3章 海回以上お色気回以下

社員旅行


―――少し、頑張りすぎたかもしれん。


ここ最近の私自身の行動を見返す。

コノミ騒動、メガネ団の壊滅、メイド一揆。

どれ一つとってもそれなり以上の活動をし、それなり以上の出費をしてしまった。

一応は、金銭的な収支に関しては+にこそなっているが、それでも苦労と危険に伴うものかと聞かれれば、少し疑問がわく。


―――少し、派手に動きすぎたかもしれん。


そして、最近の自分の起こした騒動を顧みる。

すると、どの騒動もそれなり以上に派手なものばかりであることに気が付く。

何よりも問題なのは、それらの騒動の首謀者が基本的に自分であることがばれているという点だ。

コノミ騒動以前ならば、基本的にどれだけ地味であっても、名誉が傷ついても、出費がかさんでも、自分が一人であったため問題なかった。

が、コノミを抱えて以降は、彼女やその周囲が最低限の被害で済ませるようにしてしまっているため、このざまだ。


―――少し、関わりすぎたかもしれん


なにより、これらの行動すべてがこの十三地区の各団体に関わりすぎてしまったというのが問題だ。

そもそも私がこの地区でチャレンジャーとして生きているのは、新機教という大組織の眼から逃れるためであるからだ。

新機教は、かなり大きな組織だ。

それゆえに、今回のメイド一揆周辺の騒動は、新機教全体から見れば、地球の一都市の一地区で起きただけ程度の騒動故、話題にすらならないはずだ。

が、それでも詳細を探られたら、自分が関わっているという点だけで、問題になりえる。

だからこそ、わざわざ新機教本部のデータベースから、今回の事件のことについて爆破するなんてめんどくさい騒動まで起こしたのだ。


「つまりは、このままだと十三地区全体、いやこの都市そのものが新機教のせいでめんどくさいことになるかもしれないんだよ。

 わかる?」


「はぁ」


娘(仮)であるアカイ姉妹にそう愚痴てみるもいまいち反応が薄い。

むしろ、その視線は何言ってんだコイツといった感じだ。


「何言ってるんや?このパパ」


口に出しやがったなこいつ。


「そこはよくわからなくても、うなずいておけば問題ないんだよ。お姉ちゃん」


「お~、流石アオリは賢いなぁ。

 というわけで、へ~そうなんだ~パパ~」


くっそ、実に相談しがいのない自称娘どもである。

しかも、半端にテレパシーが使えるせいで、マジで聞き流しているのがこっちの脳にまで届いているし。


「わー、すご~い、パパすご~い」


「そうそう、その調子だよお姉ちゃん!

 そこで胸元を見せて!

 そして、パパの手を握って、スカートの中へと導いて!!」


「えっ!?!?」


焦りながらも、こちらの手を握ろうとするアカイに、軽いデコピンを加える。

ついでに、念動による指弾アオリの方の額も小突いておく。


「あうあう……」


「なんで私まで……」


「というか流石に、それでごまかそうとするのはいろいろと無理がないか?」


額を抑えてうずくまる二人に、頬杖を突きながらそうつぶやく。

しかし、それに対してややジト目をしながらアカイがこちらに口を開く。


「……でも、パパ、もしその話に深く踏み込んだら、めんどくさいことになるやろ?」


「うん」


「そもそも、詳しく知られたくないんでしょ?」


「まぁ、そう」


「「なら、そんなめんどくさい話題をふらないで!!」るなや!」


姉妹二人に地味~に責められてしまい、ついでとばかりに二人とじゃれ合うこと少々。

この2人のだいぶ動きから新機教っぽさがなくなってきたことも確認。

おそらくこれなら、変な間違いも起きなさそうだ。


「……ま、前よりも強くなったと思ったのに……」


「ひぃ、ひぃ、で、結局、今回うちらと急に話したくなったのは、どうしてや?」


「いやさ、そろそろ夏だろ?

 そして、それならせっかく通っている学校も、夏休みに入っただろ?」


「あ~、そういえばそうやったな!

 まだまだ、全然通ったきはせぇへんけどなぁ」


「それは仕方ないでしょ。

 まだまだ通ってから数か月だよ?お姉ちゃん。

 なら、まだ教団での電脳教育時間のほうが長いと思うし」


二人から学校での様子や夏休みの予定を聞き出すことにした。


「ふむふむ、了解了解。

 なら、それに合わせて日程を立てておくか」


「ふ~ん、突然うちらからこんな予定を聞き出して……もしかしてデートのお誘いか?」


「それは違うよ!これはきっと、夏のビーチのお誘い!

 美しい海、熱い太陽!

 そして、一夜の禁断の親子の過ち……くぅ~~~!!これだね!」


「あぁ、一応それは部分的にあっているぞ」


「「え!?!?」」


こちらの発言に、思わず赤面して固まる姉妹両名。

何を想像したのか、わたわたと中で手を動かすアカイと、自分の下着を確認するアオリ。

そんな、実におもしろい反応にわずかな笑みを浮かべつつ、自分はこうい言うのであった。


「とりあえず、夏には言ったら、しばらくの骨休みも兼ねて社員旅行に行くからな。

 海か山、どちらに行きたいか、希望を教えてくれ」



◇◆◇◆



「というわけで、うちら姉妹は【山に近い海】がいいって意見を出しておいたで~!

