親子コミュケーション


「はぁああああああ!!」


赤い長髪を振り回しながら、その娘がこちらへと突撃してくる。

雄たけびとともに、素手でこちらに殴りかかってくる。

一見ただの見た目麗しい少女に過ぎない彼女ではあるが、その実はデザインチャイルドだ。

その足の速さは、陸上選手も舌を巻き、フォームもかなり美しい。

もちろん、その拳速もかなり早い。

只の一般人であるならば、骨折必須の一撃であろう。


「……ん」


しかし、残念ながらこちらは非戦闘員ながらも、それなりにチート的な存在。

その上、彼女よりはサイボーグパーツのインプラントは多い。

彼女の拳を躱すまでもなく、素手で掴むかのように受け止める。


「まだやぁ!」


しかし、彼女もその程度の防御を呼んでいたのだろう。

その手を掴まれたまま、腕を中心に体を回転、跳躍させる。

そして足を高く上げ、踵をこちらの頭部に向けて振り落とそうとする。

そのスピードと威力、さらには前身をばねのようにひねり、その体重をかけてこちらの頭部のみを狙っている。

威力的には、防具さえきちんとしていれば軽サイボーグや安物のアンドロイド相手なら無理なく破壊できる。

おそらくは、ほとんど生身である彼女でも、それなりに戦えるべく生み出された必殺技的なのものなのだろう。


「……でもま、その程度だな」


「あ」


掴んでいた彼女の手を体を回転し始めると同時にわずかに上方向に打ち上げつつ、手放す。

するとその赤髪の娘は、空中にポーンと放り出されるが、回転の勢いは止まらず。


「んみゃぁぁあああああ!!

 んぎゅ!」


「はい、残念賞」


なお、回転したまま、床に不時着して、再び保健室送りになっても困るため、彼女が地面にぶつかる前にしっかりとキャッチ。

曰くお姫様抱っこ……のふりをして、腕と足の拘束はしておく。

この状態で暴れられてもめんどくさいからね。


「……で、どう?満足した?」


「う、う、ぐぐああぁぁぁああ!!

 なんでや!なんで一発も当たらんのや!!!

 絶対なんか、ズルしとるやろ!!!」


赤い髪の子がこちらの腕の中で、うねうねと暴れようとする。

が、残念ながら彼女と自分ではそもそもの体のスペックすら、こちらが上なのだ。

彼女の超能力も、こちらには基本無意味。

始まる前から、勝負が決まっていると言っても過言ではない。


「お姉ちゃんいいな~!

 パパ!私もそれやってみたい!

 次は私、私~!!」


「あほぉ!こっちは真剣なんや!」


赤い髪の娘は怒っているが、それとは逆に青髪の娘は楽しそうである。

一応は、赤い髪の娘の方の要望で始まった模擬戦というか、彼女のストレス発散ではあるが、残念ながら今のところはこちらが全勝。

むしろストレスが溜まってそうなため、そろそろやめたほうがいいと思う。


「あほかぁ!!人の大切な記憶を、勝手に風化しておいて!

 せめて、顔面の一発位殴らせろや!」


「でも、風化する程度の記憶ではあるんだな」


「ぶっころ」


なお、その後開放して数回模擬戦を繰り返すも、結果は同じ。

彼女も自分も基本無傷のまま、彼女の気力よりもスタミナのほうが先に切れた。


「……はい、それじゃ、今日の授業はここまで。

 お疲れ様」


「……っ~~!!これは授業ちゃうわ!

 これでも、うちは真剣に……!!」


「はいはい、無理しない無理しない」


もはや指の一本も動かせない、赤い髪の娘を持ち上げる。

見張りメイド達が手を出そうとしたが、それをそっと手で抑える。


「お疲れ様、212。

 ……君はよく頑張っているよ」


赤い髪の娘をそっと背に背負い、優しく語り掛ける。

できるだけ落ち着いた声で、しかし気を使い、丁寧に声を出す。


「212、君は確かにかわいそうな娘だ。

 悲劇ともいえるし、治療も少し強引でもあった。

 だが、それでも、それでも君なら、きっと乗り越えられる」


「あ…あ……」


自分の声に反応し、背中にいる赤い髪の娘は、あえぐように声を上げる。

そこまで得意ではないが、わずかにESPによる精神波干渉を行いながら、彼女の電脳アーカイブで見たその声をまねる。

歩調はゆっくり、揺れは最低限ながらもわずかな電気的振動を混ぜる。


「う、うう……オトン、オトン……」


そうだ、これが彼女の愛の記憶、家族との記憶のはずだから……。




「……っは!!!

 って、お前オマエおまええええ!!!

 記憶奪っておいて、なんでお前が、うちのオトンの声や動作をおぼえとるんやゃぁああ!!!

