第6話 思いがけない南の島で② ~遭難しちゃった~
握り締めていたそれを、天高く掲げてみた。昆布だった。なんだこれ。昆布か。
下半身にかかる波、顔に貼り付く白い砂。起き上がれば、目の前に広がる青い海。見回せば、背の高い見たことも無い植物。
いい天気だ。青い空白い雲、青い海に白い砂浜。本で読んだ南の島の景色が広がっていたから、ようやく俺は理解した。
「……遭難しちゃった」
現状把握。
まず、船の破片とかは漂着していないことから、どういうわけかここに流されたのは俺だけだろう。どうして人間だけこんな場所にいるのかという疑問はさておき、キール=B=クワイエットは遭難したのだ。
次に頬をつねる。痛い、うん夢じゃない。天国には痛覚があるなら話は別だが、何とか命拾いしたらしい。
それから、他の人はどうなったか。確かめようはひとつも無い。彼女に何かあったらと思うと目の前が暗くなるから、それは一旦頭の隅に追いやってしまうことにした。大丈夫、皆は無事だと言い聞かせる。それに船は港の近くで沈んだのだ、普通に考えればこんな南まで流される俺のほうが異常だと。
最後に立ち上がる。やることは山ほどある。水と食料の確保、寝る場所、救難信号。だというのに俺の足りない頭じゃそのやり方が何一つ思いつかない。
「川とかあるのかな……」
独り言をつぶやいて、ゆっくりと歩き出す。こんな時誰かがいたらと思ったが、こんな事に誰も巻き込まなくて良かったと心の底から安堵しながら。
かなり歩いた、ような気がする。
正確な時間がわからない上に照りつける太陽がまぶしくて、随分と疲れてしまったように感じた。途中拾った木を杖にして進んでいるが、川なんて見つからない。というかもしかして、川って山がないと存在してないんじゃないかと気づく。つまり徒労俺は疲労踏んだぜ二の足無駄足チェケラ。
暑さでやられているようだ、おかしな思考が過ぎってしまう。それでも歩く。何でもいい、何かここから助かる手立てが、一つでも見つかるならと。
その時だった。視界の端で砂浜を動く影を見つけた。そしてポケットの中に殿下からもらったオペラグラスが入っていたことも思い出せた。ありがとう殿下どうかご無事で。
かける、見る、確認する。そして叫ぶ。
「人だああああああああっ!」
無我夢中で走り出す。良かった助かったおなか減ったのど渇いた。どうやら背格好からして子供のようだけどそんなことはどうだっていい、恥も外聞もなく距離をつめる。
うん、子供だ。南の島だからか日に焼けた褐色の肌に白い髪をツインテールになんかしちゃってる子供。ちなみに白衣なんて着てるぞお医者さんごっことか好きなのかな。
「うあわっ!?」
彼女の悲鳴が聞こえた。その瞬間、落ちた。下に落ちる俺。こう、ストンという擬音が非常に良く似合う感じで落ちる。尻餅をついて見上げれば、真ん丸い窓のような穴から青空が見えていた。それから遅れて、少女が顔を出してくれた。
「ビックリしたから防犯落とし穴使っちゃっただろ……」
「王都で人を驚かせるのが流行ってて」
渇いた口が思いのほか動いて冗談を繰り出す。どうやら人にあえた事で、驚くほど舞い上がっていたようだ。
「王都……なんだお前アナザーか」
「あなざー?」
「いやいい、こっちの話」
聞きなれない単語を聞き返せば、彼女は首を左右に振る。
「んん? んーーー?」
と思ったら、今度は俺を凝視してきた。その視線の先にあるのは俺の顔、ではなく。
「ちょっと這い上がってその首についてるの見せてみろ」
レーヴェンに無理やりつけさせられた、パンツイーターの首輪だった。
「その前に一つ頼んでもいいでしょうか」
「ある程度ならな」
だがそれより前に、やることがあった。そう子供にこれを見せるより、もっとずっと大事なことが。
「遭難しました助けてください!」
頭を下げて頼み込む、遅れて聞こえてきたため息についで、放り投げられた一筋のロープが彼女からの答えだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます