ばかめ!そっちは本体だ!
【恐るべき怒り・獄牙】
彼(あるは彼女)はいわゆる指名手配犯であり、連続殺人アンドロイドである。
殺人アンドロイドといっても、この獄牙が殺した相手は人間アンドロイドの区別問わず。
行動も不規則で、殺人同機も不確定。
一説によれば、この獄牙は地獄からよみがえった元人間とか、暴れまわるゴーストとか。
諸説こそあるが、その実態は不明。
だからこそ、多くの賞金稼ぎやチャレンジャーも、こいつを探し仕留めるのはおおむね諦めており、彼の存在は都市伝説、あるいは災害の一種のように思われていた。
『……が、その伝説も今日までだな』
「ぎがぁあああああああ!!!!」
場所はサイサカの地下街。
ブラックマーケットの一つ。
深い地下ゆえにどこの地区でもないとはされているが世界通と十三地区からはそこそこ近いそんな場所。
そんな地下道の一角で、その戦闘が繰り広げられていた。
『チャフ、チャフ、それにチャフ。
君がどこと連絡しようとしてるかは知らないが、それらは全部封じさせてもらったよ』
「ぐぎ、ぐぎぎぎぎぎぎぎ!!」
『残念ながらこれは妨害用ドローンに過ぎないからな。
後はよろしく頼んだ』
「ええ、ええ!
よくやってくれました、2番目の。
あとは私が、仕上げておきます」
その言葉とともに、ギルドナンバー4のムーンがその腕を振るう。
合金製の機械の捕縛鞭が広がり、鳥かごのように対象を対象を覆いこむ。
「ギリリリリリリ」
そのうめき声とともに、目標の体からどず赤黒い煙が吹き上がる。
煙に触れた周囲のものがあっという間に燃え上がり、周囲にさらなる煙幕を作り上げる。
おそらくは、特殊な油を使った可燃性のガス兵器モドキだろう。
知らずに突っ込めば、アンドロイドでも、一瞬で黒焦げ。
半端な耐熱性程度では、このガス兵器の特性により電脳自体が焦げ付いてしまうといういやらしい副作用付きだ。
「でも残念、事前にチアちゃんに聞いて対策済みよ」
しかし、その危険な超高温毒ガスの中でもムーンはまるで動じず対処する。
目標に向けて捕縛鞭と振るいつつ、その足は止めず。
更には銃での追撃で相手の足を止めようとする。
「っち、ちょこまかと……
もう!あんまり暴れると、周囲の一般人に被害が出るでしょう!!
おとなしく、さっさとつかまりなさいよ!」
しかし、相手もマイナーながら都市伝説的存在。
周囲に毒の煙を噴出しつつ、ムーンの鞭から体をそらし、あるいは弾くことで対処する。
これはムーンが、周囲の被害を抑えつつ戦おうとしているからというのもあるかもしれないが、それでもなかなか決着がつかない。
「……げ!こんなときに、ジャムる!?」
「ぐぎ、ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
そして、そのように泥仕合の中、先にミスを犯したのはムーンの方であった。
具体的に言うと、泥仕合の中で銃の使用をしていたムーンだが、銃のほうは恐らくガス対策が甘かったのだろう。
その接戦の中で、とうとう銃が高熱でいかれてしまい、弾詰り。
そんな隙を目標が見逃すわけがなかった。
「くるききききぃぃぃぃ!!」
「あ、こら!!ここまで来て逃げるな!!」
目標は捕縛鞭による鳥かごを突進で強制突破。
折角の包囲網を抜け、その場を離脱しようとした。
「わるいな、少々遅れた」
「ぎゃ!!」
しかし、この時になりようやく、ワーグが到着。
高熱ガスも捕縛鞭も何のその。
まっすぐ標的に向かって飛行しつつぶちかまし。
周囲の地形を破壊しながら、目標とともに地面へとめり込んでいった。
「ちょ!馬鹿ワーグ!!
あんた、また道路や建物を破壊して!!!
というか、標的は殺してないわよね!?」
「安心しろ。その程度の加減はできている」
陥没した地面になかからワーグはそう宣言し、立ち上がる。
彼の足元には、四肢が壊され、かろうじて頭部と腹部、そしてギリギリ電脳周辺が破壊されていない目標の姿が。
「それより、はやく捕縛籠をくれ。
少しだけやり過ぎて、髄液が漏れ始めてる。
このままだと、報酬がかなり減額されてしまうからな」
「ばっか!すでに物を壊しまくってる時点で、減額も何もないわよ!
