第7話 おいでませ魔王城① ~お前はこっちだ~
タマの上に乗り、俺達はその高く聳える城を睨んだ。
「いよいよね、キール」
「ああ、そうだな……」
シンシアの言葉に思わず頷く。曰くそこは地獄の入り口、曰くそこは悪魔の棲家。この世界の誰もが寝物語に聞かされる、諸悪の根源がそこにある。
「ここがわたくし達の」
そこから下げられる数々の垂れ幕。『レーヴェン様おかえりなさい』『レーヴェンちゃんお疲れ様』『レーヴェンお嬢様万歳』『レーヴェンかわいい』等などで。
「今日の泊まるところだ!」
緊張感の欠片もなかった。ただレーヴェンの横顔が満足そうで、それ以上何か喋る気力は失せてしまった。
魔王城の門が開けば、鳴り響くファンファーレ。ずらっと並ぶ楽団に頭を垂れる使用人。
「レーヴェン様がお戻りになられたぞー!」
拍手の波が俺達を包む。先陣を切るレーヴェンは鼻息を荒くして堂々と歩いていく。
「凄い出迎えだな」
「愛されてるから」
その通りなのだろうと、出迎える人々の表情を見て実感する。トランペットを吹く楽士も紙吹雪を撒くメイドも、皆幸せそうな顔を浮かべている。
「なまら豪華です……本当に魔界のお姫様だったんですね」
「信じてなかった?」
「あ、いやそんな事は」
「冗談」
人の壁を進んでいった先に、深々と頭を下げるメイドの格好をした老婆がいた。
「お待ちしておりましたお嬢様」
「ばあや、ただいま……パパは仕事?」
「ええ、ヴァイス様は現在執務中……のはずです。ご夕食は是非ご一緒したいとおっしゃっておりましたので、それまでお部屋でお休みになってはいかがでしょうか」
淡々と冷たい声で彼女は魅力的な提案をしてくれた。タマに乗って移動していたせいで顔が非常にしょっぱいから、さっさと洗ってしまいたいのだ。
「みんなも泊めてあげたいんだけどいいかな?」
「既にご用意しております。ハイネお嬢様から改めてご連絡がありましたので」
「さすがばあや、話が早い」
さすが先生、頼りになるな。
「さあ、皆様こちらです」
というわけで、ばあやの案内に従って俺達はぞろぞろと列になって進み始めた。あたりを見回せば、なるほどシンシアの家どころかエルガイスト城が霞むぐらいの豪華さである。特筆すべきはその明るさだ、魔法ですらないのだろう真っ白い光る四角い箱がいくつも天井に貼り付けられていた。そう言えば先生の部屋にも似たようなものがついてたかな、なんて考えていた瞬間。
両腕を屈強な男達に掴まれた。
「お前はこっちだ」
「え?」
そして連行される俺。戸惑う俺をよそに女性陣がどんどんと遠くなる。助けてという声は届かず、そのままずるずると引き摺られる。俺、何か悪い事したのだろうか。
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