圧倒的豪遊!!
さて、ギルドナンバーワンの貸を返し、件のやくざを雇ってからしばらく後。
当初は他の組織からの関係も深い人物と聞いて、どこから襲われるかと冷や冷やしたが、そんなこともなく時間は経過。
ときおり、元彼現在彼女の知り合いが冷やかしやいびり目的で現れることはあっても、救出や交渉目的でやってくるような事態はなく。
おおむね平和に時間は過ぎていった。
「と、いうわけで、めんどくさいことになった」
「今の話のどのへんにめんどくさい要素が?」
久しぶりに、自宅でゆっくりしながら、コノミの横でお茶をすする。
お茶の味はまずまず、そもそも促進穀物の失敗作を無理やり乾燥させただけのなんちゃって麦茶なため、これでもうまいほうか。
「いやさ、当初はな。
もっとこう、厄介ごとが怒ると思ったんだよ。
元やくざの息子、他地域ともつながりがある。
反骨心も強い、これは何か起きるなぁと思っていたわけよ」
「はぁ」
気のない返事をコノミがする。
ズズズと湯飲みに残ったお茶を飲む。
「だからこそ、こちらは当初、それに対応した準備をしていたわけだ。
いざというときの武装メイドとそのための武器。
工場の要塞化に、メディカルマシーンの設置。
なによりも、いざというときのための損失を見据えた大量販路に大量販売。
最悪、第二工場が巨大な爆弾でぶっ飛ばされても、金銭的損失は抑えられる。
そういうちょっとした無茶もしたわけだ」
「はえー、流石ご主人様」
コノミはそんなことを言いながら、こちらの殻になった湯飲みに追加のお茶を注いでくれる。
残念ながら、茶柱は立っていないが、それでもなんちゃって茶葉や麦殻が見た目にもお茶をのんでいる感じがして、少し心が安らぐ。
「でも、なんも起きなかったんだよ」
「はぁ」
「武器も、装備も、金も、全部揃えたのに、何も起きかなったんだよ」
「はぁ」
「ついでに、クソみたいに短期間で、たくさんの儲けを出しちゃったわけなんだよ」
「はぉ」
「……で、どうしようか?」
「いや、どうするも何も、普通にそれはいいことなんじゃないんですか??」
コノミは、こてんと首をかしげながら、不思議そうな顔でこちらを見つける。
いや、コノミの言う事ももっともである。
何か起きることを前提に動いたら結局何も起きず、そして純粋に備蓄と武装と金が残る。
実にいいことなのである。
「でも、これは俺としては普通に困るんだよ。
いやさ、そもそも、俺自身はこのメイドカンパニーってあんまり大きくしたくないのが本音だ。
それなのに短期間にこんなに金を集めて、武装を集めて、どう考えても備蓄過剰だろ?
地区全体や地区時自体代表からは、もっとその金を放出しろやら事業拡大しろって言われるのは目に見えているからなぁ」
「?????」
なんもわかんないって顔してやがるな?
「もうけ過ぎたせいで、今年クソみたいに所得税とられるから、税金でそこまでとられたくないから、何かしらの形で散財したい」
「なるほど!」
いやまぁ、全然違うんだけどね?
このサイサカでは、労働者組合の所属や税金も地区ごとでばらばらだし。
そのくせ、税金やらのシステムも十三地区だと自治体からの徴収性って感じだし。
でも、納得してくれるならそれでよし。
「なら、ご主人様がそのお金で好きに散財すればいいのでは?
たとえば、旅行とか!かっこいい芸術品を買うとか!」
「は?何馬鹿なことを言ってるんだ?
会社の金でそんなことできるわけないだろ」
「あっ、はい」
常識で考えてもろて?
まぁ、そんな冗談という名の正論はさておき、それで解決できるならそれで終わらせているのだ。
そもそもこのメイドカンパニーは外部からの雇いメイドを除けば、基本元犯罪者みたいな電脳奴隷モドキを複数雇っているわけだ。
だからまぁ、給料で還元というわけにもため、社内設備への投資も大体終えている。
社員旅行やらはこのクソ忙しい時期に連発するわけにはいかないし、新事業への投資や事業拡大も知名度や事業拡大になるためNG。
せいぜいできることは、社長の給料をクソみたいに増やしたりする程度だが……いや、別にそんなものいらないし、金より時間が欲しい。
「めんどくさいから、メイドカンパニー丸ごとどこかに売却しようかなぁ……」
「それ、無知な私でもダメだってわかりますからね?
