第2話 颯爽登場悪役令嬢① ~どうしてこんな酷いことを~
「レーヴェン様、ようやく目を覚ましましたよ」
「やっと起きたようね……あれしきのことで二日も寝込むなんて、これだからこっちの人間は」
部屋に入ってくるなりいきなり悪態をつく占い師の少女。フードを取ったその顔は整っていて、金色の瞳がよく似合っていた。けど魔族なんだよねこの人何で屋敷にセツナは招いているのかな。
「ええと占い師さん、名前は……レーヴェン? いい名前だね」
「パパがくれた自慢の名前」
「そっか」
自慢げに笑う彼女、思わず俺も微笑んでしまう。そうかレーヴェンねいい名前だねそれがわかったらやることは一つだね。
「セツナ、レーヴェンがお帰りだぞ」
帰れ。宿でも魔界でもどこでもいいから帰ってくれ。
「私の客でもあるのでそれは出来ません」
だが断るセツナ。どうやらこの間からメイドの仕事の一切を放棄したらしい。服は一応メイド服を着ているが、詐欺だと思っていいだろう。メイド詐欺だ。
「せめて客間でいいよね? ここ俺の部屋だし」
「いいえ、キール様に関係がありますので」
「そっか」
なるほどね、俺の悪夢は現実でレーヴェンはそれを押し付けた張本人でパンツを盗まれたセツナは俺に関係があるという。
だから脱兎の如く布団に潜り込んだ俺。
「いやだもうあんな化け物と関わりたくない俺はここで無能領主として一生を終えるんだパンツ代は好きに使っていいからお客様に帰ってもらえ!」
「意気地なし」
なんとでも言えこの偽占い師め。
「それよりキール様、今日のパンツを召し上がって下さい。ノルマなので」
「なんだよノルマって!」
「それはわたしが説明する」
布団にくるまりながら顔だけ出す。納得の行く説明がされるとは思わないが、耳ぐらいは傾けたっていいだろう。
「あなたはパンツイーターの力を手に入れ……パパの魔王としての能力を手に入れた。ちなみにパンツイーターはパンツを食べると履いてた人の能力を手に入れられる禁断の道具」
「魔族の言葉はやめてくれ理解に苦しむ」
いきなり意味がわからないが、レーヴェンは言葉を続ける。
「けど、魔王としての力は強すぎて今のあなたには使いこなせない。たかだか低級魔法を使った程度で気絶した。だからあなたは、これから強くならなければならない。そのためには数々のパンツを食べて強さを積み重ね、いずれは魔王としての力を使いこなし」
そして彼女は拳を天高く掲げて叫ぶ。人の家で、人の寝室で。
「勇者を……倒す!」
叫んだ。力強くこれはもう絶対にやってやるぞ的な鼻息なんて荒くして。
「やりましょうキール様、あのサイコパスをギャフンと言わせてやりましょう」
同調するセツナ。ここはテロリストの決起集会場かどこかだろうか。違った俺の寝室だ。しかもなんだギャフンって。
「いや……俺やらないから。この首輪他の誰かに渡して頼んでもらってくれないかな。今外すから」
とりあえず首輪に手をかける。あまり装飾品の類はつけないが外すぐらい簡単だろう。例えばほらここに金具みたいのがね、ないね。外せませんね。
「外せると思った?」
「どうしてこんな酷いことを」
「さっきも言った。わたしは勇者を倒したい」
「私はパンツを返してくれたらそれで」
決起集会場に沈黙が続く。そうだ一旦冷静になろう、ここは仕方なく布団から脱出して飲みかけのコーヒーを飲み干そう。それから窓辺に腰を掛け、ナルシストみたいに髪をかきあげてみる。
「わかった、現実的な話をしよう……勇者を倒しに行くとして、どうやって追いかける?」
「うちの倉庫に馬車があります」
「それは知ってるけど……誰が扱うのさ」
「セバス執事長なら。あの方がいれば旅の殆どの困難はなんとかなるでしょう」
自然とため息が漏れてしまう。当然セバスが旅に同行してくれるっていうなら、面倒な事は何一つ無い快適そのものの旅行になるだろうけど。
「俺もセバスもいなかったらここの領地終わりだよ……」
彼には領主代行としての地位がある。仕事としては簡単だが、重要度しては高い。
「誰か雇えば?」
「あのさレーヴェン、魔王の娘がそんな簡単に人目に触れるのはどうかと思うんだけど」
「かしこい」
君はそうでもないよね、と言いかけたが胸に留める。それが大人の対応だ。
「となると……方法は一つしかないですね」
「そうね、それが正解」
二人は互いの顔を見て、うんうんと頷いた。どうやら俺が寝ている間に随分と仲良くなったらしい。
「どうした二人とも」
そこからは早かった。レーヴェンが一気に俺の背後に周り、一瞬で羽交い締めにしてきた。そんな強いなら一人で勇者倒してくれと思わなくもない。
「あ、ちょっとレーヴェン離せ何をする!」
「キール様、薬だと思って我慢して下さい」
そしてセツナ。俺が今朝食べなかったパンツをトングでつかみ、人の口に近づけてくる。
「いやまてそれパンツだから! 誰の」
その答えに気づいてしまう。そしてその顔が思い浮かぶ。俺が生まれたときから世話を焼いてくれたセバスの顔を。学園に合格したときに泣いて喜んでいた顔を。俺が家でゴロゴロしてるとため息をついていた顔を。
――全部髭面のジジイだこれ。
「嫌だああああああああっ!」
『エピックスキル、"スーパー執事"を獲得しました』
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