★とある男のログ

●月×日

最後の家族がなくなった。

私に残された唯一の肉親が、愛すべき妻の形見が、私の最後の希望が!!

なぜだ、どうしてだあ、なぜ神は我らにこのようなひどい仕打ちばかり仕掛ける!!!

なぜ、このような日に!

よりにもよって、娘の誕生日にとは!!!

なぜ、だ、なぜなのだ!!

あああぁぁぁあああわふぁおぁああああああ!!!


▼月★日

娘を殺した犯人が分かった。

予想通りアンドロイドであった。

他の幹部からの威圧目的が、少し行き過ぎたから、などというどうでもいい理由であった。

すでにその幹部は家族やイカのアンドロイドごと処分済みであるが、そんなことをしたところで、娘は帰ってこない。

なぜだ、なぜこのようなひどいことができるのか!!


〇月§日

冷凍保存された娘の様子を、お見舞いする。

渡すはずであったプレゼントがどんどん増えていく。

ああ、娘はこのように見た目だけは若いだけで、私はどんどん体にぼろが来てしまっている。

サイボーグ化された臓器は何度入れ替えたかわからないし、義手や機械臓器への適応のためにアップデートした電脳がひどく痛む。

それでも、そのような治療すらできず、生まれつき病弱であった我が娘よりは、病んだまま死んだ我が娘のシズクよりは、よっぽど恵まれているのであろう。

……だからこそ、このように、無駄に丈夫なため、妻にも娘にも先立たれているのであろうが。


〈月¨日

今日は皇帝の方から呼び出しの仕事であった。

いまさらながら、ローマのトップだからと言って自称とはいえ皇帝を自称するトップに頭の悪さにはイライラしてくる。

そして今回の仕事も、怪しい宗教団体の護衛ときたもんだ。

こんなクソみたいな仕事をさせられるとは、私も焼きが回ったものだ。


°月Ο日

私が護衛を任されている、この新機教とやらは非常にお粗末な組織だということが分かった。

彼らの教え曰くアンドロイドや人間は、生き物の進化の途中に過ぎず、その先にユートピアがあるみたいな意味不明なことしか言っていないのだ。

私としては死後人間が楽園に行けるのはいいが、そこにアンドロイドがいると考えると、それだけで虫唾が走るというものだ。


Α月Ω日

……おい”!!あいつらめ!!

どこであの事を知った!!くそ、くそ、くそ!!!

こっちが下手にでりゃ、なめやがって!!

ぶっ殺してやろうか!?!?


Η月¶日

あの衝撃的な提案から早数日もたってしまった。

しかし、もし彼らの言うことが本当ならば、それは私にとって福音ともなりえる取引だ。

そうだ、私だって期待していないわけではないのだ。

そのために、シズクを死んでいるとわかっていて、高い金を払って今なお冷凍保存なんてさせているのだ。

【死者蘇生】、そんなことが本当に可能なのか?


Β月Ρ日

約束の日が来た。

色々悩みはしたが、私は奴らの提案に乗ることにした。

そうだ、奴らは胡散臭いが、私は奴らの言うことを信じることにしたのだ。

「私達への治療が、楽園へと近づく道となる」

宗教に関しては、そこまで詳しいわけではないが、それでも奴の言葉にはその信念を感じられた。

だからこそ、私は奴らと手を組むことにした。

……だが、裏切ったら……地獄以上の制裁を見せてやる。


´月Λ日

ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる


Ο月×日

シズクに死体は、シズクのような何かになってしまった。

よりにもよって、シズクを、私の娘を使ったアンドロイドなんぞ作りやがって!!!

似た声で、似た姿で、似た骨格で!!!

死者を愚弄し、我が娘の魂を汚した不届き者はすぐに死んでもらったが、問題はこのアンドロイドだ。

……はじめは壊そうと思ったが、あの顔で、あの声でこちらに話しかけられると、我が腕は止まってしまうのだ。

いずれは壊す、いずれは……。


Ρ月Π日

あのアンドロイドは、確かにシズクではないが、よくできているアンドロイドであった。

アンドロイドでありながら、どこか我が娘を思わせる部分が数多くあり、知りもしないはずの記憶を覚えているかのように話すことがある。

どこでそのことを知ったかと、尋問したが、本人、いや本機も覚えがない謎という。

……くそ!!こちらの心をかきむしるかのような、物を作りやがって!!

絶対にぶっ壊してやる!!


Δ月η日

このアンドロイド本当にアンドロイドなのか時々わからなくなる。

アンドロイドの癖に、運動が苦手であり、そのしぐさは生前寝たきりであった娘のそれを思い出させる。

生前は食が細く、一色食べるだけで披露していたのに、たくさん食べられるが故にそれだけで喜んでいる。

アンドロイドなのに、アンドロイドとしてほとんど機能していないくせに、一手一足できることだけでもうれしそうにする。

なんだこれ、なんだこれわ。


Κ月Е日

……そうだ、魂など存在しないはずなのだ。

人は死ねば土にかえり、魂は天に昇らす、直ちに眠るだけのはずなのだ。

……それなのに、なぜおまえは、なぜ君は、そのプレゼントを喜ぶんだい?

