたアンドロイドであることや、その上人間の時の記憶や肉体の一部も引き継いでいると言うこともわかったわけだ。

つまり、コノミは当初の鑑定結果通り、サイボーグの出来損ないや混ぜ物入りアンドロイドなどに類するような存在であったと言うわけだ。


「でも、おかしいですよね。

 わたしって、あの時完全に死んでいるはずですし……

 最近私自身のカタログが見れるようになったんですけど、それによると私の電脳には、人間の時の脳みそは総量にして20%も使われてないそうです。

 つまりはほとんど、人間の時の記憶や人格なんて残っていないはずなのに……それなのに、前世のいや、シズク時代の記憶があるなんて、おかしいですよね」


「まぁ、でもそういうこともあるんじゃない?」


「えぇ…でも……」


「別にそれだけで、何か害があるわけでもないんだろ?

 人間の時の記憶やら思い出は」


「……それはまぁ、そうですけど」


コノミはもじもじしながらそう答える。

まぁ、それはそうだろうといった感じではある。

そもそも彼女が、やけにスペックのわりに運動能力が低かったり、記憶力もカタログスペックレベルのもの低いのも。

人間の脳がアンドロイド脳に混じって、バグを起こしているが故の現象なのだろう。


「で、結局お前はどっちなんだ?

 コノミなのか?それとも、シズクなのか?」


「私は、コノミですよ。

 それだけは確かです。

 確かに私の中に、シズクちゃんの思いや記憶は残っていますが……それでも、私は私です。

 ご主人様の専属アンドロイド、それが今の私ですので」


シズクは言葉を選びつつそう言った。

どうやら、コノミ的にはシズクの記憶やらはいわゆる映画やら電脳疑似体験として味わったかのように覚えているだけで、かつてのシズクであった時の記憶や思いをすべて引き継いでいるわけではないそうだ。


「私と違って、シズクちゃんは……もうちょっときれいだけど儚げな少女でした。

 実際シズクちゃんとして生きていた頃は、ほとんど外出なんて、したこともありませんでしたし、満足にご飯を食べることもできませんでした。

 だからでしょうね、こうやって外でご飯を食べてみたいと思ったのは。

 ……多分、シズクちゃんならこういうのがやりたかったのかなって……」


「弔いとか、そういうのか?」


「ふふふ、自分でもよくわかりません。

 でも、おかげでおいしいのが食べられよかったです」


コノミがそう言いながら空を再び見上げる。

そこには久々の青空と、無数の飛行ドローンが行き来している。

鳥を模したものから、純粋な飛行機、円盤形まで様々の飛行物体が空を飛んでいるのが分かる。

そんな意味深な表情を浮かべながらも、コノミが6つ目のパンに手をかけているのを見逃しはしないぞ?

ようやく彼女も本調子に戻ってきたようだな。

よかった。よくない。


「でも、だからこそ、私がご主人様に出会えたのは運命だったと思うんですよ。

 わずかに残った記憶と遺言から、私はパパ……いえ、前の主人がなくなった際に私は新しい主人を探す必要があったんです。

それこそ、【万国通り】出身でない人、そんな中偶然たまたまご主人様みたいな善人があそこに来てくれていた。

 これが運命でなくてはなんと言えるでしょうか?」


「だから私は、ご主人様と私が出会えたのは、きっと運命の神様と仮想いう出会いなんだ。

 ……そう私は考えています」


公園の和やかで優しい景色な包まれながら、木の実は私に向かってそう告白してきたのであった。




「でも、すまん。

 それはたぶん偶然じゃないし、運命でもないぞ」


「え?」


しかしながら、コノミの発言は後半が大体今不明だったので、とりあえずそこだけは否定させてもらうことにした。


「だって、考えてみろ。

 そもそも、あの万国通はいろんな外の人が押し寄せるスラム街一歩手前の危険な場所だぞ?

 それこそちゃんとさがせば、あの場所には万国通出身でない人はたくさんいただろうからな。

 だから、おまえがもしきちんと近場で万国通出身でない人を、あの場できちんと探せば俺を追わずともすぐに見つけることができたと思うぞ?」


「え、えええええぇぇぇぇ!」


コノミが驚ろきで、おもわずその手の持つパンを落としかけて焦る。

折角の張り込みなのに目立ちかけるコノミを配慮して、消音用ドローンを展開しておいてい良かったと言わざる得ない。


「で、でもあの時、確かに周りにはマフィアじゃない人や万国通出身じゃない人は、ご主人様しかいなくて……」


「なら、どうして俺がそれだとわかった?」


「え」


「どうして、その時まで俺と出会ったこともないのに、俺が万国通出身でないとわかったと聞いてるんだ」


「えっと、その、え~~……運命的にビビッとわかったから?」


「ははっ、ナイスジョーク」


わたわたと焦った様子のコノミに、苦笑しながらも、流石にこの姿をさらし続けるのは張り込み任務的によろしくない。

だから、さっさとコノミにネタ晴らしをすることにする。


「お前の頭にはその角がついてるだろ?

 その高性能のレーダーになっている奴」


「あ、はい!

 このサイボーグとアンドロイド兼用の!

 こんなにかわいくて、高性能!