絶対問題が出るからやめてくださいね?」
まぁ、もちろんそんなことはしない。
そもそもあのメイドボディをつくったのが自分なせいで、下手にメイドカンパニーをメイド事買い取られると、自分の技術力が他にばれすぎてしまう可能性があるからだ。
つまりはあとくされなく、誰からも文句を言われずにいい感じに金を無駄遣いする方法を模索しているわけだが……。
「私にいい考えがあります!」
そんな方法に対して、コノミがいい笑顔で方法を提示する。
彼女の何も考えていない笑顔に、一抹の不安を感じながらもせかっくだからとその方法を採用するのでした。
◆◇◆◇
「は~い、無料のサイボーグ用潤滑油交換所はここですよ~。
ちょっとしたアンケートと検査を受けてもらうだけで、今なら高級潤滑油を安全に手に入れることができます!」
「試食件配給の時期だぞ!
ホカホカのコンソメスープ風味の兼用飯!
サイボーグもアンドロイドも食えるタイプだからって、そんなに焦って並ぶな!
量なら十分にあるから」
十三自治区の新地区、元世界通と十三地区の中間地に位置するその場所。
そこでは現在無数のメイド達が、活動していた。
ある者は鍋をかきまぜ、ある者は機材を調整し、ある者は銃を構える。
「しゅ、しゅまんねぇ、う、腕が震えて……。
あ、眼もかすんでいて……」
「げ、これ、髄液系循環油のフィルターが、18年前のじゃないですか!
しかも一回も変えていないとか!
とりあえず、替えのフィルターは用意しますが、これがおわったら、最寄りの病院に行ってくださいよ?はい、これ紹介状」
「ぶひーぶひー、ひ、久しぶりに人間ちゃんと触れ合える……。
あぁ、俺を奴隷に、いや椅子にしてくれ!」
「ったく、全然元気そうじゃねぇか!
おら、これで健康診断は終わり!さっさと他様に迷惑かける前に帰りな」
無料の仮診療所はかなり盛況。
はじめは、こういうのは医療やらメンテナンスアレルギーの人が多いから人気が出ないだろうと思ったが予想よりも大盛況。
なんならナース服メイドさんにやさしくされるというのは、サイボーグアンドロイド共に一定の需要があるようだ。
もはや健康な人も普通来ているレベルだ。
「だ、か、ら!
一人一杯までって言ってるだろ!
久しぶりの味がする飯だっていうのはわかるが、そんなにがっつくな!」
「え?動けない家族のため?証拠写真付き?
……しゃ~ね~な。ほら、一杯だけだぞ。
帰り道は気をつけろよ」
そして、無料の配給飯に関してはこちらの予想通り。
あんまりうますぎるのもと思って、最低限の味と熱感程度にしたが、それでも市販の安いサイボーグ飯よりはおいしいからな。
一応暴走禁止のために、サイボーグ食直接摂取しないと味や熱感を感じられないようにしたのに、残り香を求めて、周囲の土を喰うバカが複数発見できるレベルだ。
「ひゃっは~!!高性能なメイドサイボーグだぁ!
壊して、バラして、闇市で売ってやるぜぇ」
「お前を殺して私がメイドになる!
しねぇ!」
というかむしろバカの割合もかなり多いレベルだ。
まぁこれは今自分たちがボランティアしている場所が地区移転したばかりで浮浪者やならず者が多いことや、見た目だけはいいサイボーグやらアンドロイドがそろっているという点が大きい。
自作の銃やら壊れかけのサイボーグパーツ備え付きの武器を振り回しながらメイド集団やら配給に突っ込んでいく無法者たち。
「きやがったな!おらぁ!」
「はいはい、悪いサイボーグさんはここでメンテナンスされちゃいましょうね~♪」
そして、それらを武装メイド達がきっちりとお掃除する。
一応今回は名目上は奉仕活動やら新商品の実験のため、殺しはしないしメイド改造もしない。
が、それでもこういう輩にはそれなりに痛い目を見てもらうことは忘れない。
「つまりはボランティアか。
うむうむ、なかなかいい散財の仕方じゃないか?」
隣で、見張りのために来たワーグがうむうむうと相槌をうつ。
というわけで、手軽でそこそこな散財方法として、ボランティアを選んだというわけだ。
幸い、今の自分たちにはそれなりの人員も無駄な資材も多くあるため、奉仕活動と称してこういうことをする余裕は十分にある。
これなら、十三地区全体から貢献度とは別に、純粋な意味での貢献やら味方意識を高めることができるし、無駄に金銭や武器をため込んでいるわけではないという言い訳もたつ。
ついでに、アンドロイド系メイド達のガス抜きや周辺の治安維持貢献もできると、なかなかに賢い選択であると云えよう。
まぁ、コノミが考えたにしては悪くない案なんじゃないか?
