第4話 友と都と勇者の行方② ~ティシュって紙~
――学生時代にこんな事があった。
俺の部屋でいつものようにお菓子やら飲み物やらを持ち込んできたフェリックスが口を開く。少しくせ毛の金髪に整った容姿高い身長で王族と来れば当然のようにモテモテだが、下手に女性に手を出せばそのまま政治問題になりかねないためこうして俺の部屋で暇をつぶすのが常であった。
「なあキール、二日後にこの学校の悪習とも呼ぶべき定期試験が行われるのだが……お前、勉強したか?」
「答えの分かってる質問をするあたり、フェリックスも俺と同じらしいな」
「違いない……だが安心しろ親友。オレはこの悪習を攻略する最強のアイテムを手に入れた……それがこれだ」
わざとらしく髪を掻き上げてから、一枚の紙きれを突き出すフェリックス。
「随分薄い紙だな」
「最近出来た鼻をかむのに最適なティシュとかいう紙らしくてな。少し値は張ったがそれはいい……それよりもここに文字を書いてみろ」
受け取り、適当に自分の名前を書いてみる。普通のものより随分と滲むがそれにしても薄いなこの紙。
「書いたぞ、だがこれが何になるんだ」
「そしてこれを……剥がす!」
「二枚になったな」
薄い紙がさらに薄くなる。そして複写されるキールBクワイエットの文字列。
「つまり、だ。これでカンニングペーパーを作れば……一度に二枚作れるという訳だ!」
「何だと……!?」
あの頃の俺達は、とにかく不真面目だった。いや今もそうではあるのだが、とにかく遊ぶことしか考えていない一般的な男子学生だったのだ。王族だろうが領主だろうが、そこに例外なんて無かった。
「奇しくも今回の試験は八科目、オレとお前で分担すれば……作業は半分で済む!」
「フェリックス、お前は天才か」
「やろうぜ親友……そしてこの悪習に反逆の狼煙を上げるんだ!」
「ああ……!」
差し出された右手を握り返す。俺達は今度こそ、貴重な休日を補修で費やすまいと誓ったのであった。
んで、試験当日どうなったかと言えば。
「フェリックス、俺の分は?」
珍しく俺よりも早く教室にいたフェリックスに当然のように要求する。のだが、返ってきたのは気だるそうな返事で。
「ん? ああ、あのティシュって紙さ、その……使い切っちゃって」
「何だと」
「まあまて親友、お前にだけ教えてやる。あのティシュって紙な」
フェリックスが俺の肩を優しく叩く。そして満面の笑みを浮かべて、俺にこう言ったのだ。
「シコるのに……最適だぞ!」
仕方のないことだった。男子学生に薄くて手触りの良い紙を渡せば、やることはもうただ一つ。特に俺もフェリックスも、女性に変に手を出してしまえば将来まで決まってしまうような立場だったこともあり、それはもうスケベな本なんかは山程持っていたのだ。
「それはもう知ってんだよなぁ……」
そう、仕方のないことなのだ。俺だって薄い紙を手渡せされれば、よしフェリックスが半分カンペ用意するから俺はやらなくてもいいなという思考回路になってしまう。
「は? いや待て、ということはあれかオレの分のカンペは」
「あるわけないだろ……だから貰いに来たんだろお前の分を」
俺達は立ち上がり、互いの胸ぐらを掴んだ。自分がカンペを作らなかった事を棚に上げ、無言で互いの胸倉を掴む。
教室の空気は別に張り詰めない。ああまたあの二人ねとため息しか聞こえてこない。結局俺達の扱いっていうのは、学校という特殊な環境のおかげでその程度のものであり。
「はい、皆さん試験を始めるので席について下さい」
結局この時だって、二人仲良く補修を受ける羽目になりましたとさ。おしまい。
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