眠る寝言地割れ絶対零度

さて、改めて言うまでもないことだが、私はチート異世界主人公的サムシングではある。

よく覚えていないオンラインゲームの、サブキャラクターという何とも言えないポジションではあるが、それでもチートはチートだ。

故に私には、この世界の一般人よりも優れた点が複数ある。

そんな優れた点の一つが、交渉力だ。

もともとこのゲーム時代のゴリゴリの戦闘型スーパーエスパーサイボーグメインキャラクターでは使わないタイプのスキルをこのキャラクターに詰め込んだが、そんなスキルの一つが、交渉系スキルであったりする。

物を買うときの値切りや逆に売りつけるときの値段のつり上げ。レアなアイテムを買えるように相手を誘導したり、何なら相手に買ってはいけない違法なものを買わせる詐欺術まで!

このスキルがカバーできる交渉範囲はなかなかに広い。

だからこそこのスキルは(周囲との良好な関係性も考えて)普段使いは封印しているわけだが、それでもここまで喧嘩を売られたのなら、買わねばこちらの男が廃るというもの!

さぁこい!翡翠女氏よ!貴様からの角突き押しつけ販売、いい感じに躱し切ってやろうぞ!


「とりあえず、私の正当なアンドロイド人権家としての名誉として、あなたにはあの娘を絶対に引き取って、家で世話をしてもらうことにするわ。

 だから、まず前提として、あなたがもしあの子を正式なご主人様として、引き取らないというのなら、あなたをこの十三地区から出ていくように各自治体に全力で働きかけるから。

 そこのところヨロシク」


はじめっから禁止カード使うのやめてくれませんか?

アンドロイド人権家最低だな。明日から、ドローンを使ってこの農場に害虫系ミュータントの卵ばらまいてやる。覚悟しやがれ。


「そして、逆にもしあなたが彼女を快く引き取ってくれるのなら……。

 とりあえず、この満額入り金カードクレジットがたっぷり入ったこのトランクに、不動産。さらにはもし彼女を引き取って問題が起こったときには、私達『薔薇の園』及びその後ろにあるアンドロイド人権派構成員があなたたちを味方、およびこの十三地区のあなたの地位を保証するわ」


やっぱりアンドロイド人権家は最高だな!

しかたねぇな!俺もちょっとアンドロイドの人権についていろいろ考えていたところだ。じっくり話し合って、お互い及ぶ彼女の未来のためになる、有意義な交渉を始めようじゃないか。


◇◆◇◆


「と、いうわけで、そこそこ不本意だけど、今日から君をうちで預かることにしました〜。

 わ〜ぱちぱちぱち」


「ええ〜!?」


さて、場所はところ変わって再びあのギルドカフェ。

前回は最後の晩餐ならぬ、最初で最後のランチをした場所だが、今はこうして再開のランチになるのは色々と趣き深いものがある。


「え、えーと、つまり私は勝手に金とか権力で買われちゃった的なサムシングなんですか!?」


「ある意味ではそうなるな。

 どうだ?幻滅したか?」


「……。」


むっつりとした顔をしながら、ぶくぶくとアンドロイド用オイルソーダをストローで泡立てる。

行儀が悪いというか、ものすごくわかりやすいというか。


「正直に言っていいぞ。

 怒んないから」


「……実は少し」


「はっはっはっ!

 久しぶりに会っても、相変わらずの鈍感ぶりだな!

 ……やっぱ、無理にでも契約解除するか」


「ええええぇぇ!お、怒らないって言ったじゃないですかぁぁ!」


泣き声を上げているアンドロイドもどきを見つつ、改めて思う。

やっぱりこいつは、ある程度は厄なネタなのだろうなと。

どう考えても、一般アンドロイドが持つべき知識を持ち得ていない、そんな箱入りアンドロイドなのだと。

なぜならこのアンドロイドもどきは、身体自体が雑に高級品なのに、頭の中はすっからかんなのだ。

おそらくはどこかのオーダーメイドアンドロイドとか、そういう類の物。

それが勝手にフリーになって、こちらを追跡して、勝手に記憶失いながらこちらの従者になるとか言い出したのだ。

どうして、厄ネタでない訳がなかろうか?


