4つの力が一つになって!!
「……うん、やはりあいつで確定だな」
万国通りの奥底にて出会った、その触手系淫魔アンドロイドは、おそらくはこちらを狙った犯人で相違なさそうだ。
実際にそのアンドロイドに繋がれた顧客達を観察すると、その顧客はその電脳性交を十分楽しんでいるのか、口からはよだれが照れ、失禁や脱糞までしている酷い有様であった。しかし、それでもその顧客たちはその行為を楽しんだ後、暫くは自我消失状態に。その状態で、まるで操られているかのようにフラフラと野良のネット回線へと電脳を繋げに行くという奇妙な行動をしていることが分かった。
そして、どこに接続しているかを調べてみると、結果として大正解。そいつらは裏ネットの掲示板にて、コノミチャンネルの大雑把な特徴と、それにコナミの大雑把な位置情報(つまりはこのサイサカ周辺に住んでいることまで)を送付したうえで、ハッキング及び調査、さらには誘拐依頼まで貼り付けていたのだ。
つまり、この巨大触手淫魔アンドロイドが、こいつらを操り洗脳しているのはほぼ確実であり、こいつが黒な確率は100%だ。もっとも、こいつらがなぜそんなことをしているかや、こいつら自体が本当に黒幕かなんて言うのはわからないが。
ここであったが100年目、ここ数日さんざん手間をかけさせてくれたお礼をたっぷりしなければならない。
「……でもまぁ、野良で洗脳もどきなんて面白い技術をやってるやつがいるんだ。
少しその電脳と仕組みについて、手間賃代わりに見せてもらうとするか」
かくして、自分は事態の解決及び犯人(犯機)への懲らしめのため、ゆっくりと、そしてふらふらと近づいてみる。
イメージとしては彼女の顧客として、周りにたむろしている電脳セックス中毒者と同じような感じでだ。
幸い、彼女たちというか、この機体は電脳端子さえ取り出せばに電脳コードをつなぎ、勝手に彼女たちの内部へとつなげてくれるという仕組みなようだ。
なればこそ、このように近づけば、ほとんどまともな自我すら残ってなさそうな彼女たちでは、おとなしく自分を客とみなして電脳接続しようとしてくるであろう。
そしてその隙をついてこちらは、この解析用機械へと接続!存分にその電脳や洗脳を解析させてもらうこととしよう!
なぁに!こいつらがコノミを恨んでいること自体は何となく察しているが、自分はほぼ無関係な一般人だからな!
まさか、かつてあの1回しかまともに顔見せしていないのに、このアンドロイド共が自分の顔なんて覚えているわけがない。
ここは存分に、不意を突いてその電脳をいじりつくしてやるぜ!
〈あああぁぁぁぁ!オまエは、……コろス!殺す、korosu,ごろずぅぅぅぅ!!〉
〈あ、あぁ♥あなたは…私たちにやさしくしてくれたあの人間♪ぶ、蛾いじゃなnoniありgatと宇♪お礼に、たっpりサービスしてあげるnenenenenene!!!〉
〈ああ、ご主人様、マスター、ああ、あぁぁぁぁぁああ!!!!!!〉
〈いぎ、あは、おごごぽポポポポピピピピピピ???〉
〈電脳連結状態・エラー発生。
緊急事態・自己保全のため、緊急的に対象を無力化、あるいは排除します〉
さすがアンドロイド、記憶力も抜群っすね。
そんな自分の甘さをとがめるかのように、その巨大な触手系暴走アンドロイドは、無数の顧客どもを巻き込みながら、こちらへと襲い掛かってきたのでした。
◇◆◇◆
〈排除排除排除、無力化無力化無力化〉
万国通に、その巨大な鉄塊がうねり疾走する。
周囲のごみを巻き込み、辺りにあるパイプ群を破壊しながら、こちらへと向かってくる。
わが身の被害すら無視し、ただでさえボロボロな生首たちが傷つき、その皮が剥げていくのもお構いなし。
元が美しい女性の顔をしていただけに、口唇が外れ、歯牙がむき出しになりながらこちらを追いかけてくる生首の姿はなかなかにグロテスクな姿だ。
「もうちょっと落ち着いてくれよ……なっ!」
第三の腕を使って逃げつつも、背後の確認は怠らず。
ついでとばかりに、周りに生えているいくつかの水道管やパイプをへし曲げ、あるいはそれを投げつける。
〈いぎああぁぁぁぁ!!〉
〈危険危険危険!!〉
〈じゃらぐぜぇんだよぼぉ!〉
もちろんそんな鉄パイプ攻撃の1本や2本で倒せるほどやわな相手でではないことは重々承知だ。
しかし、それでも、顔面に投げつけられた鉄パイプを振り払ったり、壊れた水道管からあふれ出す謎の腐食性の液体を躱そうとするだけの知能は残っているらしい。
器用にその触手状のコードを使い、それらの躱し、あるいは退けることにしていた。
しかし、それでも……。
「や~い!のろま、ドンガメ、ガンメンもどきぃ!
