ビッグ7の力、侮るなよ!

十三区のチャレンジャーギルドには、【ビック7】と呼ばれるチャレンジャーがいる。

彼らは基本自由業にすぎないチャレンジャーという枠組みにいながらも、並のこの地区内でも有数の権力者や実力者、あるいは武力を持った者たちである。

実際にビック7はギルドの貢献度など上位7名を抽出したものではあるが、それはそのまま彼らのこの地区での影響度や権力に等しい。

実際、彼らの一挙一足一仕事はこの地区に大きな影響を与え、彼らの存在がこの十三地区の存在そのものに深く根付いており、ある意味では彼らの存在あっての十三地区といえるのかもしれない。


例えば、かのナンバーワンの機械竜ことワーグさんは、その圧倒的個人武力とともに巨大な傭兵団を設立。

サイボーグ用の道場や訓練施設、なんならサイボーグ用の医院も経営していることで有名だ。

№3はたしか、薬関連であったか?一部下水関連の仕事や引っ越し関連も携わっているとか聞いた事がある。

チアはなんだっけな、確かギルド自体の管理システム構築とか、一部在宅チャレンジャー用の仕事グループを作ったとかも言っていた気がする。


さらにいうと、自分に関しては、今のメイド工場以前の大仕事として、この地区唯一の学校である『光王学園』の経営とかに色々関わっているのだが、今回は省略。


ともかくまぁ、何が言いたいかというと、この地区で何かしらでかい仕事や作業をすると基本的にこのビック7のどれかしらにかかわりを持つことになることが多いということ。

例えばそれが、建築や土方関連ならば、なおさらだということだ。


「お仕事、楽しい、楽しい」

「ドラム缶、押す、押す、押す……」

「たのし……い、たの……し、い……!」


「ひゃっは~~!!動きが遅くなってるぞ!このポンコツサイボーグと鉄くずアンドロイド共ぉ!」

「げっへっへ、いいのかぁ?お前らがさぼれば、お前らの家族がどうなるか……わかっているよなぁ!」


かくして目の前で繰り広げられる、建築業という名の奴隷への拷問。

やけに旧式パーツばかりのサイボーグや大体パーツ多めのアンドロイドに、電気鞭を持って、それらを見張り、いじめているモヒカンの格好をしたなにかという実にあれな光景が目の前で繰り広げられていた。


「ねぇ、あれって十三地区的には大丈夫なのか?」


「えぇ、あそこにいるサイボーグやアンドロイドは、元犯罪者やこの地区への侵略者どもよ~♪

 しかも、一部を除けば全員すでに【死亡処理】済みが過半数だから~。

 倫理云々は別にして、そこまで問題はないのよね~」


そんなやばすぎる作業風景への疑問に答えてくれたのは、出るところが出ている豊満な体をした女性。

この建築会社の社長にしてまとめ役、同時に戦闘もできるアンドロイドである【ムーン・クリーク】である。

なお、いわゆる女社長というやつなのだろうが、それでも見た目だけならどちらかといえば穏やかに見えなくもないのがこのアンドロイドの怖いところ。

こんなみためはふわふわ癒し系アンドロイドなのに、こんな土方グループの頂点にして、チャレンジャーギルド№4であるらしい。


「ああ、安心してね?

 あくまでああいう作業員にやらせるのは、荷運びとかそういう簡単な作業だけだからね~♪

 柱建てとか基盤とかの、大事な部分はちゃ~んとした十三地区出身の親方や職人クラスの社員にやらせるからぁ」


彼女のセリフに反応するかのように、手に鞭を持ったモヒカンがサムズアップしてくれる。

どうやら、あのモヒカンはああ見えて技能や資格持ちの集団らしい。

文字通りのエリートモヒカン集団とか、どんな冗談だよ。


「安心して!ちゃんと女の娘もいるから」


ああ、それがあそこにいる女王様ですね、わかりません。


「でも~、話を聞くにぃ?

 二番くんもぉ、似たようなことをしているってぇ。

 報告書には書いてあったんだけどぉ?」


そういいながら、このアンドロイド女性がニヤニヤしながらこちらの顔を眺めてくる。

確かに自分も、敵対したアンドイドやサイボーグを改造やら改修して無理やりメイド社員にはしているが、もうちょっと人権とかには配慮しているつもりだ。


「ふふふぅ、ごめ~んね♪

 ちょ~っと意地悪言っちゃったかな?