 んぐああぁああああ!!!!!」


なお、効果は一瞬であり、むしろなぜか激昂された模様。


「ひどいな、212。

 君の方からだろう?家族が欲しいといったのは」


「え!あ、ご、ごめんなさいオトン。

 うちは、そんなつもりは……。

 って、ちゃうわ!あんたはオトンやない!

 いや、でもパパになってと言ったけど、え、でも、この声やせりふは、オトンとうちしか……。

 もしかして、実はあんたはうちのオトンの生まれ変わり……!!」


「すまん、からかい過ぎた。

 別に私は君のお父さんじゃない、全然の別人だよ」


「まぁ、せやろなぁ!!!!

 マジで殴らせろ!!いっぺん殴らせろ!」


「……うん!お姉ちゃんが元気そうでよかった!」


この模擬戦の後に、彼女がかつて大好物であったはずのパンケーキを、彼女が最も食べ馴染んだ製法で作ってあげた。

彼女は泣きながらそのパンケーキを食べたことをここに記しておく。


「う~ん、このパンケーキ、素材も焼き方も未熟じゃない?

 悪くはないけど、ほかの料理よりもクオリティが低いね」


「ぶっころ」


食卓で姉妹喧嘩はやめろ。


◆◇◆◇


「というわけで、べべべ、別にうちはあんたをオトンと認めたわけじゃない!

 でも、最低限優しいし、うちのパパに……。

 じゃなくて!その、えっと……」


「ほら、お姉ちゃん?

 さっき素直に言うて決めたでしょ?」


「~~~!!もうわかった!うちも乙女や!覚悟を決めた!

 というわけで、どうかうちらを舎弟でも娘でも社員でも、なんでもいいのでうちらを保護してください!

 なんでもしますので、どうかおねがいします!」


かくしてそれからしばらく後、この赤髪の娘と青髪の娘は、自分の意思でこちらに所属したいと申し出てきた。

こちらとしても、こんな不確定要素の塊を放置するよりは手元に置いていたほうが都合がいいため、彼女たちの申し出を承諾。

養子というわけではないが、居候や住み込み従業員扱いで、このメイドカンパニーで預かることになった。


「さて、名簿を作るわけだけど……名前に関してはどうする?

 212でいいか?」


「いや、やめて。その名前で呼ばれると、脳がバグるんや。

 オトンじゃないのに、オトンだと思うというか、いやアンタはうちのパパだけどオトンじゃないし……」


「あ!私も新しい名前がいいです!

 数字や型番で呼ばれるのは、もうお腹いっぱいですので」


かくしてこの二人には、それっぽく赤髪の娘は【アカイ】と青髪の子は、【アオリ】としておいた。

割と即興ではあったが、本人はうれしそうにしてたため無問題だろう。


「で、それじゃぁ、2人はここに所属するに従い……。

 ま、普通に働いてもらうことになるが、何か希望はあるが?」


「え~、そこは娘扱いで、豪遊とか働かなくていいとか。

 そういうのじゃないんですか?」


「……まぁ、まだ精神年齢は子供みたいだからな、学校に行くぐらいなら許可する。

 他のメイドや従業員に示すがつかないから、バイトぐらいはしてもらうぞ」


「やったぁ!学校だぁ!

 行ってみたかったんですよねぇ、ありがとうございます!パパ」


ここに所属できることがおおむね決まったからか、姉であるアカイが元気になったからか、ややテンションの高いアオリ。

パパ呼びはどうなんだとか、いろいろ思うところはあるが、それでも暗い顔をされるよりはましだろうということで今は特に深くは追及しないでおく。


……そして、問題はアカイの方であった。


「そんなもん!!当然あのクソったれの新機教に対する復讐に決まっとるやろぉぉ!!!

 それと、うちのオトンとオカンを殺した犯人への復讐!!

 これしかない!!」


「えええぇぇぇ!」


個人的にはやっぱりという思いはあったが、アオリに関してはいろいろと予想外だったらしく、姉の強行を止めようとする。


「そ、そもそも私たちはどちらかといえば色仕掛けとか、愛玩用のクローンなんだよ?

 それなのに、荒事に自分から突っ込むとか正気?

 この家にはメイドサンという名のパパの私兵がいっぱいいるんだから、そっちに任せようよぉ」


「だまらっしゃい!

 うちとしては、家族の復讐というか、そもそも元凶がこの街にいる間は、ゆめゆめまともに寝ることすらできへん!

 せめて、なんでうちのオトンとオカンが死んだ理由とか、元凶である新機教に一泡吹かせんと、うちの気が収まらんのや!」


が、残念ながらアカイの怒りは妹の言葉程度では到底止まらず。

かくして、アカイとアオリはこの後行われる、新機教やこの事件の解決のための捜索部隊に加わることになるのでしたとさ。








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