人を恨んどいてその程度か?さっさと追いついてみせろよ」
〈あけおpvまspんmps;xず!!〉
〈対象発見、補足、追跡続行〉
〈痛い痛い痛い痛いイタイイタイ〉
だがそれでも、足止め自体には十分成功していた。
件の触手生首集合体は、どうやらかなりおつむのほうは残念であるようだ。
少し挑発すれば、あっさりこちらに食いつき追跡をつづけ、それなのにこちらの足止め攻撃にはあっさり引っ掛かってくれる。
実に組みやすい相手だ。
でも、逃げてばかりで勝てるのかだって?
それに対して問題はない。
おそらく、相手はかなりイレギュラーな改造を施されたアンドロイドである。
その脳みそがかなり劣化しているだけではなく、おそらくその機能や燃費もかなり劣化していると考えられる。
実際に動きの一つ一つに無駄が多く、移動する度にかなりのエネルギーが消費しているのも、こちらの眼で問題なく見えいている。
燃費もこちらが上、移動速度もこちらが上、ならばこそこの追いかけっこは基本こちらの勝ちが確定しているのだ。
〈ま、までぇぇぇぇ!!〉
〈タスケテ、tasukete…〉
「な、なんだあの化け物は……ぐあああぁぁぁあ!!!」
「ひ、ひぃぃ!こ、こっちに近寄るな……ひびゅば!」
もっとも、逃走中に巻き添えを食らう一般人の被害は考えないものとする。
いやまぁ、ここが万国通の奥地であるから一般人といっても、壊れかけのサイボーグとか電脳が壊れ気味のアンドロイドぐらいしかいない。
だからこそ、そこに広がる残骸も無数の義手や機械片が中心。
人工臓器やらもこぼれているが、それは壊れたパイプから洩れる無数の謎の薬液によってすぐにドロドロに溶けていた。
正直、あまり目に優しい光景とは思えず、ここが自分の住む近所ではないことにただた安堵するしかないのが本音である。
サイボーグもアンドロイドも、電脳がある限りは、完全に死亡することは少ないとはいえ、なかなかにきつい光景である。
〈いぎ、あが〉
〈待って、待って……〉
〈エネルギー残量低下、出力ダウン、間もなく行動に支障が出る恐れがります、よろしいですか?〉
しかし、それでもそろそろ勝負が決まりそうではあった。
しばらく鬼ごっこを繰り広げたおかげか、もはや相手はそれだけで虫の息。
もはやこちらをまともに追えなくなり、動きも緩慢。
これならば、手持ちの対巨大自動機械用投げ縄を使えばそれだけで無理なく拘束できそうである。
そうして、腰に付けた圧縮済み伸縮自在合金投げ縄を解放しようとしたが、どうやらまだ勝負は決まっていなかったらしい。
〈あは、あははははは!これが、お礼、愛、感謝ぁぁぁぁ♪♪♪〉
〈ひひひひ!みんなしねぇぇええ!!!!!〉
その瞬間、件の巨大触手娼婦ロイドから、巨大な電磁パルスが放出される。
そのアンドロイドからのスピーカーだけではない。
その触手のうち数本から、こちらのあらゆる機械的感覚器から強制的にこちらに情報が送られてくる。
それは、強力な昇高感。
全身の毛穴一つ一つに粘液が注ぎ込まれるような、耳や口、全身のありとあらゆる穴から、生ぬるい何かに取り込まれるかのような。
優しい聖母のようでありながら、独占欲と愛の強い女性のような抱擁感。