「実際悪い行いではないと思うぞ。
こうして我も積極的に見守りたくなる程度には、好感を持てる行いではあるな。
それに、十三地区の各自治体長もこういうことをしてくれるならと、余計な負担はかけにくくなるだろう」
さらっと聞き流しそうになったが、ワーグ曰く件の十三地区各自治体長はただでさえ工場の建設ラッシュやら製造ラッシュをしている最中なのに、このボランティア活動がなければさらに別の負担をかけるつもりだったらしい。
なんだこれ、フリーの時と違って遠慮がなさすぎでは?
「そこはまぁ、良くも悪くもお主の素性がある程度明らかになったからだろうな。
それに、戦力も思ったよりある上に性根は善寄りだとわかっておる。
負担をかけていいラインといけないラインが分かってきたのだろうな」
まぁ、言われてみればさもあらんといった回答だ。
そもそもこちらは、こういうことを含め厄介ごとが来ないようにできるだけこの十三地区に所属後、できるだけ静かにしていたのだ。
それなのにコノミの一連の騒動から十三地区の地区運営にドンドンと関わることになり。
現在では工場を複数持ち、十三地区のためにこんなボランティア活動までしている始末だ。
金銭的や技術的に困難というわけではないが、ちょっと思うところがないわけではない。
「というか、流石に移住件や不動産の権利を握られているとはいえ、十三地区の運営側にちょっといいように使われすぎているかなぁって。
最近思わないでもないけど、ワーグさん的にはどう?」
「まぁ、実際お主は結構なめられているとは思うぞ。
別にこれは武力やら技術力の話ではない。
単純な、性根の問題だな」
ワーグがその鉄でできた尻尾をぺしぺしと地面にたたきつけながら、そう評価してくれる。
聞くところによると、今の自分は十三地区運営からは降ってわいた幸運とかお人よし的な感じで扱われすぎているらしい。
もっとも、それでこちらが崩れたりしたら止める程度に良識はあるが、それでも工場運営やらを見るに問題なく活動できていそうなので、なら問題ないかなといった感じで流されてしまっているそうだ。
「だからこそ、お主はそろそろ、単純な武力や技術力ではない。
もっと根幹的な部分で、お主は危険だということを十三地区にわからせなければ、これからますます負担が増すことになるぞ?
それこそ、倒れるぎりぎりまで、な」
「そうなったら、十三地区の各自治体に対してクーデター起こすわ。
その時協力してくれない?」
「お主が、そうならないためにも我が警告してやっているのだがなぁ」
ワーグがはぁと小さな火花とともに溜息を吐く。
「でもま、お主はこれからいろいろ、上に立つものとしての威圧やらを考えたほうがいいと思うぞ。
それこそ、瞬間的交渉はうまいがそのための戦略がおざなりだから、な」
「へいへい」
かくして私はワーグのその言葉を心に刻みながら、メイドや浮浪者たちの戯れを眺めているのでした。
◇◆◇◆
なお、後日。
【ESP病にかかり、記憶も失ってしまい、私達ではこれ以上育てきれません。
ここなら、無理なく彼女たちを育ててくれると判断しました。
どうか、悪い子ではないので、養子として育てていただけると幸いです】
「おねえちゃん、ここどこ~?」
「さっぱりわからんな~。
でも、ここにいたら、お父ちゃんが来てくれるらしいで!」
かくして、ボランティアのしすぎか、こちらのメイドカンパニーが舐められすぎた結果か。
なぜか、自分達相手に記憶喪失の捨て子が押し付けられるという実にめんどくさい事態に発展しましたとさ。
……厄介ごとの香りしかしねぇ。
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