子は宝

突然現れた捨て子。

というには少々、大きすぎる少女たち。

顔立ちはかなり整っており、髪の色は奇抜な色をしているがそれでも天然もの。

額に手を近づけると感じることができる、ESP持ち特有の精神波。

これほどの逸材であるのに、こちらに対して一切の警戒を示さず素直。

衣服や体表面こそ汚れているが、体調は健康そのもの。

身体能力も高く、サイボーグ改造も最低限。

電脳化のみおそらくは最高位の改造をしているがそれだけ。


「どうみても、デザインチャイルドだなこいつらは」


「はぁ、綺麗でカワイイ~!!」

「お人形さんみたい、いや、人形なんか比べ物にならない!」


目の前で複数のアンドロイドメイド達にご奉仕されているその捨て子達を見つつ、彼女たちの様子を改めて確認する。

デザインチャイルド。

それはこの世界における、出産の一つの形。

あらかじめ、遺伝子や子宮、精子をいじることで親が望む形の子供を創り出す出産形態の一つ。

一昔前や元の世界ならそれなりに物議をかもしそうな出産方法だが、超能力による遺伝病や汚染された鉱毒による公害病が無数に発生したことによりこの出産方法は一気に一般化。

今ではそれなりに珍しくもない出産方法の一つである。


「……にしても、このタイプは……明らかにやり過ぎなタイプだな」


髪型や服装をいじられている件の捨て子の特徴、あの2人は明らかにいろいろと恵まれ過ぎていた。

まずはその容姿、顔や体系がある程度整っていながらも人口のものとはわかりにくい程度には整えており、それなのに髪色は赤と青の彩色という自然出産ではありえない髪色。

さらには、身体能力も軽く調べたところかなり高く、平均女児のそれよりも運動面も感覚面も頭脳面もそれなり以上。

そんな凡そどれも整えられているのに、微弱ながら超能力持ちなうえに電脳処理済みときたものだ。

どう考えても、いいところの娘とか、超高レートなデザインチャイルドであることは確定だ。


「……まぁ、絶対ただの捨て子じゃねぇよなぁ」


「そうなんですか?

 確かにあの娘達、とってもかわいいですけど、それだけで特別っていうのはおかしくないですか?」


どう見ても厄介ごと確定な双子に注視していると、コノミが不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。


「なら、おまえ。

 突然ある日、超絶可愛い女の子が、記憶喪失の状態であなたのものになります。

 そんな都合のいいことが、早々起こると思うか?」


「ん~?私は半分くらい記憶喪失だから、よくわかりませんが、私もそうでしたし、そういうことはよくあることなのでは?」


「あってたまるかよ」


元天然物の美少女現天然アンドロイドモドキの額を指でつつきつつ、手に持つセンサーを確認する。

目の前にいる2人の双子、一応は十三地区の自治体で身元を確認してもたったが、どうやら該当の子供はなし。

おそらくは地区外か地下外出身と考えられる。

つまりこれは、身元不明の美少女の双子がある日いきなり自分の子供になりに来たと。

いったいどこのノベルゲームかな?

