第6話 思いがけない南の島で④ ~目覚めろアナザーよ~
「目覚めろ……目覚めろアナザーよ」
先生の声が聞こえた。というわけで元気に挨拶。
「あ、おはようございます先生」
「ふいんき!」
注意された。何か違うのか怒られてしまった。
「先生のおかげで病気が!」
「ちがう」
「ふっ……死んだ両親が手招きしてたぜ」
「重い」
「こ、このからだをあふれるちからはーっ」
そう答えるとハイネ先生は声を殺して笑い出す。どうやらこれが模範解答だったらしい。
「くっくっくっ……気づいたようだな、なかなか筋がいいぞアナザーよ」
「ありがとうございます」
「だからふいんき!」
普通にお礼を言ったら怒られた。中々の理不尽である。
「こ、この天才めーおれのからだになにをしたー」
「……今のもう一回」
「おれのからだに」
無言でビンタしてきた先生。まだ手枷足枷があるから何も出来ない。
「こ、この天才めー」
「くっくっくっ……わかってるようだなアナザーよ。気に入ったうちの妹と会話する権利をやろう」
「いやそれはもう普通に」
「あぁん!?」
「ひぃごめんなさい」
ちょっと目が本気だった先生。会話する権利をもらわないと口を利いちゃいけないのかレーヴェンとは覚えておこう。
「まぁパンツイーターの二つの新機能について説明してやろう」
「二つも」
そんなにいらない。
「まずはそうだな……パンツアナライザーだ」
「パンツアナライザー」
「文字通りパンツに備わるスキルを解析する事が出来る画期的な能力だ。これでパンツだけで持ち主がどんな人物か予想が立てられる訳だな」
「変態すぎる」
パンツの解析なんてしたくなかった。
「そしてつぎは……パンツリベレーターだ」
「どうしてパンツ関連のパワーアップなんですか?」
「パンツリベレーターは相手をパンツから解放する事が出来る優れ物だ。ちなみにパンツは霧散する」
「すいません先生そんな風には聞こえません」
パンツからの解放って何ですかそれより手枷と足枷から解放してください。
「こいつは解放されたパンツの持ち主と同じだけの身体能力を得ることが出来る。お前スキル持て余してただろ? これを強い奴に使えば同等以上に戦えるぞ」
「つよい」
思わずつぶやいてしまう。これなら相手のパンツを霧散させた上に俺だけ強くなれるのか。これうまく使えばもうパンツなんて食べなくて良いんじゃないか。
「ただし3分間の時間制限付きだけどな。その後はまあ、相手の程度にもよるが基本全身筋肉痛だ」
やっぱ使わないでおこう。
「ああ、あと間違っても自分のパンツには使うなよ。シミュレートしてみたらバグって初期化されるっぽいから。集めたスキルが全部パーだ」
「俺って自分のパンツ破壊するぐらい馬鹿に見えます?」
「見えてるから説明してんだろアホかアホだなアホだわお前」
すっごい馬鹿にされた。そうか先生には俺が自分のパンツを霧散させるアホに見えるのか。
「まあその……ありがとうございました流石天才ハイネ先生です」
それでもお礼を口にする。最後の言葉が効いたのか、先生はうれしそうに何度も頷いてくれた。ちょろい。
「うんうん、わかったようで何より」
それにしても、先生もとい魔族の力には感心せずにはいられなかった。ハイネの水晶玉もそうだったが、どう考えても俺達との間に力の差がありすぎる。魔王討伐なんてお題目を掲げてはいるが、本気になった彼ら相手に戦う手段など、もしかして始めから。
「じゃ、記憶消すか!」
「待ってました!」
とか小難しいことを考えていたら先生がうれしいことを言ってくれた。そうだ全部忘れよう何か首輪だけついてるけど特に生活には支障がなさそうだし全部忘れて家で寝よう。
なんて考えていると、突然家の中に鐘の音が響き渡った。