何よりも彼女たちと自分がまるで一つの生命体になったかのような、世界そのものになったかのような、大地と神とも空気になったかのように思える、圧倒的全能感と無力感が同時にこちらの脳髄へと叩き込まれそうになった。
「……だが、そんなのは対策済みなんだよなぁ!」
危険パルスに対して、一瞬だけ警告が出るが、それもすぐに無効化される。
ノイズすら走らず、何が起こったかをこの眼と電脳が冷静に分析、そして解析が終了した。
外部からの強制アクセスやデータ送信を防げるための自衛手段は電脳社会のたしなみ、裏世界の常識だ。
それなりに強力で強制力の高い洗脳法であるし、対策法がなければ、しばらく動けなくなるのも理解できる。
が、それでも、まともなサイボーグやアンドロイドなら問題なく防ぐことができる。その程度の隠し玉であった。
〈ぴぴ、ビビビビ……〉
そして、この手の信号放出は基本的にあまり燃費がよろしくないのも定石だ。
故にこの触手ドロイドはただでさえエネルギーが枯渇していたのに、さらにこんな技を使ったせいで完全に自分のトドメに。
もはやまともに動くことがすらできなくなってしまったようだ。
「それじゃ、さっそく、その電脳内を確認させてもらって……!!」
「ひゃっはああぁぁぁぁ!!!わかりましたあぁぁぁぁ!!」
「オキャクサン、オキャクサンゥゥゥ♪♪」
「ゲゲゲゲゲゲ」
しかし、そうやって油断したのがよくなかったのだろう。
自分がその四つ首へと近づこうとした瞬間、周囲から現れる無数の壊れかけのアンドロイドとサイボーグの群れ。
どれもが眼が濁り、言語野すらまともにこの機能しておらず、なのにこちらを全力で押させつけようとする意志だけは感じられた。
(まさか、先ほどのパルス波の狙いは、俺ではなくこいつらを…!!)
そうだ、この無数の壊れかけのサイボーグやアンドロイドは元ともこの辺に住んでいた現地の浮浪者なのだろう。
それこそ、この触手アンドロイドの発するパルス波を無効化できない程度の、電脳洗脳対策がほとんどなされていない、物理的な体や力しかないそんな出来損ないのスクラップ群だ。
だからこそ、この巨大触手は狙ったか狙わずか、こちらを狙うと見せかけ、周囲にいる無数の浮浪者や巻き込まれたけが人も洗脳。
彼らを使ってこちらを拘束することに成功したわけだ。
〈ひひ、ひひひひ♪ようやく、ようやくぅ♥〉
〈対象・行動停止を確認 次のフェイズに移行します〉
〈ころろころころころししししし死死死〉
そして、こちらを完全に無力化に成功したと判断したその巨大な合金触手の化け物が、ゆっくりこちらへと近づいてくる。
その様子は、出来損ないのゴルゴンか、腐れかけのメデューサか。
こいつは思ったよりも厄介な相手ではあった。
周囲に対する大雑把な洗脳能力に、接続後はさらに強力に洗脳できる機能、単純ながらも強力なパワー。
さらには、なかなかにグロテスクな見た目と地の理を生かした戦略は、なかなかに悪くないとはいえるのだろう。
……でも、しょせんはその程度だ。
「プログラム・MURASA、起動」
その言葉とともに、こちらの背には言えている第三の腕が巨大化、それに加えて、無数に枝分かれ。
その大量の鉄腕の波は周りにいる浮浪者を吹き飛ばし、トドメとばかりにこちらへ近づいていたその化け物も飲み込み、そのまま思い切り、床へとたたきつけるのであった。
〈ああ、やだ、やだ……〉
