不労所得は最高ZOY!
さて、とりあえず端末による件のアンドロイド兼サイボーグもどきのチェックによりいくつかわかったことがある。
それは、彼女は少なくとも表面上は、本当に私保有のアンドロイドになっていると言うことだ。
彼女の内部データとして存在しているはずの、仕様書というか設計書は、まぁ結構アンダーグラウンドなものであり、あまり参考できるものではなかったが、それでもアンドロイドとしての機能チェックはすべて問題ないことは確認できた。
人工臓器や自動修復機能に問題はなく、アンドロイド電脳と体との接続も問題ない。なんなら、ギルドにあった端末の汎用アンドロイドチェックソフトでも、問題なくOKが出る程度にはきちんとしたアンドロイドであった。
「ふぁふぁふぁ、ふぁっふぁっふぁふぇふぇふぇふぃふぃふぃふぃ!」
「はいはい、俺が悪かったから、悪かったから。
ほれ、次は何を食べる?
こっちの、ヒレカツ定食でも食べるか?
ここのヒレカツは、豚肉は入ってないがそれなりにおいしいぞ、俺もお気に入りだ。
……いや、でもアンドロイド味覚的には微妙とか言われていた気もするが」
「ふぁふぁふぁ!」
「あ、食べるのね。
OKOK。追加の注文だ」
現在場所はチャレンジャーズ・ギルド・カフェ。
仕事の合間によるカフェと称しながら、容赦なく甘味から酒、オイルから合法電子ドラッグまで幅広いラインナップがそろっている。
さて、現在先ほど勝手に検査したお詫びに、このアンドロイドに好きなものを食べさせているわけだが、このアンドロイドを見て改めて思う。
結局、この目の前でドカ食いする謎のサイボーグ風アンドロイドが、どのように私から口頭契約を結んだ事にしたのか?
幸か不幸か、主従関係こそ割とオーソドックスなものであった。彼女がこちらを殺せないやらいくつかのパワーリミッターがついたり、守秘義務や行動を守らせたりできるというものだ。
だが、厄介なのは、彼女は結局の過去の主人に関するデータはきちんと消去済みであり、契約は基本、両者が生きている間は有効で、契約解除には両者の同意が必要だということだ。
「ふぁふぁふぃんふぁふぁ、ふぁふぇふ?」
「いや、そのパフェはアンドロイド用のだから。
人間でも食えると書いてるが、正直只の人間の俺からしたら、オイル臭くて喰えたもんじゃないからな。
全部お前の方で処分しろ」
「ふぁ~ふぃ!」
しかしそれは、逆に言えば縛りはそのくらいしか無い、一般的アンドロイドと比較すれば、かなり粗雑で彼女に有利な契約であることは間違いないはずだ。
かくして私は迷った。確かに彼女は、今の電子データとしては私の所有物である。
しかしまぁ、それでも彼女はマジでどことも知れぬ出身不明のアンドロイドであるし、その上、個人的にはまだまだこいつが実はサイボーグであるという認識は捨てていない。
「すくなくとも、今までこの眼で、見間違えたことはないはず……だからなぁ」
「ふぁふぁ?」
少なくとも、自分の作ったこの【義眼】は既存の機械類よりもはるかに高性能で、正確なもののはずだ。
もっとも、この眼で出てくる解析結果は、あくまで総合判断とか蓄積されたデータとか、結構あいまいなパラメータで判断している仕組みなので、どこまで正しいか怪しいのだが。
自分の手造り機械ながら、仕様が大雑把すぎるッピ!
「……あ、ようやく食べ終わった?」
「はい!まだまだ食べれますが、これで許してあげます!
ごちそうさまでした!」
無数の山積みになった皿を尻目に、明らかに物理容量を超えて飲食できているそのスーパーボディに戦慄する。
どうやら彼女は本当の意味で高級アンドロイドのようだ。
軍用なら、低燃費高機動と決まっているが、彼女は真の意味でクソ燃費のようだ。
アンドロイドに無駄にこれだけ、飲食できる機能を付けたうえで、味覚も完備とか、どう考えても金持ちの気まぐれです。本当にありがとうございました。
「というわけで、こちらもようやく君に対する処分が決まったぞ」
「あ!ようやくですか!?
ふふふ!私、こう見えても超高性能アンドロイドなんです!!