なぜその存在を知っているんだい?

まるで知っていたかのように。


Ψ月Й日

結論から言うと、私には彼女を壊すのは無理であった。

そうだ、彼女は確かに今の姿はアンドロイドではある。

しかし、それでもその心の中、いや、魂の奥には我が娘がいることが分かった。

いや、もちろん彼女に入り込み過ぎることはない。

本物の我が娘はわが心の中にいるし、そこをはき違えていはいけない。

しかし、それでも娘の欠片でもある彼女を虐待することや、ひどいことをするのは私の美学に反するのだ。

ゆえに、せめて私が生きている間は彼女を平和に幸せに過ごせるようにはしたい。

……もっとも、すぐに打ち解けることは不可能だが。


§月К日

相変わらず、この娘はシズクの欠片だとわかることが多々ある。

人並み以上の愛嬌に、見るものをそれだけで安心させる雰囲気。

そして、寝たきりなこと多かったシズクノ唯一の趣味であった観測用ドローンの地味な操縦のうまさなど。

やはり彼女はシズクの一部なのだとしみじみと感じられた。


а月φ日

くそっ、組の連中にシズクの存在がばれかかっている。

一部では、再暗殺計画なんて、クソみたいな計画をたてていやがった!!

どうやら、この手の蛆虫は一度に度つぶすだけでは懲りないらしい。

今度は徹底的に、二度とそんな思いを浮かばないように滅しきってやる!!


±月Σ日

いそがしい、やばい。

シズクに会いたい。


×月θ日

シズクへのカモフラージュのために、何体か女性型のアンドロイドを引き取ることにした。

こいつらがいざというときのシズクの盾に焼逃げるための時間稼ぎになればいいのだが。

正直色々と望み薄そうだ。

……しかし、改めて思うが、やはりアンドロイドは嫌いだ。

娘の魂が入っているシズクだけが例外なのだろう。


Ζ月π日

いそがしい

やばい


¨月Й日

やばい

きけん


Δ月ψ日

……これは、もう、むりかもしれない。

覚悟は決めるべきだ。


φ月γ日

今日はシズクに最後のお別れを言い渡した。

だからこそわかる、彼女には我が娘の魂が、人の心が、優しき人間の血が流れているのだろう。

そのため、説得には非常に苦労した。

彼女の主人としての、命令権を使ってもなお、抵抗されてしまった。

だが、それでも君は幸せになってくれ。

私とは違う、いや、この地区の人間の元に行き、そこですべてを忘れ、新しいアンドロイド生、いや人生を歩んでくれ。

我が最後の娘として、シズクの生まれ変わりとして。

君が不幸だったのは私の娘だったからだ、この薄暗く裏切りと退廃蔓延る場所に住んでいたからだ。

しかし、君は太陽になれる素質がある。

だからこそ、君は幸せになってくれ。


……願わくば、君の未来に満開の幸せが続いていますように……



◆◇◆◇



*ログ1

「……だから、いったでしょう?」

を治療すると」


*ログ2

「ええ、ええ。あなたには生き残ってもらいますよ」

「何せ、あなた達は親子なんですから、きっとうまくいきますよ」


※ログ3

「どうです?少々割合は違いますが、あなたも同じ存在に慣れましたよ」

「そう、あなたの娘さんと同じ『人とアンドロイド』のその先の存在に、ですよ」


※ログ4

「ログチェック……3%」

「アンドロイドベースシステム……40%作動」

「う~~ん、悪くはない」

「しかし、それだけです」


※ログ5

「えぇ、えぇ、そうですよ」

「私たちにとって魂とは、単純な霊的なものではないと考えています」

「アンドロイドがなぜ超能力をつかえないのか?自動機械やAIではなぜ、電脳を持つアンドロイドを超えられないのか?その先に、魂に対する答えがあると確信しているのです」


※ログ6

「だからこそ、あのアンドロイドの電脳にはあなたの娘さんの死体の脳の一部を使用させていただきました」

「そう、常識で考えるなら無意味な行為です。ただ機械に生肉をつこむだけに等しい行為。現代科学ではまるで意味のないはずの行為。死体に機械をかぶせる?いえ、機械に死体を付属するだけの児戯にも等しい実験です」

「しかし、それでもなお、意味があったのは……あなたもよくご存じでしょう?」


※ログ7

「むぅ……」


※ログ8

「う~む」


※ログ9

「……はぁ、ここまでですか」


※ログ10

「えぇ、えぇ、今回の実験は非常に有意義でした」

「しかし、あなた達親子のおかげで、この世界はより一歩楽園に近づきました」

「そして、あなたも人とアンドロイドの進化の先、新人類の仲間入りができましたね」

「だからこそ、あなたはもう自由ですよ。残りは娘に再開するなり、新人類として、全てを導くか、お好きなようにしてよろしいですよ」


「新人類の先達として、あなたたちの行く末に幸あらんことを」

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