 でも、二番くんが思った以上にいい子であり悪い子だからぁ、いろいろと気になっちゃってね♪

 ……敵対者を改造して再利用する、そのこと自体はとてもいいと思うけど、そいつらを甘やかすのはちょ~っと本末転倒じゃないかなぁって」


「……それでうまく言ってるなら、問題ないのでは?」


「でもねぇ、この地区に向けて悪いことした人が、この地区で不通に普通に努力した人達より幸せそうな余生を過ごすのはぁ。

 十三地区代表の一角として、ちょ~っと複雑に思わないかなって?」


「この話やめません?

 絶対お互い、譲れないものが出てきますし」


「……だよね~♪

 まぁ、でも私の言葉を心の一角にでも止めておいてくれるとぉ?

 色々とうれしいかな~って」


このままではいろいろと楽しくない会話になりそうなので、無理やり話を区切らせてもらう。

それにしてもこのムーンさんはなかなかにやばい思想の持ち主のようだ。

というか、コノミ救出の際に人狩りをしていたのはこの集団だったのか。


「話を変えるとぉ、結局この建物は何工場に据えることにしたのぉ?

 武器工場にはなるって聞いたけど、それ以外にも作るって聞いたけど」


「大体全部ですね」


「え」


「だから、大体全部。

 武器から食料、ついでメイド服に食料、そしてサイボーグパーツにアンドロイド用生態パーツ、ああ、もちろんメガネメイド喫茶も経営するつもりですね」


「二番くん、とうとう頭が……」


なぜかムーンさんが涙をぬぐうまねごとをしつつ、こちらを心配してくれる。

色々と失礼な対応だが、気持ちはわからないでもない。

流石にメガネ団のアジトがクッソ大きい建物だったことを考慮しても、流石にこの案は無謀なのはある意味では明白ではある。


「でも、自治体とこの元メガネ団のアジトの場所を運営していた地主がいろいろと協力してくれてなぁ。

 【メガネメイド喫茶】を経営するのなら、追加で周囲の土地も売ってくれて……。

 だから、実質建物複数分の大きさは確保できたというわけだ」


「それ、元地主さん絶対今回の事とか反省してないわね????」


なお、元メガネ団に建物を貸していたサイボーグ爺さん&婆さん(見た目18歳前後)には、すでにメガネメイド喫茶の年間フリーパスを譲渡済みである。

爺さんまだしも、お婆さんまで泣いて喜ぶとは思わなかった。

しかも、わざわざ元男メイドだけではなく、男の娘メイドの配置まで切望してくるなんて、夫婦で趣味があっていて何よりである。


「でもまぁ、そういう無茶ができるからこそ、あなたがこのチャレンジャーギルドで2番に慣れた。

 そういう話なわけねぇ」


こちらがメガネメイド喫茶の話に会話の流れをシフトしようとしたがどうやらそれは失敗したらしい。


「ふふふ♪安心しなさい。

 だからと言って、あなたを非難したり探りを入れたりはしないから。

 まぁ、以前はミステリアスなのにぃ、活動内容は不明なのにギルド貢献度2位とか怪しさとか不正の極みに感じていたけど?

 どうやらちゃぁんと実力はあったようですし、十三地区の代わりに働いていたのは確かのようだからねぇ」


そういいながら、彼女は目の前で組みあがっている工場をじっくりと見つける。


「少なくとも、あなたはこちらとしても色々と歓迎ね♪

 なんなら、友好の証に、あなたの工場と私の会社、合同経営にしてみない?

