アンドロイドの気持ち
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★アンドロイドと私の10の約束
①私と慎重に付き合ってください。距離感を間違えると死にます。
②時々私にかまってください。それだけで私は幸せです。
③私にも心があることを忘れないでください。武力があることも忘れないでください。
④言うことを聞かないときには理由があります。ソフトや故障の可能性などです。それと強さも関係あるかもしれません。
⑤私にたくさん話しかけてください。人ではありませんが、言葉はわかっています。それに私は強いので。
⑥私をあまり叩きすぎないでください。なぜなら、本気になったら私のほうがはるかに強いから。
⑦私が可愛すぎても、仲良くしすぎないでください。なぜなら私のほうが強いから。
⑧私は種類によっては数年しか生きられません。だからといって、それは気にしないでください。なぜなら私は強いから。
⑨あなたには学校があり友達もいます。そして、私にも電脳ネットやアンドロイド支援機関、そして腕力があります。
⑩あなたが死ぬとき、お願いです。どうかわたしを正規に手放してください。そして、覚えておいてください、主人を失ったアンドロイドは時がたつと暴走することがあることを。主従契約から解放されたアンドロイドがいかに危険かを。
※【出典 人類保全委員会特殊広報部より】
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「……というわけで、基本的にこのチラシに書かれている通り、安全人道的に対応したつもりなんだが、何か問題でも?」
「問題しかないわぁああああ!!!!」
場所は、十三地区、そこにある半展望型高速栽培菜園農場、通称【宝石の庭】。
幅広い園芸植物から、野菜まで手広く育成しているその農園。
その宿舎にある客室にて、現在私はとあるアンドロイドと面談していた。
「このチラシはこの十三地区のギルドに正式におかれていたチラシによるものだ。
ならば、俺がアイツをここに預けたのも、この地区的には正しいことで、アンドロイド的倫理観において、そこまで問題があるとは思えないんだが」
「よりにもよって、アンドロイドについて一番とがったことの書いてあるチラシを持ってきて言うことか!!!
そもそも、ここは、死にかけの老人や浮気を疑われた新婚家庭、次の就職先を決めるアンドロイドなんぞのために、一時的にアンドロイドを預かる施設なんじゃ!
それなのに、あの娘みたいな素朴な子を雇ってすぐに、この施設に預けるとか正気か??」
「いや、でもここに預けるとき特に文句は言われなかったぞ」
「そりゃそうじゃ!そもそもお主は、あの娘をすぐに拾ったばかりとか、契約変え希望で出しただろう?
だが、ふたを開けてみればどうだ!あの娘は、毎日お主がいないことに気を落としておるし、主人であるお主の事を思い、泣き叫ぶ。
そんな、あ奴を放置するとか、可哀そうとは思わんのか?」
目の前にいる、やけに目つきの悪い長髪女性型アンドロイドににらまれる。
小さいながらも、その声には非常にドスが利いており、思わず恐怖しそうになる。
しかし、それでも言わせてくれ。
「でも、ほぼ偶然みたいな感じで出会ってしまったうえに、交流してから合計1日もたってない相手に、そこまで好かれるとか怖くない?
絶対、何かの罠だよ。あんまり触れたくないよ」
「アンドロイドは種類にもよるが、そういうのも珍しくないのじゃ。
運命の相手とか、刷り込みはアンドロイド界隈にはよくあることじゃ!」
どんな界隈だよ、こえーよ。
「それと、アンドロイドとはいえ、出会ったばかりの女の子をいきなり家に上げるのはこう、お互いに怖くない?
それにここから出る給料の振込先も、9:1でほぼ彼女が全部の手持ちにしているじゃん。
初期費用合わせて持ち出しで大赤字にあるくらいだ。
人道的に考えても、そんなに責められる謂れはないのでは?」
「いやいやいや、もしあ奴が人間の女の子ならそうなるかもしれんが、あ奴はくっっっそ可愛くても、アンドロイドだからな!
