メイド一揆


「ヒャッハー!!どうやら怪我をしているみたいですねぇ!

 しかも、サイボーグ病も!!これはご奉仕が必要ですねぇ!」

「大丈夫ですよ、ちょっと新しい自分とこんにちわするだけです。

 それに、なれたら病みつきになりますよ?」

「あなた、イイ体してますね!

 メイドEチームに入りませんか?」


十三地区および世界通りで起きる無数のメイドによる鹵獲行為。

この騒動は思った以上にメイド側に有利に進んでいるのが現状であった。

中央からの憲兵は、その圧倒的メイドの戦力及び死者が出ていないための武力制限により本気が出せず。

そもそも、十三地区自体がセントラルからの憲兵をそこまで受け入れていない。

十三地区に住んでいる自衛団は、基本的に地形を利用した防衛特化であるため、同じく地形を知り尽くしているメイドの前ではあまりにも無力であった。

それ以外の自衛組織に関しては、基本的に自分のところに被害が出なければ動くような性格ではない。


「はぁ、はぁ、あ〜〜♪

 殺傷能力皆無とは言え、久々の対人射撃ぃ♪

 しかも、雑魚相手!もっともっと撃ちたいよぉ〜」


「カワイイネェ、カワイイネェ!

 子を庇う親の姿!

 ……たまらん!どっちもメイドにして、いっっっぱい直接お世話してあげたい!!」


しいて、メイド達の苦労を上げるとしたら、今回の作戦には無数のメイドが必要なため、第一工場のメイドが無数に混じっていることくらいか。

こいつらは、基本元やばい級の犯罪者が多い。

電脳そのものをいじられて無茶ができなくなっているが、それでも何が起こるかわからない。

そんなメイド達が勢揃いしてるのだ。


「こら!貴様ら今回の作戦の真意を理解しているのだろう?

 なら、一般人への手出しは最低限!

 あくまで、事前目標…メイ度が高い標的のみ狙え!」


「え〜?でもメイド部隊長?

 今回の作戦は派手にやるのもお仕事のうち!ですよね〜?

 なら、演技でもこういう威圧をすることもお仕事では?」


「しっ、このメイド部隊長、普段は外回り担当だから。

 今回派手にやる予定だから、その後を考えるとねぇ」


「あ~……それはご愁傷様」


「おまえらぁ!」


メイド同士が互いに掛け合いあるいは罵り合いながらも、住民の選別という名の隔離は無事に終わっていく。

すでにメイ度の高い人々はメイドサンカンパニーに輸送済みであり、残りは見張りというか暴走しているという偽装がメインなのだ。

だからこそ、すでに仕事は終わったともいえるのだ。


「ところで、捕虜の精神状態や健康状態については大丈夫か?

 一応我々はこの地区の一員だからな。

 この後問題が起きたら、たまったものじゃないからな」


「基本問題ありません。

 ……ただし一部が、むしろ自分をメイドにしてくれとか、なんで自分はダメなんだと騒いだりしていますが」


「……うん、メイド服と化粧。

 あと、サイボーグなら簡単な外装レベルなら私の権限で支給を許す。

 ただし、あくまで内密にな」


「は~い」


そんなこんなでメイドによる十三地区の制圧はおおむね無事に終わりはした。

そもそも、今回の標的そのものが住民の中でもごく一部であり、ほとんどはただの格好だけの捕虜。

なので、あとは住民が最後まで暴れないようにそれとなく見張っておくだけがお仕事なのだが……。


「……む、どうやら、向こうも仕事が始まったらしい」


「ああ、なら私たちはここまでですか?」


メイド部隊長に一つの連絡が入り、それにより作戦がひと段落したがわかった。


「何を言ってるんだ?

 むしろここからが始まりだぞ」


そして、それと同時に、無数の人外型のサイボーグ。

さらには見た目の悪いアンドロイドが、爆発とともにこちらへとやってきた。


「ほう、リーダーからはやり過ぎはご法度と聞いたが……

 これはこれは、実に見た目麗しいな」


「げっへっへ、本当にメイドサンじゃねぇかぁ!

 人間メイドの無数いるなぁ?

 そんなにご奉仕したいなら、俺様のメイドにしてやるよぉ」


そう、彼らはそこそこ歴戦のチャレンジャー。

ワーグとムーンの部下である戦闘が得意なチャレンジャーであった。

先ほどまでは、住民の避難や他地区からの隔離を中心に行っていたが、その仕事も終わったのだろう。

半分は興味、半分は好奇の目でメイド達をにらみつけ、その武装や装備から、向こうも準備ばっちりのようだ。


「……一応聞いておくが、貴様ら、ここで降伏する気はないか?

 今なら、後ろにいる住民を今すぐ開放すれば、ちょっとした仕置き部屋に入るだけで済むぞ?」


ムーンの部下であるモヒカンたちから無数のブーイングが聞こえるが、ワーグの部下であるサイボーグはどうやらそこそこに理知的な方のようだ。

おそらく彼は今回の騒動の真意をそれとなく気が付いているし、そのうえで我々に警告を出しているのだろう。


「……残念ながら、我々はご主人様の命で動いております。

 話はそれだけです」


「つまり、まだ降伏するつもりはないと」


「しかり」


メイド部隊長としても、過度な戦闘は避けたいのが本音ではあった。

それでも今なお、もう一つの部隊の仕事は始まったばかりなうえに、こちらの仕事はあくまで【陽動】なのだ。

なればこそ、こちらはこちらはこちらのなすべきことをしなければならない。


「ひゃっはー!!そこのアンドロイドメイドはお前らに渡すぜぇ!