 これなら、どっちの希望もかなえられるやろ!」


「う~ん、このわがまま姉妹」


さて、場所は変わってメイドサンカンパニー談話室。

そこで、アカイ姉妹とマナカナコンビが会話をしていた。


「ところで、あの……その、ちょっとテンの様子が見当たらないんだけど……」


「あぁ~、ごめんなぁ?

 テンは今大事な仕事中やからなぁ。

 ほんまはうちも二人の関係知ってるから、心苦しいんやけど……。

 ホンマごめんなぁ?」


「いやいや、全然大丈夫だよ!

 元気でいるのなら問題ないよ!」


会わせられないことに謝るアカイに、逆に謝り返すマナ。


「ところで、あんなところに、あんな大きさのぬいぐるみあったっけ?

 大きすぎて、人一人くらい入りそうなんだけど……」


「ああ、あのぬいぐるみな?とある実験中だから、むやみに触れたらあかんで?

 触りすぎるとマナちゃんが汚れちゃうかもしれへんからな」


「え?そんなやばい物なの?

 えんがちょえんがちょ!」


マナが近づいた瞬間うごいた気もする謎の巨大ぬいぐるみ。

しかし、それでもアカイがぬいぐるみの危険性を説いた瞬間マナはそこから距離を離す。

そんな不気味なぬいぐるみに対して、警戒の目を向けた瞬間なぜか、ぬいぐるみはさらに反応を示したように感じた。

さすがにこれはおかしいのではと思い、そのことについでマナがアカイに尋ねようとしたが……。


「でも、そんなことよりも、社員旅行についてやで!マナちゃん。

 これを機に、多くのメイドがうちのパパに接近してようとしてるって聞いたで!

 そして、当然、マナもその一人なんやろ!」


「ち、ち、ち、ちがうよ~~!!!

 そんなことない!で、でも、ただ少しでも恩返しと…そ、それと組のみんなのためにも、頑張ろうと思って~~!!」


もっとも、その質問もアカイがマナをからかた瞬間ポンと頭から抜けてしまった。

その後、アカイが笑顔でマナに対して、パパとの関係性やその思いについて聞き、マナはそれを赤面しながら会話する光景が続けられる。

ややひきつった笑いをするアオリ、ニコニコした笑顔で見守るカナ、時々動く巨大ぬいぐるみ。

そんななかなかに狂った光景がしばらく続けられる。


「やっぱり、マナちゃんも水着は買う感じなんか?

 形状は、スクールタイプ?ビキニ?そ、それとも元男だからって、男の子水着を……!?」


「わ、わーわー!な、なんでそんな話になるんだよぉ!」


「そうですよ、それに今回の社員旅行では、水着を買う必要はありませんからね」


そして、話題が水着についてになったとき、カナがその口をようやく開いた。


「え?そうなの?

 それはもしかして……さ、サイボーグだから、裸でも問題ない……ってこと!?」


「ええええぇぇぇぇぇ!!!?!?」


大声を上げて驚くマナ。

もっとも、そもそもその体自体が件のご主人様が製造したものであるため、すでに裸を見られるとかそういう次元ではないのだが、まぁそこは別話なのだろう。


「いえ、そうではなく今回の社員旅行では、基本的に一部の事前登録されたもの以外は持ち込み禁止なんですよ。

 そして、その持ち込み禁止品の中には水着もあるので、事前に買っても意味がないというわけです」


「あ~、なんだぁ、そう言う事かぁ」


テンの説明にややがっかりするアカイ姉妹。

ほっとするマナ。


「でも、そうなると……件の社員旅行で海に行く場合はどうすればいいんや?

 海は泳がず見るだけ……っていうのはさすがに酷やで?

 現地で買わなきゃいけんってことか?」


「あ~、それは多分、あの社員旅行は【電脳リゾート】に行くんじゃないかな?