それに壊しかけって、全然加減できてないじゃない!!」
かくして、いろいろ問題こそあったものの、無事に目標の捕縛に成功。
サイサカに潜む怪人が一つ【恐るべき怒り・獄牙】の捕獲に成功したのであったとさ。
◇◆◇◆
「「「「乾杯!!」」」」
かくして、憲兵に賞金首を預けて、数時間後。
今回の賞金首獄牙討伐メンバーである、前衛であるワーグとムーン、それに私とチアの4人は十三地区内で最も高級であり、サイサカでも指折りの高級料亭である【吉田屋】へとやってきていた。
「うまいうまい!うまいうまいうまい!!」
「うんうん、アンドロイド調味料もなしの天然素材の味。
やっぱり、イイ働きをした後はこういうものを食べなきゃね」
見た目通り、かきこむように豪快に食べるワーグ。
うなずきながら、噛みしめるかのように味わうチア。
この吉田屋はこの世界でもかなり珍しい、いわゆる天然素材の食品を使った店である。
しかも、仕入れている場所も環境汚染とは程遠い場所で、宇宙船クラスの超高速輸送
で食材を運んでいるため、鮮度も安全性もばっちり。
いろんな意味で、普段通いはできない場所だ。
「……いやまぁ、確かにうまい。
うまいけどさぁ…」
「あら?たしかは、2番ちゃんはここに来るの初めてなんだっけ?
何に箸があんまり進んでいないのは……もしかして口に合わなかったかしら?」
眉間にしわを寄せながら、食事を食べる自分に対して、ムーンが気を使ってくれる。
しかし、彼女の心配は少々自分の悩みとは的が外れていた。
「たしかにさ、ここの料亭の飯はうまいよ?
天然のブランド肉に新鮮な野菜、ばっちりな調理法。
どれも、高級料理店というのにふさわしい味だ。
……でも、なんでここの目玉料理は【牛丼】なんだよ!!!!!」
自分の中の葛藤に、思わず机をたたきつけそうになる。
もちろん、こんな打ち上げという食事の場でそんな横暴はしないが。
「……?いや、何かおかしいか?
新鮮な水を大量につかった米と、かつての食用専用のためであり育成効率の悪いブランド牛。
機械工程なしの調味料を使っているタレと高級玉ねぎ!
それを一流の料理人に作ってもらう。これを高級と言わずなんという」
「いやさ、こういう料亭だと牛肉といえば、普通はしゃぶしゃぶとかすき焼きだろ。
なんで、わざわざ牛を丼にするんだよ!
料亭感が台無しだよ!」
「あ~、ま~たあなたの変な癖始まったわね。
どこ出身か知らないけど、さすがに高級品と言ったらこの天然牛丼でしょ。
まぁ、模造の牛丼のせいで安物のイメージが付くのはわかるけど」
「要するに、2番ちゃんはお米が嫌いってこと?」
「好きだよ、むしろ大好物で自作してくるくらいだよ!
でもだからこそ、だからこそ、なんで料亭で牛丼を喰わなきゃいけないだよぉぉぉ」
もっとも自分の葛藤は、他3人には微塵も理解されず。
不思議そうな目で見られながら、食事をするはめになったのであった。
「ごちそうさまでした」
「色々いてた割にはちゃんと完食するのね」
「うむうむ、なかなかの食べっぷり、見ていて気持ちよかったぞ」
そんなこんなで料亭での食事が一段落。
各々、水やらサケやら油を飲みつつ、談笑を開始した。
「……にしても、お主から突然狩りの誘いがあったときはどうなるかと思ったが、思ったよりもかなりスムーズにいったな」
「【恐るべき怒り・獄牙】はサイサカ内部ではもちろん、ワールド・セントラルにも記載されているレベルの賞金首ですからね。
正直、こんな数日足らずで討伐できたなんて、未だ私自身信じられませんよ」
「ふふふふ、まぁそこは私たち4人の合計実力値を考えれば?