 俺たちはこのサイボーグメイドと楽しく遊びたいからなぁ」


「え~?私は雑魚相手に自由に虐めたいだけで、アンドロイド相手は……。

 まぁ、こっちも十分雑魚そうだし、これで我慢するか」


「まったく、勝手なことを言う。

 だがまぁ、任された以上、付き合ってもらうぞ?」


「よろしい。

 ならば精いっぱいのおもてなしを。

 ……せめて、定刻までは持ってくださいね?」


こうして、このメイド騒動は、とうとうチャレンジャーギルドTOP陣によるぶつかり合いへと発展したのでした。



◇◆◇◆



「おい!事態はいったいどうなってる!?」


「わ、わかりません!どうやら、現在、十三地区や世界通にて交通封鎖が行われているようでして……。

 どうやら、盗聴対策も、いつもの倍以上!

 これでは、いつものルートでの事態の把握は困難です」


「……ちぃ!」


場所は変わって世界通りのとある大型ビル。

新機教のフロント企業にして、サイサカでも有数の運送会社である【重力のイド】。

そこの社長である、アリー・ラビティは非常に困惑していた。

アリーはこの世界通りでも、有数の新機教の幹部、助祭の肩書を持つ、そんな男であった。

そんな彼の仕事は、このサイサカの世界通及び十三地区での新機教の影響力を広げることであった。


そして、つい昨年あたりまでは彼の仕事はそこそこ順調であったし、なによりも件のメイド工場ができる少し前までは、厄介な新機教本部からのお客さんも拿捕。

まさに順風満帆といえる状態ではあった。


「す、すいません!

 それよりも、何人かの信奉者が、今回の件を我々の仕業だと勘違いしているそうです!

 また、何人かの信奉者はこちらに保護や面会を求めてきておりますが、どうしましょうか?」


「ええぇい!今はそれどころではない。

 何人かの口止め要員を送っておくから、それで対処しろ!」


が、それが怪しくなったのは最近の事。

それはとある彼の部下の一人が、新機教の積極的拡大を進言してからすべてが狂い始めた。

今まではあくまでひそかに勢力を増強させることがもっとうであったのに、強引な手法を無数に行い、自分たちの行動がばれる可能性を考慮せず行動しまくっていた。

確かのそのおかげで一時的に勢力は増したが、それと同時にこの地にいる多くの勢力との敵対関係が進行。


「……ぐぅぅぅ!

 何を考えているんだ!メイド=サンカンパニーめ!!」


そして、今最も彼の脳を悩ませているのが、このメイド=サンカンパニーであった。

このメイド=サンカンパニーはこのサイサカについ最近現れたばかりの企業であるのにもかかわらず、その技術力や生産力はぴか一。

それこそ背後に自分たち同じく新機教が関わっているのではと疑った程度には目覚ましい発展を遂げた新興企業であった。


「そもそも、私はあそこへの積極的介入は、反対ではあったんだ」


だからこそ、件の部下がこのメイド=サンカンパニーに目を付けて、養子を送ることを進言したのはごく当然の流れであったし、実際に新機教本部がそれを了承してしまった。

……そして、そのせいで足がついた。


「おそらくあそこはすでに、あの双子タイプの洗脳状態についてもわかっているだろうからな。

 ……いや、すでに解除できていても何らおかしくはない」


その結果、新機教及び今回の養子のスパイであるデザインチャイルドの送り元である【重力のイド】はメイド=サンカンパニーに目を付けられてしまった。

メイド=サンカンパニーはその情報収集力もかなりのものであった。

それこそ、一時期は無数のメイド達が自分たちの身内や内通者データを多く探っていたのに、その事実を部下が他の部下を爆破させるという大失態を犯すまで気が付かなかったほどだ。

だからこそ、彼はその事実に気が付いた時、すぐさま対策を講じた。

十三地区に潜む、十三地区の自治体所属の同胞にメイドサンカンパニーに圧力をかけてもらったり、またそのこと自体を盾に直接メイドサンカンパニーへと圧力をかけたり。

相手は新興の会社、しかも十三地区での安住を目標にしている相手ゆえにそれで問題ないと思った。

いや、問題はあるだろうが、それでもその問題はすぐさま大事へと発展するようなものではないと思っていた。


「それなのになんだ?このメイド騒ぎは?

 いったやつらは何が目的だ?

 そもそもなぜこのようなことをしている?

 ……まさか本気で、至高のメイドとやらを探しているのか?」


それゆえに、アリーは考える。

もしかしたら、件のメイド達の行動はほんとうにメイド達の自称する通り、社長の命令で最高のメイド候補を探している可能性を。

少なくない回数メイド喫茶へとかよったがゆえに、メイドサンカンパニーのメイドのクオリティの高さを知ってるが故。

一瞬本当に、そんな可能性もあるという考えも思い浮かんでしまった。


『と、突然の連絡すいません!

 でで、でも社長……こちらにメイド群れがぐはっ!!』


『なっ!こいつら、武装して……あぽっ!!』


もちろん、そんなわけもないのに。


「……どうやら、本命はこちらだったようだな」


「……はい」


「なればこそ、今回の責任と後かたずけは貴様が取れ。

 いいな?」


「……はい」


かくして、この時を持って【重力のイド】とメイドサン=カンパニーの正面からの全面戦争が始まったのであった。

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