明らかにそこのところを間違えて交流しておるのじゃ」
どうやら、目の前の細目アンドロイドの機嫌をさらに損ねてしまったようだ。
彼女の横においてある、サイバー長ドスがカタカタと揺れて、かなり怖い。
私としては、件のアンドロイドっぽいサイボーグにはかなり、譲歩して優しく対応しているつもりなのだが、それでも目の前にいる牧場現場監督アンドロイド的にはかなりご不満のようだ。
険悪な雰囲気が漂い、ピリピリとした緊張感が部屋を支配する。
どう会話を続けるか頭を悩ませているときに、救いの手が現れた。
「あらあら、なかなか、
重力波と精神波が多重干渉をしているのを感じるわ」
「ご、ごじゅじんざま~~!!
ごべんなざいいぃぃぃ!!」
この部屋に現れたのは、2つの影。
片方は、自分が拾ってきた、あの角突きアンドロイド。
前見た時よりもやや衰弱した顔色を感じさせなくもないが、そもそもサイボーグ兼アンドロイドであるので、そもそも顔色などあまりあてにならない。
体つきも前と変わっていないし、衣服や髪が無事なことを考えるとそこまでひどい目にあっているとは思えない、相変わらずの様子であった。
そして、もう一人は小柄ながらなゴスロリを着た、ある意味ではこの農園にあまり似つかわしくない女性。
「あら、ご依頼人にして、23番さんのご主人様ね。
契約の時以来、お久しぶりね」
そう、彼女こそが『翡翠』。
このアンドロイド限定牧場の管理人にして、全身サイボーグの変人である。
何が変人かといえば、わざわざ全身サイボーグにする際に幼女体型の身体を選んでいることだ。
サイボーグは確かに体を強化できるが、その分さまざまな代償や対価を支払う必要がある。
それなのに、この容姿を得るために、サイボーグ化するとは、一体どの様な趣味なのか。
年齢も不明、経歴も不明、何なら全身サイボーグなせいで性別すら不明。
おそらく、このゴスロリ衣装も併せて、平時なら絶対自分から近寄りたく無いタイプの人物だ。
「はい、私が拾ってきてしまったアンドロイドがお世話になっております。
……どうやら、いろいろと不手際があったようで、心から謝罪させていただきます」
「え!?私の事は無視ですか!?
ひどくないですか!?」
「いえいえ、気にしないで。
こんな
角付娘がわちゃわちゃ言ってる間に、彼女を無視しつつ、この農場の管理人とあいさつを済ませる。
手土産を渡したり、名刺交換したりなどを行う。
そして、いくばくかの話し合い後、初めに自分に面談していたきつめのアンドロイドが角付を引き連れて部屋から退室していってくれた。
部屋の空気は変わったようでよかったサンキュー!
「ふふ、いろいろとジーが迷惑をかけたわね。
あの子はいろいろと、めんどくさい性格をしているから。
農場管理者やアンドロイドたちの守り手としてはいい娘だけど、あなたには少しきつかったかしら?」
「いえいえ、口調こそ独特ですが、アンドロイド思いのいい娘ですよ。
それに、あの娘が大事に思われていることが分かりましたし、ここに預けてよかった。
そう思わせるいい娘じゃないですか」
もちろん、この言葉は半分は義理である。
めちゃくちゃ威嚇されたし、なんなら殺気も飛ばされた。
しかしながらそれは同時に、こちらの預けたあの角付きアンドロイドモドキが大事に思われている証拠でもあるので、その部分はぐっと飲みこむことにした。
「あら、流石この地区第2位の貢献度のチャレンジャーさんね。人格もずいぶんとできているわね。
不明な仕事が多いけど、寄付金も奉仕活動もばっちり。
だからこそ、あなたからの依頼であのアンドロイドの娘を預かるわけにしたけど……。
まぁ、性格はすごくいい娘よね」
「でしょう?だからこそ、あのような器量よしのアンドロイドには、ぜひ自分のような定職のないプータローではなく、是非立派な稼ぎのある富豪のところに仕えてほしいと思ってるのですが」
「あら?私はそんなことはないと思うけど?