もっと、かまってくれてもいいんですよ!」
「というわけで、住み込みで、素人アンドロイドでもできる仕事探してきたから。
今日からお前は、この仕事を頑張れよ」
「え」
◆◇◆◇
『……と、いうことがあったのさ』
「へぇ……それはそれは、なかなかに災難でしたね」
かくして、時間はさらに進み、件のアンドロイドモドキ強制契約事件から早数日後。現在私は、チャレンジー業の一環で、自宅近くにある『十三地区立光王大中高学校』、その校門前に仕事でやってきていた。
『まぁ、いくら身元不明で、強制契約みたいなことをさせられたとはいえ、女の子にひどいことするのはこちらとしても、不本意だからね。
だからまぁ、次の引き取り手が来るまでの間は安全な奉公先を紹介してあげたのさ』
「相変わらず、先生は親切なような、厳しいような、よくわからない人ですね。
……それで、きちんと働く先は吟味したんですか?」
『もちろん、ここ十三地区にあるカブ農場だな。
あそこなら従業員も雇われアンドロイドばかりだし、問題ないだろ』
「ああ、それは恐らく……ヒスイさんのところか。
たしかに、あそこは安全面や待遇という意味ではかなり、マシなことで有名ですね。
熱心なアンドロイド人権家とも聞いてるし」
さて、今現在自分と会話しているのは、この光王大中高学校の生徒会員執行部。名前は何だったか、たしかコティなんとかだったはず。
「コティライネン陽真ですよ。
今まで何度か自己紹介したでしょう?
覚えやすいと評判な名前なのですが、相変わらず先生は覚えてくれませんねぇ」
『いや、この学校、というかこの地区の孤児院出身の子はみんな名前が独特過ぎるんだよ。
むしろ、全員名前がごちゃ混ぜすぎて、覚えにくい』
白髪のイケメン少年が、困り顔を浮かべつつ、まぶしい笑顔でこちらに向ける。
線が細く、色素の薄い肌に赤色の目がよく映える。
相も変わらず、薄幸そうな、実に女性受けをしそうな顔つきをしている男だ。
こんなのなのに、戦闘でも強いっていうのは、天は二物も三物も与え過ぎである。
「ところで、件のアンドロイドは、聞いたところ、若い女性的人格を持っているみたいに聞こえますね。
先生さえよければ、ボクが協力して、彼女をこの学校の生徒として、入学させていもいいんだけどさ」
『いやいや、それに関しては遠慮しておく。
なにせ、君に貸しを作るのはいろいろと恐ろしいし……』
そんな会話をしていると、遠くから無数のエンジン音と、爆破音が聞こえてくる。
ラッパや管楽器のチンドン音に、無数の怒号が集まっくる。
校庭にいたわずかな生徒は急いで校舎へと避難し、校門周辺の和やかな雰囲気はすっかり損なわれてしまった。
「シャー―!!!おらぁ!!!
今日こそ、ぶっ潰してやるぞ!!コーコーコーめがぁ!」
「いつもなめやがって、コラァ!
今日こそ、ぶっ飛ばしてやるぞコラァ!!!」
「ヒャッハーー!!
今日の見張りは、優男が一人だけって知ってるんだぜ!!!
今日こそ、年貢の納め時だぁ!」
そうして現れたのは、無数のチンピラどもだ。
大体は人間ではあるが、あるものは体の一部が欠損しており、またある者はむしろ体が大きく、なぜか一様に多いモヒカンヘアーやら、破けた衣装、釘バットにパイプ銃など。いわゆる掃き溜めとか、不良とか、ツッパリとか、そんな言葉が似合いそうな集団がそこにはいたのであった。
『こんなクソみたいな治安の学校に、あんな精神一般人以下のお嬢様アンドロイドを放り込むわけにはいかないかなって』
「流石に人の母校を、クソ以下発言はひどくないですか?
……でもま。こんな状態じゃ、否定はできない……ってね」
溜息とともに、陽真がその不良たちに向けて腕を向ける。
すると、その指の先、不良たちが、その武器を構えるよりも先に吹き飛んだのであった。
そうだ、このコティライネン陽真は、いわゆる高レベル重粒子感応金属適性持ち。
この世界的には、超能力者といわれる少年である。
「ぎゃ、ぎゃああぁぁあ!
名乗り上げ前に不意打ちは卑怯だぞ!!!!」
「てめぇ、覚悟できているのかコラァ!!」
「おっと、すまないね。でも学校間協定では、アンブッシュは1回まで有効なはずだ。
さて、ではあらためて、光王大中高学校生徒会執行部コティライネン陽真。
学校間協定により、君たちを成敗する」
「ザッケンナこらーーー!!!」
「お前ら、さっさと起きろやぁ!
数はこっちが勝っているんだ!!あのもやしを、袋にするぞぉ!」
自分から協定を上げておいて、名乗りを上げずその不良は陽真を囲んで襲おうとする。
が、残念ながら、初めの一撃ですでに大勢は決しているのであろう。
怪我でまともに動けないその不良性共を、陽真少年が超能力入りで殴り、あるいは蹴りとばす。その念動力入りのキックに触れたナイフや銃器が紙屑の様に丸み端折り、その所有者は地面や床に叩きつけられる。
この様子なら自分の出る幕もないかも……と思ったが、残念ながらそんなこともないようだ。
「……ちっくしょう、ならばせめて道ずれを……あが、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「っな!そのドローン、まさか動くのか!!」
「てめぇ、部外者の癖にかかわってるんじゃねぇよ!
