爆散!メガネ団!?
「うぎゃあぁああ!!!!
じ、事務所がぁあああ!!」
「に、逃げろ、メイドが、メイドが来たぞ~~!!」
慌てふためくメガネ団を尻目に、無数の銃声と爆発音とともにあらわれたのは、複数のメイド集団であった。
約2小隊、9人のメイド達。
フリルの付いた白いエプロンに濃紺のワンピース、頭にプリムまでばっちり装備。
が、そのかわいらしい衣装に反して、そのメイドのほとんどの手にはサブマシンガンが、サイバー長ドスが。
中には巨大なロケットランチャーまで背負ってきているバカまでいる始末であった。
「ふひ♪ふひひひひ、あと弾が5発も、5発も残ってるぅぅぅ♪
撃っていい?撃っていいでしょ??」
「やめろやボケ!これ以上建物を吹っ飛ばしたら大家さんに迷惑がかかるだろ!
今回はご挨拶に来ただけだ、いいな?」
さらに言えば、仮にもこちらの拠点に強襲してきたのにその様子はどれもが余裕綽々。
姿や装備、体格こそさまざまであるが、全員が全員まるでこの事態を脅威でも難関にも感じていないのは一目瞭然。
まるでピクニックにでも来たような気軽さだ。
「えぇぇい、数はこちらの方が上なんだ!
うてぇえええ!!」
「天才的叡智の見せてやります!
相手のメイドにはサイボーグ、すなわち人間が混じっている!
だから、そこを突けば我らの勝利!殺さないに程度に狙えええぇぇ!」
そんなメイド達の様子に激昂したメガネ団が、隊列を組み出迎える。
前列は強化合成樹脂でできた盾を構え、後列は銃を放つ。
残念ながらメガネ団自体はそこまで資金が潤沢とは言えないため、銃自体は鉄パイプやらお手製火薬を使った粗末で企画が統一されてこそいない。
が、それでも数撃てばそこそこの致命打になりえるし、もし銃が不良品で爆破してもアンドロイド故被害は最小限で済む。
数の有利とアンドロイドの体の丈夫さを生かしたメガネ団に必殺の構えである。
「おい、誰が……」
「私が行く、私にやらせろ」
しかし、そのメガネ団が銃の引き金を引く少し前に、一人のメイドが戦団の前方へと飛び出してきた。
そのまま背負っていた金属棒を変形させ、巨大な出刃包丁状の電動刃を展開させる。
流れのままに、銃弾が発射されるとともに両陣営の間の空間へとその巨大すぎるサイバー人切包丁をひと払い。
すると両陣営の間の空間がゆがみ、飛ばされてきたはずの無数の銃弾はすべて空間の一か所へと収束。
不良品から炸裂弾まで、すべての弾が互いに衝突し、火花を上げ、その後無力化。
融合し一塊のくず鉄へと変化してしまった。
「なぁ!く、空間湾曲!?
ということは、ESP能力者!?
サイボーグなのに、あの練度でぇ!」
「う、う、うろたえるな!
あ、あ、ああんな一瞬で、しかもあんなフル改造系のサイボーグが超能力など使えるわけがないだろう!?
だからこれはそう!きっとこの外にもっと大きな空間湾曲装置やらがあって、それで止めたに違いない!
うん!」
「でも、それならそれで、もっとやばくないですか?」
「それな」
目の前で見せられた、曲芸染みた銃弾防御法に困惑するメガネ団。
もちろん、件の念動防御はあの一瞬だけの芸当ではなく、効果は継続中。
何かの間違いや効果時間を期待して、メガネ団の何人かはきちんと銃弾による弾幕を張り続けているが、それはすべて空中の一点へと集約されてしまい、無力化され続けていた。
「大ご主人様からの
なので、無力化メインで行きますよ」
「誰に命令してんだ!
そのくらい楽勝だぜ」
そして、今度はメイド側からの反撃とばかりに無数の弾丸がメガネ団に向かって放たれる。
その銃弾はあるものはそのまま盾を貫通し、またあるものは床や天井などの跳弾とした放たれる。
結果としてそれらの弾は容赦なくメガネ団アンドロイドに命中し、その体液や人工血液を排出させる。
が、アンドロイドの生命力の強さもあるが、それらの弾の当たった部位は、基本的にアンドロイドの生命を奪う様な部位には命中せず。
あくまで腕や肩、足といった銭湯に必要な部位がメインだ。
だからこそ、弾の当たったメガネ団は基本的に死にはしないが、それでも悶え苦しんでいるのは確かだ。
「な!こ、この乱戦状態の戦場で、あそこまで正確な射撃を!」
「お〜さすが元電脳強姦アンドロイド。
狙うことに関しては上手だなぁ」
「ぶち殺すぞ?」
そして、状況は一気にメイド側優勢へと切り替わる。
反撃しようにも、それは超能力で無効化され、逃げる様にも正確無比な射撃で撃ち落とされる。
自身の拠点であるはずなのに、それを微塵も生かせないまま追い詰められていくメガネ団達。
「このままだと我々は全滅です!
