世の中、金とコネ


「やる気なら誰にも負けないつもりです!肉奴隷メイドでも、小悪魔メイドでも暗殺メイドでもなんでもやります!」


「前前職では、セントラル勤めのメイドアンドロイドの経験があります。

 残念ながら当時のデータはほとんどのデータは削除済みですが、それでもメイドに耐えうる構造をしているはずです!」


「確かに俺……いや、私は元ゴーストで、この体は自動機械。存在自体が犯罪者みたいなものです。ですが、ご主人様を養う……いや、俺の将来のためには万全に頑張るつもりがあります!」


「ふ、ふひゅひゅ♪せ、拙者なら一流のメイドずきゆぇ、一流のメイドになれると思うでござる!だ、だから、拙者をこのメイド天国で働かせるべきでござる!こぽぉぉwww」



◆◇◆◇



「とりあえず、怪しい裏がないのは後半二人か」


「むむむ、三人目は自動機械の体ですが、おそらく元男のアンドロイドですね。

……うん!ゴースト化しているとはいえ、アンドロイドとしての機能はちゃんと残っているみたいですね」


「なら、後半2人を採用するかぁ」


「えええぇぇぇぇ!!

 まさかの面談内容全否定!?」


録画した面談内容を改めて見返し、そして採用を決める。

メンバーは自分となぜか翡翠氏、さらにはお手伝いのコノミの三人体制だ。

もっとも、翡翠氏はあくまでヤジ専門だし、コノミはお茶くみ担当なので実質こちら一人で決めているのだが。


「にしても、まさかメイド喫茶方面や事務、何なら雑務枠まで全部埋まるとはなぁ。

 二次採用だと、メイドへの改造がガチだとわかって募集人数も少なくなると思ったんだが」


「そこはむしろ逆にといった所では?

 たとえ、工場に絶対服従と言えど、新しい体やまともな五感はそれ以上の魅力がるものなのよ」


今回の第二募集枠であつまった、大量に募集表を見ながら思わずため息を付く。

この募集表に書かれた無数のメイド工場への入社希望者達。

例えば、単純な無職や家計の助けのための主婦、出稼ぎ目当てのアンドロイドならまだいい。

でも、流石に元軍人や死にかけの老人、未来あるはずの学生、何なら若い男性までこの仕事の募集に来ているのは、果たして何かの罰ゲームなのか、それとも本気なのか、非常に判断に困るところだ。


「そ、それよりもご主人様!

 なんでこの前半2人は不採用なんですか?

 どちらもすごいかわいくて性格もよさそうですし、是非採用してあげるべきだと……」


「ああ、そいつらは他会社や団体からのスパイだからな。

 事前報告有なら採用だが、流石にインサイダーのまま二重雇用はなぁ」


「まぁ、でしょうね」


「えええぇぇぇぇぇ!!」


コノミは声を大にして驚いているが、どうやら翡翠のほうは予想済みだったようだ。

おそらく宝石の庭を運営しているため、似たような経験があるのだろう落ち着きが違う。


「前者はまだしも、後者は別地区からのスパイでしょ。

 どうやら、セントラル勤めなのも口で言っていること自体は嘘ではないけど、本人、いや本機がそれすら覚えておらず、体に盗聴器が仕掛けられているパターンね」


「あぁ、衣服ではなくそいつの体内から危険物判定が出たとか言ってたけどそれかぁ。

 初めから女の姿だとメイド改造を言い訳に、体内から盗聴器の類を取り除くわけにもいかんし、最悪電脳と一体化されている場合は取り除けもしないからな。

 まったく、面倒なことをして来るよ」


ドン引きしているコノミを尻目に画像チェックや新入社員面接を続けていく。

そもそもこの面談の録画のチェックも、あくまで、相手が隠している経歴や嘘をついていないか、さらには電脳世界でのネットタトゥーのチェックがメインではある。

そもそも一次審査の時点で、面接用の部下のメイド社員が人格面や表面の経歴はをチェックしているのだ。

発言や書類や電子データ上の経歴など二の次だ。


「にしても、このスピードで他地区からのスパイも来るレベルになるとは。

 貴方もなかなかに有名人になったのでは?