「あれ?もしかして、私って相当怪しい身分ですか?」


「自覚を持ってもらえた様で何より」


農場に突っ込まれ、勝手に悪評までばら撒きかけたド腐れジャンクがようやく我が身について理解してくれた。

それだけで、今回この偽アンドロイドをあそこに預けた甲斐があったものだ。


「でもまあ、これからは我が家の周辺を薔薇園所属の警備アンドロイドがパトロールしてくれるからな。

 外部から襲われる可能性はそれなりに低くなった筈だ」


「えぇ?さ、流石に心配しすぎじゃないですか?」


「いやいや、お前の経歴的に考えて、どんなギャングやら裏組織出身だかわからないからな。

 それに、お前だって、寝起きで突然誰ともわからないやつらに襲われたら、怖いと思わないか?」


そうなのだ。それが俺がめちゃくちゃコイツを引き取ることが嫌だった原因なのだ。

一応コイツ自身が暴走やら暴れるのはまだいい、その時はコイツを壊せばいいだけだから。

しかし、もしこいつのバックにやばいやつがいたら話は別だ。

コイツの元ご主人様的何かは、自分専用にアンドロイドを発注できるほどの権力者。

正直、やばい組織の長であっても全然違和感がないのが怖すぎるのだ。


「つ、つまり、ここまでしてくれたのは、わ、私の安全を考えて、私の事を思ってってことですか?」


何言ってんだコイツ。


「よ、よく考えればそうでした。

 あそこに置かれたのも、こう、悪い悪の魔の手から逃れるため的なサムシングの作戦で!

 その間に、ご主人様がかっこよく敵をやっつけたり、迎え入れる準備をしてくれていた……って、こと!?」


「そ、それなのに、私ご主人様の事を誤解しちゃって……。

 ご、ごめんなさい!私、ご主人様のメイドさんとして、まだまだ未熟でした!

 ちゃんと、ご主人様の考えが分からないようにしないと!」


う~ん、この頭お花畑ポンコツスクラップめ。

でもまぁ、その誤解はこちらにとって不利なものでもないから訂正しないでおく……。

いや、ほんとか?

この勘違いは本当にさせていいものなのか?

ちょっとくらい世間の厳しさをわからせるためにも、訂正したほうがいいのか?

絶対コイツは、後々変に勘違いから調子に乗って、絶対よくないことやらかしそうだぞ?


「……まぁ、いっか。

 ほれ、とりあえず、食え食え。

 明日から無節操には無理だが、少なくとも今日は好きなだけ喰っていいぞ」


「えぇ……えっと、その……」


「……はぁ、別に食いすぎても追い出しはしない。

 ほら、俺も頼むから。

 とりあえず、俺はヒレカツ定食とノンサイオソーダ―……海老とキャタピラのオーブン焼き2人前、それとフォカッチャで」


「……あ!はい!注文は私が!

 え、えっと私は……ドルガーのチョムチョムと、金箔のから揚げ、あと焼き虎馬重足のタレ」


相変わらずこいつは、チャレンジャーなものを。

こっちのオーブン焼きも、ある程度分け合うことを前提に頼んだが、容赦なく追加で3品頼んだな。

まぁ、それでも委縮されるよりは全然いいが。

しかも、というか、こいつが頼むメニューはクセが強いな。


「……で、うまいか」


「あ、はい!すごく!

 このドルガーのチョムチョムは、一見普通のリゾットみたいですが、口の中に入れると原油っぽいガツンとした香りがサイコーです!

 金箔にパリパリ感も、焼き虎馬はのど越しがすっごくブルブルしてます!」


アンドロイド飯の感想は、相変わらず独特過ぎてよくわからんな…。

一応大半は人間とアンドロイド、どちらが飲食しても、問題自体はないらしいが、それでも聞いている限り、いや、うっすらこちらに鼻に入ってくるにおいだけで食欲が減退するレベルだ。

次回からアンドロイド飯の匂い物は禁止させる必要があるな。


「あ!でもご主人様が分けてくれた、このキャタピラと海老のオーブン焼きも、とってもおいしいですね!

 海老のプリッとした食感とキャラピタのムニムニした歯ごたえ、それに人間用の食用油がよくあってます!」


「一応、それはオリーブオイルだな。

 もっとも、本物ではないらしいが」


「へ~、そうなんですか!

 でも、おいしければ、どっちでも問題ありませんよね!」


「……ま、そうだな」


でもまぁ、普通の味もわかりはするようだ。

これならば、まぁ、最低限お互いやっていけそうだな。

満面の笑みで、焼きえびをフォカッチャに乗せながら食べる角付きを見ながら、静かにそう思うのであった。


「これ、おいしいじゃないですか!

 でも、これパスタに乗せたらもっとおいしくなるのでは?

 というわけで、せっかくなので、このパスタも頼んでみましょうよ!」


流石に加減しろ、馬鹿。

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