 電脳体で、仮想空間のリゾートを楽しむ。

 そういう趣だと思うよ」


「で、電脳リゾート?」


不思議そうに首をかしげるアカイに、電脳リゾートについて説明するマナ。

マナ曰く、電脳リゾートとは、文字通り電脳空間にある行楽地の1つであり、高レベルなVR体験により、電脳接続するだけでどこでも誰でも行けるリゾートの1つとのこと。

今の電脳社会において、もっともポピュラーな社員旅行の1つだそうだ。


「まぁ、社員の安全性や公平な娯楽性を求めるなら一番安価で確実だからね。

 ボクも昔、A組のみんなと電脳ハワイに行ったもんだよ。

 ……まぁ、最高でも2級だったけど」


「流石に、1級や特級は予約も費用もばかになりませんからね」


「ハエ~……そんなのが……」


自分の知らない文化にやや驚くアカイとアオリ。

しかし、それと同時に、なぜ先月目立ち過ぎたなどと愚痴りつつも、社員旅行なんては一見派手そうな真似をするのか、それについても疑問も氷解した。


「あぁ!つまり先日どこに行きたいかって質問やおとなしくしたいって発言はこれにつながるんやな!」


「そうだねお姉ちゃん。

 たしかに、話に効く電脳リゾートなら少なくとも体はこっちにあるわけだし、リゾート中は動けない。

 つまりはハプニングが起こる余地はないってことだね」


「それにこういってはちょっと、ネタバレになりますが……。

 実は先日、メイドカンパニーでは大量の電脳接続機器と無数の工場系警備用拠点防衛機械が増産されたので。

 さらには、電脳リゾートの予約予算も降りたと聞いたので……まぁ、ほぼほぼ確定だなと」


「前半はともかく、後半はバレバレやん!

 まるで隠す気がない!」


おそらく社員旅行は電脳リゾートだろう。

そう確信した姉妹は、マナに電脳リゾートの詳しい仕様を訪ねていった。


「……とまぁ、電脳リゾートは通常の電脳空間と違って、本当に自分がリゾートに来たかのような体験ができる。

 ここの電子食事データも一級品なのは認めるけど、一級以上の電脳リゾートもなるとそれ以上だからね!

 もっとも、この社員の数を考えると、流石に二級レベルの社員旅行だとは思うけど」


「へぇ~、はじめは電脳だからどんなものかと思ったけど、思ったよりは面白そう……なのかな?」


「せやな!

 でもまぁ、本音を言うと、せっかくの初旅行だし、そこは本物の海や山に行きたかったけどな」


喜びながらもやや残念そうな様子のアカイとアオリ。

そんな二人の様子に、やや苦笑を浮かべるマナとカナ。


「ま、言いたいことはわかるけどさ。

 ご主人様は今目立ちたくないって言ってるんだろ?

 なら流石にここで外部に大きく旅行するのは、ちょっと難しいかなって」


「そうですね、そもそも今の地球、ましてやサイサカ周辺は、一面荒野だけではなく、いつ重粒子による大嵐が来る変わらない危険地帯ですから。

 それに、サイサカ都市外の夏なんて、それこそ死の季節なんて呼ばれていますから。

 高度なレーダーも超能力による探知も、重粒子の反発風で無効化される危ない時期です。

 まぁ、ここは社員旅行が、サイサカ内にある遊園地やプールにならなかっただけありがたいと考えておきましょう」


かくしてこの後4人と1つは、来るべき電脳リゾートへの社員旅行について、和やかに会話を続けたのでした。



◆◇◆◇



なお、社員旅行当日。


「というわけで、今から社員旅行だからね~。

 こっちについてきてね~」


一か所に集められる無数のメイドという名の社員と、渡されるたびのしおりの入ったメモリーチップ。

更にはほとんど意味がないと思われていた社員の持ち込み品が入った無数のトランクが後ろに積み上げられている。

そして、そんな荷物やメモリーチップを擁していた、案内係である大ご主人様がそこにはいた。


「はははは、どうせ電脳リゾートなのに、わざわざ時間を指定するとか、本格的やなぁ」


「そうだよ、わざわざ今日のために電脳接続の大広間を借りてるんでしょ?

 なら、こんな変な場所に集まらなくても……」


そんな大ご主人様の様子に苦笑するメイド一行とアカイとアオリ。

そもそもだ、今回の旅行が本当に電脳リゾートならば、同じ時間に集まることや旅のしおりすら無意味なのだ。

それなのに、わざわざアロハシャツなんて愉快なものまで来て、ここに社員を集める理由などないのだ。


「ん?何を勘違いしてるんだ。

 別に電脳リゾートにはいかないよ?

 それじゃちょっと、味気ないし」


「「「「え?」」」」


その言葉とともに、ゆっくりと工場の床の一部が変形し、そこから下りのエスカレーターが現れる。

予想外の出来事に、固まる一行。

しかし、大ご主人様に案内され、ついていかないわけもいかず、困惑気味にそのエスカレーターに乗り、さらに地下へと下っていく。

そして、彼女たちがその先に見たものは……!


「というわけで、さっそく目的地の避暑地に乗っていくために、それぞれの番号が書かれた席に座ってね~。

 あ、駅弁買いたい人はそこの自販機から買ってもいいよ」


「えっと、パパ。

 これはいったい何?」


「ん?これはちょっとしたプライベート地下鉄だよ。

 スピードはぼちぼちだけど、隠密性と丈夫さには自信があるから。

 安心して乗っていいよ」


「……そういえば、パパってこういう人やったな。

 事前の持ち込み荷物は、どうせ電脳と油断せず、ちゃんと厳選しとくべきやった……」


かくしてアカイは、目の前に鎮座するその自称自家用エクスプレスを見ながら、溜息を吐きつつ、笑顔で乗り込むのであったとさ。











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サイバーだけどパンクでなし―211×―ルームランナーズ どくいも @dokuimo

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