 昔から私、いえ、シズクちゃんも私も、サイボーグになるならこういうかわいいのがいいって思ってたんですよね!」


「それつくったの俺だから」


「ええええぇぇぇぇ!!!!」


おお、ナイスリアクション。


「こ、この角みたいなサイボーグパーツって、宇宙開発用とか、軍用とか聞いたんですけど!

 かの大国の秘密部隊が、秘密裏に使ってるとかいう噂もあるんですけど!?」


「ああ、どれも間違いではないぞ?

 当時は金が必要で、割と雑にその手の技術を配っていたからなぁ」


そうだ、そもそもコノミがなぜ自分を追跡できたのかに関しては、予想がついていたのだ。

コノミの頭部につけている、あのふざけた角のようなサイボーグパーツは、自分がかつてとある組織に属していた時に設計したものだ。

さらに言うならば、コノミのつけている奴は、私自らが設計及び組み立てまでしたサイボーグパーツである。

だからこそ、このサイボーグパーツには制作者責任として、修理用の隠しコマンドの製造者見分け機能が付けているのだ。

初めてコノミに出会った時、彼女がこちらにまっすぐ突っ込んできたのは、おそらく無意識ながらも、この製作者発見コマンドを利用して、こちらへと近づいていたのだろう。


「だから俺は、当初はお前を組織からの追手とか、そういう類だと思ってたんだが……。

 まぁ、その辺は単なる偶然だったみたいだな」


「で、でも、これすっごく貴重で……。

 それにパパ……いや、前のご主人様がこのサイボーグパーツを手に入れたのはあの新機教の伝手を使って手に入れたんらしいんですよ!?

 色々と大丈夫なんですか!?」


「まぁ、だろうなぁと。

 そもそも俺が前に所属していた組織は新機教だし。

 そこで作った機械だから、さもあらんって感じだな」


「え、え、ええええええええぇぇぇぇ!!」


やっべ、これはさすがにコノミ相手でもいったいけないやつだったか?

アンドロイドだったら問題ないが、こいつはポンコツだからなぁ。

流石に訂正しておくか。


「すまん、やっぱり冗談。

 俺が以前所属していたのは、とある宗教のマイナーサークルだから。

 ちょっと人間とアンドロイド、どっちも装着できる共通のおしゃれ金策アイテムを平和的に配布していただけだから」


「っほ、よかったです!

そうですよね、まさかご主人様がこの一連の事件にかかわっているわけないですものね」


「それについては本当にそう。

 マジでそうだから安心してくれよな」


「はい!」


これであっさり騙されてくれるのは、コノミがアンドロイドだからか、彼女がポンコツだからか。

もっともこれに関しては互いに損していないから問題はないのだろう。

それに今回の一連の事件が、彼女の角型センサー意外には基本こちらが関わりがなかったのは確かである。


「そもそも、俺がもし黒幕ならもっとスマートに事を進めているからな。

 特にあのサイボーグやら四つ首型アンドロイドは、もっとまともな改造ができるはずだ。

 それこそ、万国通も宝石の庭も武力と財力で一発でなんとかできるほどに、な」


「ご主人様~?

 一発の意味はわかりませんが、冗談でもそういう不吉なことを言うのはいけないと思いますよ。

 ご主人様は優しくてかっこいい人なのに、そういう発言のせいで損しています!」


「はいはい、私が悪うござんした。

 ……でもカッコイイは間違いだろ。

 センサー修理するか?」


「違います〜!!少なくとも私にご主人様はとってはイケメンです!

 内面も含めて……いや、まだまだ上は目指せるとは思いますが、今の時点でも、かなりイケメンです!」


「褒めてるのか褒めてないのか、よくわからん言動やめてくれる?」


コノミがいろいろとぼろを出しつつもこちらに注意したり褒めたりしてくる。

その時のコノミの表情が、コロコロと変わり、幼稚園児も驚くほどのバイタリティと楽しさを感じることができた。


「……ようやく、調子が戻ってきたようで何よりだ」


「ふぇ?何か言いましたか?」


「いや、なんでもない。

 相変わらず、お前はポンコツだなぁと」


「むっ!ポンコツとは失礼な!

 最近はちょっとだけ料理もできるようになったじゃないですか!」


「仮にもアンドロイドのくせに、時々、毎日みそ汁やスープの味の濃さが変わってるけどな」


「ううぅ~!だ、大丈夫です!

 あれは試行錯誤ですので、いつかばっちり一番おいしい朝食を作って見せます!」


ぷりぷりと怒るコノミの様子に、どこか安堵を感じつつベンチから立ち上がる。

それは一面の青空、時々ドローン、所によりサイボーグと宇宙船。

絶好の仕事日和のいい天気だ。


「よし、それじゃぁ、そろそろ星がここから移動する時間だからな。

 次の場所まで移動するぞ」


「は~い!」


かくして自分とコノミは散歩をしながらこの町の散歩を続けるのでした。



なお、後日


「というわけで、君たちの尽力のおかげで件の新機教の黒幕は捕まえられた。

 それを君たちのほうに知らせておくぞ」


「あ、報告お疲れ様です」


「えええええぇぇぇ!あれってそういう依頼だったんですか!?」


さもあらん。




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