 ふふふ、早めに目を付けていおけたのは行幸だったわね」


「いや、どう考えてもメイドの珍しさ目当てだろ」


翡翠が笑いながらこちらをほめてくるが、こちらとしては、目立つのは嫌なのが本音だ。

正直、もし自分が戦闘力の高いファンタジー物の主人公みたいな人間なら、どんな困難も注目もどんと来いといえるのだろうが、残念ながらこの体は常人のサイボーグに毛が生えた程度のものだ。

もちろん、並な困難程度なら越えられるつもりではあるが、この地区内でも自分の手に余るような困難が目白押しなのだ。

これ以上の厄介ごとはNGである。


「……そういう意味では、この地区内で流れている俺が重度のメイド好きって噂も、イイ隠れ蓑になるのか。

 なるかも……いや、やっぱきついわ」


「いいじゃないメイド服!

 かわいいし、きれいだし、ロマンの塊じゃない!

 それにこれだけのクオリティのメイド服を仕立てておいて、メイド服好きじゃないっていうのは少し無理がる気がするわよ?」


その言葉とともに、翡翠がくるりとその身にまとうメイド服をこちらに見せつけてくる。

どちらかといえばいつもは女主人とか、そういう立場にいる人が恰好だけとはいえメイド服を着ているのは、好きか嫌いかといわれると好きではある。

が、それでも突然顔見知りが、メイド服で我が家にやってくるのはいろんな意味でハードルが高すぎるし、それがそれなりに有名人ともなればさらにだ。

明日からのご近所評判が怖いと思いつつ、すでに手遅れだろうなぁというどこか諦めの心が自分の中に芽生えているのもわかる。


「それに、コノミちゃんのメイド服も似合っているわよ♪

 しかも、専用のメイド服までもらっちゃって~。

 お姉さん、羨ましいわ~」


「ひゃ、ひゃうぅぅ!

 そ、そこは触れちゃダメです!

 そこから先を見ていいのはご主人様だけです!!」


「いや、別に俺は構わんぞ」


「ご、ご主人様!?」


まぁ、翡翠的には恐らくからかっているだけなのに、ほどほどに許可しつつ、2人の様子を見守る。

というか、今回の過剰な就職志願者の多さは恐らくはコノミが配信でそれとなくこのメイド服やら、このメイドカンパニー(仮)について紹介しやがったのもその一端だからな。

その上、なぜかここしばらくは積極的にメイド服を着てご近所さんを歩き回っているし。

少しくらい、主人の風評を考えてほしい、切実に。


「で、結局今回の採用はどうするつもり?」


「まぁ、本当に背後関係がまっさらな奴と、あとは適当にそっちや学園からの紹介を何人か……って感じかなぁ」


コノミをからかい終わった翡翠の問いに答える。

どうやら彼女も予想通りだったようでうんうんとうなずいていた。

一応、工場の規模を考えてまだまだ人員は足りないが、それでも1回や2回の募集で限界まで雇用を取るつもりはない。

しかも、こちらとしては別に借金や生産力不足で困っているわけでもないため、工場の生産力を急に増やす必要もなし。

ほどほどのスピードで、ゆっくり安全な人員を増やすだけでいいのだ。


「というわけで、こちらとしてはゆっくりほどほどのスピードで雇用を増やしていくつもりだから。

 一応は売り先は多くても、どこも今すぐに増産してくれって言ってるわけじゃないからな。

 俺が重度のメイド好きだっての悪評が薄まる程度のスピードでゆっくり社員を増やしていくさ」


「まぁ、手遅れだと思うけど、そこそこ応援しておくわね」


かくして、その日は翡翠が連れてきたメイドが作ってくれた、やけに手の込んだご飯を晩御飯にいただくのでした。


◇◆◇◆


なお、数日後。


「というわけで、以前の借りを返してもらう代金として、今から1か月以内に、18部隊分の武器を安定生産できるような工場体制を頼む」


「ははは、ナイスジョーク」


「もちろん、人材と金が足りないなら追加で出すからな。

 というわけで、これが俺が紹介する人材だ。

 こいつらも元プロだから、雇用しても邪魔にはならんはずだ」


「ふぁっきゅー」


かくして、断れない絶妙なタイミングで無茶と雇用を押し付けられるのでした。

さもあらん。


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