〈プログラム、停止、修復、不可、コール…セン…〉
〈あ……お……〉
さて、周囲にいる浮浪者たちも無事拘束し終え、改めて件の目標へと目をやった。
その4人が合体してしまったアンドロイド達は、その体は破損し、触手がもげ、すでに体をまともに起こすことすらできなくなっていた。
残りエネルギーを示すランプは赤く点滅し、もはやその機体がまともに動けないことは一目瞭然であった。
〈なんで、なんで、私達は、つよくて、無敵で……〉
「……もしお前らが、まともなアンドロイドのままだったら……。
もっと苦戦したかもしれなかったのにな。
残念だったな」
そうだ。そもそもアンドロイドの強さはその人間のような見た目をしながら、人以上の運動能力と耐久力、さらには人間以上の思考力で戦うからこそ強いのだ。
それなのにこの4つ首かしてしまったアンドロイドは、体の巨大さや単純な出力自体は上がっているかもしれないが、それ以外のアンドロイドとしての強みをすべて失ってしまっていた。
もし彼女たちが、〈4人の連携する戦闘アンドロイド〉であるのなら、おそらく苦戦が免れなかっただろうが……、それでも彼女たちはこうなってしまっていた。
それがすべてである。
「ま、こっちとしては弾代が節約できてよかったがな」
〈いや、いやだ、私達は、愛を、幸せに……〉
〈ひっ、ひいっ、ひっ……〉
おそらく、自分たちの最後を悟ったのだろう。
その四つ首のアンドロイド達は、各々が泣き、あるいは呻き、最後の遺言ともいえぬわめきをつぶやき始める。
……正直、このような光景はこの世界において別に珍しくもない光景だ。
アンドロイドが暴走したり、悪い主人に騙されたりして、その結果非業の死を遂げるなどよくあることだ。
そして、そんな悲劇をこの手で起こしたことも数知れず。
だからこそ、この程度の事はなんてこともないはずだ。
〈〈〈〈あ……〉〉〉〉
「安心しろ、君たちは悪くない。
だから……せめて、安らかに眠ってくれ」
だからこそ、自分がこんなことをしてしまったのは、ただの感傷なのだろう。
彼女たちを1度とはいえ、見知ってしまったからか。
あるいは自分が、コノミを通してアンドロイドという存在を深く知ってしまったからか。
自分は彼女たちに、仮初の薄っぺらの同情とともに、優しく抱きかかえ、電脳を通して、静かに安眠プログラムを彼女たちに注ぎ込む。
せめて、優しい夢を見れるように、痛みの中ではなく幸せの中で眠れるように。
驚くほど独善的で偽善に満ちた意思を持って、彼女たちの電脳へと干渉した。
〈ああ、ああ……〉
〈あり……がとう〉
静かに目をつぶる4つのアンドロイド達。
その様子を見ながら私は何とも言えない無情さと虚しさを感じるのであった。
もっとも、その様なしんみりした気持ちは、あまり長続きしなかった。
【すまな、イザム君!!悪いが急いで戻ってきてくれ!!
……コノミちゃんがさらわれてしまったんだ!!】
地下道を抜け、電波が届く範囲になり、ようやくこちらの携帯端末に届いたそのメッセージにより、事態は一気に大変動。
心を整理する時間すらままならないまま、急いで宝石の庭へと戻るのでしたとさ。
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