増援や援護は…」
「だ、駄目です。
ど、どこも答えてくれません」
「くそ!自治体費や裏金まで払ってるのになんと冷徹な奴らめ!
これだから人間は!」
頼みの綱である人脈も残念ながら効果無し。
「仕方ない!
最終兵器を稼働させるぞ!
いけ!催眠機能付き戦闘用自動機械ハルシオン!!
あいつらすべてを、眠らせ機能不能に……ぐぅ」
「ふはははは!これで貴様らはもうおしまいで……すやぁ」
「な!そんな!
我ら叡智のメガネをもってしても防げぬ催眠機能だとは、まさかそこまでで……むにゃぁ」
満を持して登場した戦闘用自動機械はこのありさまである。
どうやらこの機械は単純な敵味方判定自体はできるものの、電磁パルスによる催眠機能には誤射防止装置の類はついていらず、それなのに催眠装置としての威力はそれなりに高かったようだ。
そのせいで、メガネ団側が援軍として起動させたはずなのに、メガネ団団員がどんどんと夢の中に。
自らの手で、勝手に無力化されていく始末だ。
「……で、あれはなんだ?」
「おそらくは、パルス系のチャフやら電脳妨害系機能付きの自動機械みたいですね。
もっとも、彼ら自身がその機能の対策ができていないみたいですが」
「あ~、この手の機能ってつけるのも対策するのも、それなりに高価なサイボーグパーツやアンドロイド電脳である必要があるからな。
……この体って、その対策もできているのか」
「なんなら、このメイド服のプリムに電脳接続させれば、逆にそのパルス波の解析や反射なんかもできますよ!
やっぱり、メガネよりもメイド服ですね」
そして、肝心のメイド軍団に件の自動機械による必殺の催眠機能は効果を発揮しない始末だ。
前門のメイド、後門の催眠自動機械であっという間に無力化される悪徳アンドロイド集団メガネ団。
そして、その残党がおおむね無力された後、メイド団の巨大出刃包丁持ちがその自動機械へと近づいて行った。
「それじゃ、お疲れさまでしたっと」
その一言とともに、件の出刃包丁が縦に振り降ろされる。
すると、その自動機械は反撃する間もなくあっという間に一刀両断。
小さな爆発とともに、メガネ団が完全に無力化されたことを周囲に知らせるのであったとさ。
◆◇◆◇
「はい、というわけでこれがメガネ団が行っていた悪行リストとその証拠データです」
「よしなに」
かくして、現在私がいる場所は十三地区用の自治体会議所。
そこで今回のこちらのメガネ団への襲撃を行ったことに対する弁明やら理由、報告の説明をしているところだ。
「ふむふむ、これがメガネ団の今まで行ってきた悪事リストか……。
うわぁ、すげぇ、結構稼いでいたんだな奴ら」
「でも、その費用をアンドロイド保護費といいながら兵器購入や特別なメガネの購入に大体使い切ってしまっているのが、本当に罪深いところですね」
「というか、自動機械にしろメガネにしろ、購入元は新機教じゃねぇか!
つまりは俺たちの金があのくそったれな新機教に流れていたってことか!?」
「ま・た・新・機・か!!」
資料に目を通していた十三地区の各団体代表が各々資料を見ながら、文句やら感想を言い合っている。
なお、今回は前回のコノミ襲撃ほどではないがそれなり以上の人員が集まっており、事件としてはそこそこの注目度を集めていたのがうかがい知れるというものだ。
なら、増援の一つくらいよこせや。
「いやいや、そこはチャレンジャーギルド№2であるあなたを信用していての事ですし?
素人集団が邪魔したらそれこそ、あぶないなと」
「というか、まともに考えてみろ。
普通のチャレンジャーでもない自治体が、戦闘できる半野良アンドロイド相手に喧嘩を売れると思うか?」
「しかも、この自動機械購入はマジだったとかな。
……こういっちゃなんだが、うちらが攻め入らなくてよかったといわざるを得ないな。
普通なら行方不明やら勝手にメガネ団所属にされてしまった可能性すらあるぞ?