絶対怪しい罠か何かだろ。


「とりあえず、あの双子をここに放置した何がしらを探索するぞ。

 守衛メイド隊とメガネ……いや、犬耳メイド隊は準備をしろ。

 捨て子をどうするかはともかく、捨て主を探さなきゃならんからな」


そうして、自分はこの怪しい双子をここに放置した何かを探索することにして……。






「……おそらく、が元あの2人の両親と思われる何かですね」


十三地区と世界通りの間の地下街。

そこで見つかったのは、自生する暴走自動機械につぶされたアンドロイド鉄くずであった。



◆◇◆◇



「はえー、そんなことがあったんやなぁ」


「……」


というわけで、以上のことをすべて件の捨て子の双子へと伝えてみた。

アンドロイドとはいえ、人死が関わっているため、それをこんな無垢そうな子達に伝えるのはやや酷かもしれない。

が、それでも彼女たちには自分の状態を正しく認知してもらう必要があるため、自分は心を鬼にして、彼女たちの状態や自分たちの状態について詳しく説明してみたわけだ。


「つまり、うちらは実はすごいスーパーな子供たちで、めちゃくちゃ裕福なところの子供かもしれない。

 でも、なにかしらの陰謀で、うちらはパパのところに預けられる、親子になるってことやな?」


「まぁ、そういうことになるな。

 いや、親子になるかはわからないけど」


「えええぇぇええええ!!!!」


しかしながら、その反応に対してはある意味では対照的ではあった。

赤い髪をしたほうの子は、事実を正しく認識しながらも、ややあっけらかんとした反応。


「……えっと、その、それじゃぁ、私達はほとんど記憶がなくて……。

 でも、パパが、パパだってことしかわからなくて……」


たいして、青い髪のほうはやや陰鬱な、おどおどとしながら彼女自身の状況を話してくれた。

ある意味では彼女のほうが、正しく状況を理解しているようだ。


「俺を勝手にパパだと思っているのは多分、刷り込みとかそういう類だろうな。

 一部のデザインベビーの初期プログラムとか、アンドロイドプログラムの一部にある。

 ……つまり、君たちから見れば、俺は父親のように感じているかもしれない。

 が、俺からしたら、突然こちらの子供を自称する何かが急に現れたというわけだ」


「ひぅ!」


自分の発言に青髪の子は身を縮こませ、おびえてしまう。

記憶もなく、頼るべき親に拒絶される恐怖を感じているのだろう。

その様子に庇護欲や申し訳なさが、わずかに湧く。

それと同時に、こちらは完全にもらい事故なのに、なぜこんな目に合わねばならんという怒りもふつふつと湧いてくる。


「え~、でも、うちらカワイイやろ?

 パパも、こんなかわいい子が急に娘になってうれしいやろ?

 しかも今なら2人!お得やで!」


「なぁ、それはここにいる無数のメイド達を見ても同じことがいえるか?」


「つまり、うちらにもメイド服を着て、双子義娘メイドになれと!?」


「流石に、その発想はなかったわ」


対して、こちらの赤髪の娘はこの状況になっても、依然元気で明るい。

こちらの威圧に対しても、まるで聞いていないかのようにぐいぐいと距離を詰めてくる。

これはこの娘がとんでもないあほなのかとも思ったが、会話をしてみるにどうやら、そうではなさそうだと理解できる。

それは、まるでこちらの心やある程度の考えを理解しているかのような……。


「……あ~、これは、読心系。

 いや、読脳系の超能力持ち、か」


「あったり~!

 もっとも、うちが分かるのは、相手の大雑把な印象とか!

 良い人か悪い人か、嘘ついてるかいないか程度やけどな!」


赤髪の娘は、笑顔で自分の超能力を紹介してくれる。

彼女曰く、彼女は生まれついて相手の心や考えをまるで色やオーラのように見えるそうだ。

だからこそ、彼女は相手の考えまでは読めないが、少なくともこちらが彼女たちを真の意味で害を与える存在かや、騙そうとしているか程度はわかるらしい。


「まぁ、うちもなんでこんな超能力があるかとか?

 そもそもの自分の心まではわからんけど、パパがこちらを虐めたり、ひどいことをするような存在じゃないくらいはわかるんやで~♪」


「なら、その超能力は欠陥だな。

 それに対読心用対策は日頃からしているから、多分それは間違いだぞ」


「えぇ~?うっそだぁ。

 うちの心眼は、そう簡単に欺けへんで!」


赤髪の娘はポーズをつけながら、そう高らかに宣言する。

もっとも彼女が精神に作用する超能力持ちであることは、おそらくは真実であろう。

実際に、彼女から発する精神波はコノミクラスを超え、それ以上の癒しや安らぎの精神波や共感性を発生している。

おそらくはもし自分が何も知らない孤独な老人ならそれだけで彼女に魅了されてしまう程度には、魅力的であり、強力な精神波を感じることができた。


「……」


実際に、彼女の自称双子の妹であるはずの青髪の妹は、そんな赤髪の彼女の精神波に当てられて魅了されているのが分かる。

まぁ、魅了という見惚れているというか、誘惑以上洗脳未満といった印象だ。


「で、結局お前らは勝手に俺の養子にさせられそうになっているけど、それに対して思うところは?」


「うちは全然問題あらへんで!

 普通にいい人そうだし!お金持ちそうやし!」


「わ、わたしも、お姉ちゃんが一緒なら……」


そして、彼女たちの現在の意思を確認してみるも、どうやら彼女たちはこちらの養子になるという意思はそれなりに強そうだ。

もっとも、こちらとしてはまだ子供を持つよ云うほどの年齢でもないし、ただでさえメイドがたくさんいるのに、コノミまでいるのにこれ以上の荷物はお背負いたくない。

そして、そもそもの彼女たちの状況を考えると……。


「……とりあえず、養子にするかどうかの前に、全身の精密検査や身体治療を受けてもらう。

 それで構わないか?」


「つまり、それはうちらはその治療を受ければ、ワンちゃんパパの娘になれるかもしれない。

 と、言う事でええんやな?」


「……まぁ、何の問題もなかったらな」


かくして、自称娘を名乗る双子はメイドサン=カンパニーにある集中治療室にて、精密検査と治療を受けることになるのでした。



◆◇◆◇



そして、数日後。



「で、思い出した?」


「……はい、私達は、新機教からのスパイです。

 ごめんなさい」


「……オトンオトンオトン。

 オカンオカンオカンオカン」


そこには治療により記憶を取り戻したことで、死んだ目で自分の状況を話し青髪の娘と、亡き両親への思いをうわごとのようにつぶやく赤い髪の娘がそこにいたのでした。





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