てめぇの家と家族を、殺されてぇのか?」
「協定破りだぞぉ!!
ポリ公にチクるぞコラァ!」
爆発物を使ってまで道ずれにしようとした不良生徒に、馬鹿なことを止めるために電撃入りのワイヤーアンカーを叩き込む。
それに対して一部不良生たちが、激怒し、あるいは協定や官兵の武力を盾にこちらを批難しようとするが……。
『悪いがこちらは、ドローンとはいえ非常勤講師兼用務員だ。
規則破りの生徒や、ごみ掃除くらい手伝う権限は持っているさ』
「……な!そんな詭弁……」
「おっと、よそ見はいけないね。
もっとも、君が最後だけど」
かくして、その最後までたっていたリーダーと思われるサイボーグ不良に向かって、陽真が指を向ける。
それとともにその巨漢のサイボーグは、汚い悲鳴とともに空に舞い上がるのでした。
『はい、というわけで、無力化処理と簡単な治療もおわり。
これで、今日の依頼も達成ということでよろしいかな?』
「はい、ありがとうございます。
テレス先生。おかげで今日もこの学校を守れましたよ」
『いやいや、私もこの地区に住む一住人としてね。
地区の平和に貢献できて何よりだよ』
さて、かくして不良鎮圧後。
私はその不良生徒を、教師として無事に保護及び拘束をすることに成功。
教員権限により、不良生徒の危険なサイボーグパーツを外したり、武器を没収したり、そのための書類を作成したりいろいろめんどくさいことはした。
それでも、これで今日の仕事が終わりだと考えれば、その苦労は報われるものだ。
そもそもこの作業は、このドローンで半自動でできるようにしているから言うほど苦労もしていないけどな!
本体というか、体自体は自宅であり、この仕事自体もながら作業だ。
リモートワーク、機械化、全自動、なんと素晴らしい言葉であることか!
『ま、これも十三地区ギルドからの正式な依頼でもあるからね。
それにだ、ここで私がきっちり働いたことは……』
「もちろん、先生の活躍や働きはきっちり、ギルドのほうに連絡言えておきますよ。
それこそ、次回もまたこの依頼を受けてもらうためにも」
『よし!』
そうだ、私がこの十三地区で仕事をし、こんな変なことをしているのは単に労働環境的に過ごしやすいからだ。そこそこ慣れて、ある程度自由の利くチャレンジャー・ギルドとの関係。場合によっては、ドローンという【遠隔操縦機械】を飛ばすだけでも許されるほどの緩い仕事規則。さらにはこのクソったれサイバーパンクな世界にあるまじき、そこそこ平和な近所事情と治安!なんなら、引きこもりのプータローでもちょっとした転生チートだけで小銭稼ぎ生活を続けられ、平和な生活を続けられるのは私にとってまさにベストプレイスといえるのだろう。
『しかしだ、治安がいいのとは引き換えに、近所評判が悪いと、納税者でも追い出されるのはこの地区の悪いところだと思うの』
「でも、その決まりがないと、この地区の治安は維持できないと思うよ?先生?」
『いやぁまぁ、そりゃぁそうだけどさぁ』
思わずマイクを通して愚痴が漏れたその不良生徒捕獲用ドローンに、陽真少年がこつんと拳を当ててくる。
「というか、そんなに評判云々言うなら、テレス先生もギルドからの非常勤じゃなくて、正式な教師として働けばいいのに。
大丈夫だよ、テレス先生の人望と今までの評判なら、この学校で正式に教師を始めても、みんな受け入れてくれると思うよ」
『いや、こんな教師が校長以外、全員退職済みの学校とか絶対に就職したくないわ。
なんなら生身じゃ絶対に近づかない。
いまだって、ドローン越しだから耐えられるけど、こんなの人間の働く場所じゃねぇよ』
「デスヨネー」
そして、私はドローンを持ち場に戻しながら、ゆっくりとドローンとの切断を遮断。その日の仕事をゆっくりと終えるのでした。
◆◇◆◇
なお、数週間後
「ごめん、いろいろ失礼なのは承知だけど、先生が引き取ったと思われるアンドロイドについて、調べてみたんだ。
でも、そこだとなぜかそのアンドロイドは【悪い男に騙されて、農場送りにさせられたかわいそうなアンドロイド少女】扱いされているから、このままだと主人である先生がワンちゃんこの地区から立ち退き命令食らうかもよ?」
『え』
さもあらん。
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