それこそ、アンドロイドの1人や2人、囲っていもいいくらい。
それこそ、出会って一日もたたずに、あそこまで慕われているほどなんですもの。
これは運命か何かと思って、お付き合いになられてみたら?」
クソがよ。
「……まぁ、話はそう簡単でないことは私もよく理解しているわよ。
突然なし崩しに契約してしまったアンドロイドの厄介さ、危険さは私も十分味わったことがあるもの。
特に野良のアンドロイドなんて、どのようなウィルスや地雷が仕込まれているか、わからないものね」
しかしながら、この翡翠女氏は、先ほどのアンドロイドよりは、それなりに交渉できる方のようだ。
そうだ、そもそも野良で経歴不明で、どんな厄ネタを抱えているかわからない所属不明の地雷機械娘など、普通の人間は手元に起きたくないのだ。
ましてやそれが、自分からはサイボーグ判定が出たり、出会い自体がこちらにホーミングしてきたなどの二重の厄を抱えているのなら、なおさらだ。
だからこそ、それらを言い訳にうまく彼女をここに押し込められないかと、思い口を開こうとするも、それより先に、彼女からいくつかの資料を渡されてしまった。
「ですので、私達の方で調べておいたわ。
これは、私の信頼できるとある機関に調べてもらった、あのアンドロイドの身体や電子の精密データよ」
恐る恐るその渡された資料を見ると、そこにはあの角付きアンドロイド兼サイボーグについての詳細な検査データで記載されていた。
残念ながら製造元や前の所有者については不明であるが、電脳の損耗具合や体のコンディション、暴走の危険性や耐久年数。
内蔵ソフトやレア電子ウィルス感染の有無まで。
すくなくとも、安いとは言えない程度にはカネをかけて調べてくれたのがよくわかる検査データであった。
「ああ、もちろん料金はお気になさらないで。
この検査費はすでに、彼女からいただいておりますので」
そして、追い打ちをかけてくる。
「えぇ、えぇ、これを見てもらえばわかると思いますが、彼女は出身こそ不明ですが、共に暮らすパートナーアンドロイドとしてはかなり高性能、かつ無害。
電脳状態も良好で、パーツもかなりのものが新品。
少なくとも、二重の意味で新品同様。
電子データや体的には誰かのお手付きではないわよ」
むしろあったほうが、ワンちゃん返却や危険物扱いで手放せる可能性があったのに。
「これならば、まぁ確かに彼女が経歴が不明でも、とりあえず、手元に置いてみて使い心地を確かめる。
……そのくらいは確かめてみてもいいんじゃないのかしら?」
彼女は、そういうとともに右手の人差し指と親指で輪を作り、その輪に左手の人差し指を挿入する。
実に酷いジェスチャー、頭が痛くなる。
思わずセクハラ返しでもしたやろうかとも思ったが、全身ロリのサイボーグ相手にそんなことを言うと、どんな目に合うかわからないのでここはぐっと我慢する。
「なんなら、私が2人ともレッスンしてあげようかしら?
恋のキューピッド(物理)とか」
「びっくりするほど汚いのでやめてください」
「あら、処女がお好み?
なら、始まる前に膜機能付きのに換装しておいてあげるわよ」
ほらね。
しかしながら、このままではずるずると彼女に会話のペースを握られてしまう。
いや、すでに実際握られているだろうし、このままでは遠くいないうちにそれとなく彼女を私のもとに正式に雇わせる。
そういう風なこともできるのであろう。
しかしながら、それと同時に思うのだ。
なぜここまでして、彼女は私にあの角付を引き取らせようとするのかを。
だからこそ私はそのことを彼女に聞いてみたところ、彼女はこう答えたのであった。
「あら、この薔薇園の主として、ここに来たアンドロイドは、是非主人へと尽くす幸せを全力で噛みしめてほしい。
それをかなえるのが私の
と。
どうやらこれは、なかなか厳しい交渉になりそうである。
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