「誰か来たな」
「結構お客さん多いんですか?」
「宅配業者が7割で妹が2割で残りは招かれざる客だ」
まぁ先生人付き合いとか面倒くさがりそうですもんね。
「おねえちゃん遊びに来た」
「2割来た」
勝手に扉を開けて、レーヴェンが入ってきた。ベッドの位置のおかげで、首を動かせばうれしそうなその表情が見て取れた。
「レーヴェンか久しぶりだな」
ハイネ先生がそう答えると、レーヴェンはゆっくりと抱きついた。どうやら姉妹の仲は俺が想像しているよりずっと良いらしい。
「近く寄ったから……まてどうしてキールがここにいるの」
と、俺に気づいたレーヴェンの目の色が変わる。敵意むき出しで睨んで来る、こわい。
「浜辺に落ちてた」
「そう」
ゆっくりと台所に寄って、包丁を手に取ってから俺のそばに立つレーヴェン。
「じゃ、キール死んで」
「なんで! 何もしてないって!」
「パンツイーター強化しただろもう忘れたのか」
「それはしてもらいましたけどそういう意味じゃなくて!」
「しらばっくれてもダメ。おねえちゃんが可愛いからあの手この手でとりいって……あまつさえベッドに横たわってるなんて不潔すぎる」
「先生妹の目が悪いみたいです直してあげてください」
「お医者さんごっこまでして……!」
してませんってば。
「まあ落ち着け二人とも、とりあえず事情聞きたいからその辺に座れ」
ようやく仲裁に入ってくれた先生が、レーヴェンから包丁を受け取りソファーを指差す。良かった死ぬことはこれで無くなった。
「友達もいい?」
「ああ、もちろん」
「みんな、入って良いって」
その言葉に従って、ぞろぞろと顔を出す旅の女性陣。まずはセツナの入場です。
「キール様、人が心配していたら幼女とお医者さんごっことはいよいよ貴族らしくいいご身分になられたようですね。感激しました」
「無表情で感激しないでくれる?」
開口一番そんな事を言わないで下さい。はい次のアイラね。
「おじゃまします……とりあえずキールさん、セツナさんに謝ったほうがいいと思いますよ?」
「なんかごめんなさい」
謝罪の言葉を口にする。セツナの顔に目線を向ければ、その瞼が少し腫れていたような気がした。気がしただけ。はい次のシンシアね。
「オーッホッホ、無様ねキー」
「ね、ねぇシンシア様……今日の髪型変じゃないかしら」
横で髪の先をいじっている、元ラシックの取り巻きの武道家の少女も。
「ル=B=クワイエット! どこをほっつき歩いてるかと思っていたら幼女とS」
「シンシア……浜辺で綺麗な貝殻を拾ったんだが君に似合うと思うんだ」
貝殻を手に持って恍惚の表情を浮かべる、元ラシックの取り巻きの剣士も。
「Mだなんて優雅な遊びを覚えたようね? 五分でいいか」
「シンシア姉さま、海、海いっしょにいこ」
彼女の服の袖を引っ張りせがむ、元ラシックの取り巻きのシスターも。
「ら代わってくれないかしら!?」
全員が全員でシンシアの台詞の邪魔をした。なんかもう全員メロメロじゃないか学生のときに良く見た光景で懐かしいわ。
「お前は色々清算してから入れ」
「三人ともステイ!」
シンシアにそう言えば、彼女は号令を出した。そしてそのまま三人を外に放置し、家の扉をゆっくりと閉めた。
「これでいいわね」
俺の知らない間に旅の仲間って言うかペットの雌犬が三人も増えたらしい。躾も十分なさってるようで何よりです。
「ま、アナザーどもも適当にかけてくれ。レーヴェンには……何があったか説明してもらうぞ」
「まかせて」
胸を張って彼女が答える。それに不安しか覚えないのは、なぜだか多分俺だけのような気がした。
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