ちょっとした小遣いと名声稼ぎに最適だったんじゃないかしら」
各々が今回の【恐るべき怒り・獄牙】狩りについての感想をつぶやく。
そうだ、今回の賞金稼ぎ狩りは自分がこの3人に対して提案したもの。
十三地区の近くに、そこそこの強さの連続殺人系の賞金首が潜んでいたのは前々から知っていたので、これを機にちょっとこの3人に一緒に討伐してみないかと申し込んだのだ。
「にしても、ナンバー5のチアといったか。
お主も、低改造の人間ながら、あそこまでやるとはなぁ。
デスクワーククランのまとめ役としか知らんかったが、ここまで優秀だとちょっと勧誘したくなるなぁ。
うちのチームに入たないか?」
「あ~、ちょっと!!私が先に目を付けていたのに、横取りはやめてもらえる?」
「勧誘してくださるのはうれしいけど、残念ながら今回はお断りさせてもらうわ。
というか、ムーンさんのあれは勧誘じゃないなくて、誘拐未遂でしょ?」
結果として、今回の賞金首狩り自体は大成功した。
低改造人間である自分とチアが件の賞金首の情報を丸裸にして、ドローンや自動機械を使い狩場をセッティング。
実働要因として、アンドロイドであるムーンとサイボーグであるワーグが取り押さえるといった、実にシンプルな流れだ。
もっとも、個人的にはこの賞金首狩り自体は成功しても失敗してもどっちでもよかったのだが、それでも成功するに越したことはない。
「……今回の狩りはおおむねうまくいったのはよかった。
それじゃぁ、さっそく本題に入ろうか」
「「「……!」」」
なぜなら、今回の狩りはあくまで自分が彼らを呼び出すための口実だからだ。
ワールド・セントラル級の賞金首を狩る、それを言い訳にすればそこまで違和感なくこの3人を呼び出すことができる。
そして、打ち上げと称していれば、この4人でセキュリティが強固な高級料亭に集まっても違和感がないというわけだ。
「……今回の真の目的は、あくまでここで4人で談合するためだからね。
そのためにここまで芝居に付き合ってくれて、感謝する。
まぁ、賞金首自体は本物だが、それでもこのぐらいやらなきゃ疑われるからね」
そうだ。
今回、この3人に話したい内容はチャレンジャーギルドや各々の配下の前でもまともに話せない内容だ。
だからこそ、このような急な狩りの誘いを3人にした上、わざわざ各々が部下を連れてこないように指定までしたのだ。
「でもまぁ、3人とも急なお願いなのに、こうして集まってくれたということは……。
多分、こちらがこっそり密会したいということをわかってくれたんだと思う」
一応、この3人は仮にもチャレンジャーギルドのトップチームの長ゆえに、そう簡単に集まてくれるとは思っていなかったが、それでもすぐに3人とも来てくれたのはうれしい誤算という奴だろう。
これは恐らく偶然ではなく、彼らも自分が話したいという意図が分かっての事だろう。
でなければ、こんな急な賞金首狩りなんて無茶にも応じてくれないだろうし、部下を連れてこないなんてきわどい指定にも乗ってくれたりはしなかっただろう。
「ここから本番だ。
集まってくれて感謝する、それじゃぁさっそく密談を始めよう」
3人の素早く的確な判断と優しさを無駄にするわけにはいかない。
かくして私は、食後のお茶を一気に飲み干し、彼ら3人と本格的に談合すべく気合を入れなおすのであった。
「「「……?いや、何を言ってるんだ?」」」
「……あれ?」
なお、3人には微塵も伝わってなかった模様。
「え?いやだから、そもそも今回の協力狩り依頼は、あくまで口実で……こうやって、部下や自治体の眼から離れて、話し合いたいことがあるからって。
え?察してるよね?わかってるよね?」
「……あ~、はい。
ああ、うん、わかってるわよ。あれよねあれ。
子育てって難しいからね、その相談よね?」
「いや、ちげーよ!
あ、でもあながち間違ってないけど、そういうのじゃないよ」
「……!!なるほど、ついに私を勧誘するために、ワーグさんとムーンさんの目の前で本格的な交渉をするというわけですね!
受けて立ちます!」
「そっちも違うよ!
というか、それなら普通に勧誘するわ」
「安心しろ、我はそのこときちんと理解していたぞ」
「おお!」
「つまりは、よりやばい、ワールドS級賞金首をこの4人で本格的に狩りに行きたい……そういう話だな」
「そんなわけないだろ!!!」
残念ながら、こちらの意図をまともに伝えるのは、この後かなり難航。
結果として、まともに密会を開始できたのは、二次会の会場に入ってからであったとさ。
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