第2話 颯爽登場悪役令嬢② ~貴族としての品格を領地に忘れてきたボンクラ~
「で、今勇者はどこにいるんですか?」
「今占う……」
人にジジイのパンツを食わせた二人は、仲よさそうに水晶玉を覗き込んでいる。俺の寝室で。場所変える気はないらしい。
「ここ、隣のリーゼロッテ領ですね。良いですよね綺麗で娯楽施設も多くて。うちとは大違いで」
お隣様のリーゼロッテか。確かにあそこは良いところだと素直に思う。豪華な建造物に数え切れないほどの商店、劇場に美術館に博物館と何でもござれ。ただまああそこを遊び尽くすには、俺の小遣いじゃ足りないのが玉に瑕だが。
「徒歩で二日ならおそらく着いたばかり……まだ間に合う」
「そういえば、キール様のご学友がいらしましたよね」
「ああシンシアね。リーゼロッテ家の三女の」
そこでふと思いつく、思いついてしまったんだ。しばらく会っていない彼女の事を、学生時代轟かせた悪名を。
「よし行こうすぐに行こう! 折角だからシンシアにも事情を話して手伝ってもらおう! 大丈夫二人が頼めば簡単さ!」
「あやしい」
「何ですか突然」
「信頼できる仲間は多い方が良いよね?」
そこで口を噤む二人。当然だ、シンシアがどんな人間かなんて知らないのだ。
「ようしそれじゃあ早速……リーゼロッテ家に出発だ!」
彼女の事を思い出す。容姿端麗成績優秀、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は縦ロール。そんな彼女を前にして、男子諸君はこう呼んだ。
――悪役令嬢と。
馬車を走らせる事数時間。昼食も取らずに延々と飛ばしていられたのは、セバスのパンツのおかげだと思うとやるせない。それでも俺達はなんとかリーゼロッテ家の門まで到着する事が出来た。明日腰痛だなこれ。
「ここがリーゼロッテ家ですか」
「ふっ、わたしの実家の方が大きい」
「さいですか」
馬車から顔を出し、勝ち誇った顔を浮かべるレーヴェン。そりゃ魔王城はさぞ大きいんでしょうね、見たこともないし見たくもないけど。
流石シンシアの実家ということもあり、門の前で待っているとすぐにメイドがやってきた。ちなみにセツナが着ているウチのとは大違い、フリフリでスカートが短いメイド服を着用していた。
「あの、すいません。シンシアさんにとりついで欲しいんですが……ご在宅です?」
ポケットから財布を取り出しメイドに見せる。それだけで彼女は深々と頭を下げ、重い鉄の門を開いてくれた。
「顔パス?」
「家紋のおかげだよ」
素朴なレーヴェンの疑問に答える。財布にあしらわれたクワイエット家の家紋は、これぐらいの事をやってのけるだけの効力はあるのだ。
もっとも馬車を操っているのが、そこの家長だとメイドは思いもしないだろうが。
豪華絢爛美辞麗句、世間一般が貴族の屋敷と想像する光景が俺たちの目の前に広がっていた。ずらっと並ぶ使用人に所狭しとかけられた肖像画、凝った作りの高級家具とどれをとっても俺の小遣いでは到底手出し出来ないもので溢れている。
そして、シンシア=リーゼロッテ。空色の豪華なドレスに青い宝石の首飾り、なにより金髪縦ロール。もはや貴族以外何に見えるのかと疑わずにはいられない彼女は、扇子で口元なんか隠して。
「あら、久しぶりじゃないキール=B=クワイエット。一体どんな了見でその汚い土足で我が家に踏みいれ」
そこで言葉が途切れる。彼女は俺の足元に視線を送って吐き捨てるように続けた。
「本当に汚いわね」
「馬車を扱うのって結構汚れるんだなって」
そりゃ土埃上げる馬の後ろに何時間もいたのだから、汚れているのは当然だった。ただそれにしても、他人の家にお邪魔するにはあんまりな汚れ具合だった。
「……あなたなにやってんの? それにそこの二人は?」
「一人はうちのメイドで、もう一人は最近雇った占い師。ほら、災害とか予見できたら助かるだろ色々」
「ふーん……」
シンシアの目は二人から離れない。服やアクセサリーの類を品定めするかのように、上から下まで視線を動かす。まぁ実際そのとおり何だけどさ。
「メイド長! そこの貴族としての品格を領地に忘れてきたボンクラに風呂の用意を! あとの二人は」
彼女のところのメイドが俺の腕を掴み、乱暴に風呂場へと連行する。少しだけ振り返るとシンシアは、聖母像のような笑みをセツナとレーヴェンに向けていて。
「長旅疲れたでしょう? わたくしの部屋で……ティータイムにいたしましょうか」
甘い言葉を囁いた。どちらかというと悪魔みたいに。
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