このメガネ、データ上は電脳接続に思考汚染付きとか、洗脳装置の一種みたいだからな」
まぁ、それでも非戦闘系の自治体や企業が来られても邪魔になてえいたのも確かな話だ。
しかも、戦闘可能なチャレンジャーギルドから見ても、リスクに対してリターンがあまりないのは確定なわけで。
彼らが増援やら事前に退治してくれなかったのは、不満が残らないといえば無理もないが、それでも仕方ないと納得できる範囲ではある。
「……で、要するに今回の件はこちら側に非はない。
メガネ団が10割悪いし、反物は返してもらうってことでいいな」
「ああ、問題ないな。
ついで、メガネ団の持っていたものも一部危険物を除けば基本持って行ってもらっても構わないぞ」
「アンドロイド犯罪者は……まぁ、刑務所で保護でもいいし、宝石の庭に預けるのが鉄板か?
もちろん、世話できるうえで両者の合意が取れるなら主人登録してもいいが」
そうして、報告とともに行われる戦利品や報酬獲得確認。
もちろん、そもそものメガネ団アジトで手に入れたものの情報自体がこちらが提供したものがほとんどである。
そのため、やろうと思えば、ある意味では報酬はこちらの思うままにはできるのだが、それでもばれた時が怖いので、おおよそ正直に結果を話す。
そして、その甲斐があったのか、報酬の中にずいぶんといいものが渡されることになった。
「え?このメガネ団のアジト。
そのままもらっちゃっていいんですか?」
「ああ、どうやらこの建物のオーナーが借地とはいえ、犯罪者に物件を提供していたことに非常に心痛めていてな。
二度と間違いが起きないように、手放せるなら手放したいのだと」
「あそこの建物の地主さんがなぁ…。
そもそもメガネ団が相当がらが悪い集団なのに、契約は守ってるせいで追い出せなかったらしくてな。
もはや半分トラウマになっているらしい」
「まぁ、でもメガネ団を倒せたあなたなら件の土地も無理なく管理できるでしょうし。
なんなら、周囲の治安も安定させてくれるでしょうから、それも期待してとのことでしょうね」
そうして、意図せずに十三地区の一角に所有地をもらえることになった。
今までは借地がメインであったため、このような形式とはいえ明確に十三地区のそれなりの良立地の土地がもらたのは不幸中の幸いである。
これを機に、今までの借家からこの場所への移転も検討してもいいかも……。
「まぁ、もっともここは居住区ではないから、住居を立てるのは勘弁してくれよ?」
もっとも、その選択肢は事前につぶされてしまったわけだが。
しかし、そうなると無駄に物件をもらっても、どう活用すれば……。
「いや、そこは工場を建てればいいのでは?」
「噂では、君のところで作っている銃が特殊合成樹脂製の盾やアンドロイド皮膚を破壊できる程度には優れているらしいじゃないか!」
「昨今では、銃を銘打っていながらまともに弾すら撃てないのが多いからな!
そんななか、弾も銃も独自規格なのに、きちんと戦闘力もお値段も並な製品以上とは!
これはなかなかに素晴らしいことだと思うんだ」
そして、自分が悩み始めるより先に畳みかけられる無数のおすすめという名の願望。
どうやら、十三地区の武器不足は思ったよりも深刻なようでそのプッシュはかなりの圧力を感じる。
「いやいや!それよりも、メイド服よメイド服!
かわいくて、強力で、なのに一部ジャマ―やチャフ、パルス対策付きなんて!
これこそ、犯罪防止のために増産するべきでは」
「いや、流石にメイド服を一般販売はニッチすぎるだろ」
「なら、それ以外の服のデザインもしていただけたら問題ないのでは?
たとえば、スモッグとか、ベビー服とか」
「そっちの方がニッチすぎでは?」
とも思えば、今度はメイド服などの衣服品の類についての要望。
つまりは衣類防具工場に対する要望の類も出たりする。
「おい、そこはどう考えても医院一択だろ!
この地区のサイボーグ医やアンドロイド医の数の少なさは前々から問題になってるだろ!」
「でも彼、公式には無免医じゃん。
それを十三地区として公認するのはちょっと……」
「それくらいごり押しできるだろ!」
「それよりも、メイド喫茶は?
アンドロイドメイドと、サイボーグメイド、さらには噂では元男のメイドまで!
……ふふふ、イザムさん、私はあなたを勘違いしていたかもしれません。
私はあなたとお友達になれるかも……」
「いや、それはむしろ悪趣味だろ」
「ブチころ」
かくして土地の所有者であるはずの自分をそっちのけで盛り上がる十三地区自治体会議。
一瞬それらがめんどくさくなり、やっぱり土地自体いらないとか言おうと思ったが、貢献度や複数の工場設立支援費などを考慮して、この地に第二の工場を建造することにするのでしたとさ。
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