 チャレンジャーギルドのナンバー2とナンバー4が合わされば、ギリギリナンバー1に勝てるだけの貢献度に慣れると思うんだけど?」


彼女はそういいながらこちらに軽くボディタッチしてくる。

一見、女性の方からボディタッチされるのはいろいろとご褒美に感じられるかもしれない。

が、彼女が戦闘もできるアンドロイドだということを考えれば、これはまさにトラにじゃれつかれている動物園の飼育員状態。

つまりは、うれしさよりも恐怖が強いという話だ。


「……むぅ、むしろそこで竿が勃起するんじゃなくて、袋が縮み上がるのは、いろいろと失礼じゃない?」


「おい、お前らの上司が暴走しているぞ。

 誰か止めろよ、そこのモヒカンども」


「HAHAHA,俺たちに止められるとお思いで?」

「あ~あ~、聞こえな~い」

「仲がよさそうで、ナニヨリデス」


周りに助けを求めるも、モヒカンどもはこちらにいい笑顔を向けるだけで、こちらに干渉してくる気配はない。

一瞬メイドやらにも助けを求めようと思ったが、あいつらに頼るのは正直癪だからなぁ。

甘んじてセクハラを受け……、おい!人の股間に向かって、サーチを向けてくるな!


「あ、そこは生身なのね。

 へ~、か、かわいい♪」


「やっぱりこいつ、壊していい?」


「すいません、うちの姐御が……」

「ちょっと変な暴走をしているだけで、イイ人、いやいいアンドロイド上司なんです。流石にそれは勘弁してください」

「大丈夫ですよ、ママ…いやムーン様なら生身の人相手でもお上手なはずですから。

 きっと天国が見れますから」


その後、モヒカンやムーンといざこざがあったものの、ある程度向上の外装や建物自体の修復回収は終わる。

途中、セクハラとかにより精神的疲労は大きかったが、それでもこの量の土木作業を数日で終わらせる作業効率はさすが本職といった所である。


「ふぅ、これで納期までに工場を稼働することができそうだな」


「で、箱はできたけど、中身は、特に社員についてはどうするつもりぃ?」


「そこは、半分はこちらからメイドを出しますが……。

 もう半分は、外部から雇う感じにするつもりですね」


「へぇ、そうなの。

 それじゃぁ、私の陣営から適当に企業スパイ、いや、留学生的な子を何人か派遣するから採用よろしくね♪」


色々と突っ込み満載なことを言い始めるムーンさん。

一瞬張り倒してやろうかと思ったが、なんとかそれは理性でなんとか抑え込む。


「でも、ちゃんと本当に外部から人を採用するのには気を付けてね?

 いくら十三地区内での採用とはいえ、この地区にも他地区や他都市のスパイが無数に入り込んでいるのは確かなんだから。

 外部からの採用をすれば、それこそいやというほどスパイ的なのが紛れ込んでくるだろうし」


「……それこそ、私の部下を雇えば、ちょっと技術を模写されるだけで済むけど、他地区からのスパイなら破壊工作の類をすると思うわよぉ?

 採用についてはよく考えたほうがいいと思うわ」


どうやら、ムーンさんの突然の発言は、ある程度の警告を含めて位の意味合いであったようだ。


「あ!ついでに言うと、私達を採用すればそういう不届き者をいい感じに処理してあげる部隊もそっちに送ってあげるから!

 とりあえず、これがあなたのところに送り込むスパイ候補リストだから、この中から一番性的にビビッときた子を採用してねぇ♪

 もちろん、手出しもOKよ」


とりあえずは、新人雇用はそれなりにめんどくさいことになりそう。

そして、そのための条件はそれなりに厳しくする必要があることを、確信したのでした。


◇◆◇◆


後日、自室


「とりあえず、入る前からある程度振り分ける必要がある。

 あんまり入りたくなくするのなら……社員は前例と同じメイド固定にしてみるか」


「それと社長には絶対服従とか?

 何ならサイボーグならパーツもメイド固定限定で、アンドロイドもメイド系に固定。

 入社しだい、どんなやつでも無理にでもメイドになってもらう感じにするか」


「ふふふ!社内飲みや無駄な社員旅行、おお!勉強会なんかのPRもしてみるか!

 くくくく、自由参加といいながらプッシュされる社員旅行や勉強会、しかもメイド姿は強制だからな!これはきつい!!」


「PR映像は……そうだな!ここは宣伝効果に期待してコノミや宝石の庭に協力してもらうか!」


「いいぞぉ!こんないい感じの頭お花畑の雰囲気PR映像ができた!

 これなら、絶対俺は就職したくない!

 よっしゃぁ!これなら、イイ感じに入る前からふるい分けられるぞぉ!」


◆◇◆◇


そして、待望の社員募集1回目

無事に定員の20倍以上募集が集まり、頭を抱えることになるのでしたとさ。

さもあらん。


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