第4話 友と都と勇者の行方⑦ ~パンツだろ~
王様との謁見を終えた勇者一行を城内の踊り場で待ち受けていた俺達。向こうがこっちに気づくよりも早く、フェリックスはわざとらしいお辞儀をした。
「これはこれは勇者ラシック様、お忙しい中我らが王に足を運んでいただけるとは恐縮の極みでございます。私は第三王子のフェリックス=L=ガイスト、以後お見知りおきを」
「え、ああ……どうもその、勇者ラシックですけども」
応対する勇者だったが、俺の顔を見るなり一瞬で冷たい表情へと変わった。
「どうしてその人が?」
「お知り合い……でしたね。こっちは学生時代の悪友キール=B=クワイエットとメイドのセツナ、それから占い師のレーヴェンでございます。何やら勇者様の行動にえらく感動して、自分もなにかさせて欲しいとのことで連れてきた次第です」
「や、やあどうも……昨日ぶり」
ここはこうね、都会の流行のフランクな感じで押し切ったけど駄目だね全員武器を突きつけてきたね。周りの兵隊とか見て見ぬふりしてるよ勝てないのわかるけど仕事して下さい死んでしまいます。
「いや、その喧嘩したい訳じゃないんだ本当。小切手を用意してあるんだ、ある程度の金額までなら応じるから、屋敷から貸出中の物を返して欲しくて」
「わたしはあなたを殺」
「黙っててお願いだから」
それから少しの沈黙。以外な事に一番早く武器を収めたのは、一番俺を恨んでいそうな勇者だった。
「ラシック、そんな奴の話を聞かないで!」
「どうせ罠だ、王子を抱き込み我々を謀ろうとは卑劣な奴め」
「貴族、悪いやつ……皆知ってる」
例の三人娘が藪から棒に余計な事を言う。
「キール様、随分嫌われましたね」
「自業自得じゃない自信はあるよ」
ついでにセツナも余計な事を言うが、こっちは反論出来るだけマシか。
「まあまあ三人共……軍資金の申し出なら、ぜひ受けたいのが本音だろう?」
ラシックがそう言えば、三人は黙り込む。そりゃ四人旅なんていくらあっても困らないだろうさ。
「けどその前に……フェリックス王子。失礼ながら、一つだけご確認してもよろしいでしょうか」
勇者は恭しく膝を付き、フェリックスに頭を垂れる。
「あ、ああ何でも聞いてくれ」
一方の王子様はもう王族らしい口調に耐えられなくなったのか、砕けた言葉で気楽に返す。そっちのほうが彼らしくて、少し安心してしまう自分がいた。
「我々勇者一行がこちらのキールさんより借り受けた物が何か、ご存知でし」
「パンツだろ? そこのセツナちゃんの」
――いや砕けすぎでしょ君。
「フェリックウウウウウウウウウウウウス!」
「あ、言っちゃ駄目だったのかこれ」
何さらっと答えてんだよ何が言っちゃ駄目だったのかだよ駄目に決まってんだろ勇者が下着泥棒ですって問題じゃないなら何なんだよ脳みそまで砕けてんのかもう怒るよ。
「二人共死ねええええええええっ!」
「ちょああああっ!?」
飛んでくる剣をなんとか避ける、というか風圧みたいなもので吹き飛ばされる俺達。さっきまで豪華だったはずのお城はすっかり風通しの良いデザインへと変貌していた。
「まったく、こうなることを予想するべき」
「ですね、後ろから殺したほうが良かったです」
瓦礫から出るなり女性陣が物騒な事を言うが今はそんな事はどうでもいい。
「いやお前、俺が勇者が下着泥棒だって知ったから殺されかけたって言っただろ!」
「聞いてねぇよ勇者が下着泥棒だって知ってたけどそれが原因だとはなぁおい!」
俺が胸ぐらをつかんで怒鳴れば、向こうも同じことをしてくる。
「下着泥棒下着泥棒……大声で叫ぶなあっ!」
勇者が半狂乱で切りつけてきて、残り三人も目を血走らせて追撃してくる。何とか物陰に隠れた俺達だったが、こんな柱一発も持たないだろうと嫌な想像が掻き立てられる。
「おい親友さっきパンツ食っただろ、あれでお前何とかしろ」
「はあっ!? どうやって”女の子同士のイチャイチャ見守り隊”で戦うんだよ!」
「あのクソ兄貴使えねーなあっ!」
何さらっと持ち主白状してるんだお前は。
「喧嘩してる暇はない……キール、なんとかして」
「いやお前ね、魔王の奴強力過ぎて城壊れるだろ」
レーヴェンの言葉に冷静に返すが、彼女は不敵に笑うだけ。
「向こうが勇者のスキルを使うなら……こっちも勇者になればいい。これ返す、こんなこともあろうかとポケットに入れて持ち歩いていたことを褒めて欲しい」
そして俺に手渡すのは、やっぱりね、パンツなんですね。でもこれをポケットに入れていたことは、褒めてやらないといけない気がした。
「……報酬はアイスクリームで我慢してくれ!」
俺は柱から身を乗り出し、城の兵士が落とした剣を拾い上げる。そして左手には勇者のパンツ、もうどうにでもなれ。
「死ねえええええキイイイイイイイル!」
『パンツイーターシステム発動』
飲み込めば体が動く。ラシックの剣戟が、先程は嘘のように遅く見える。
「ふん、訳の分からん力で剣まで扱えるようになったか!」
右、左、上、右。全て弾く。次、炎の魔法剣。だったら同じものをぶつける。
「そんな、ラシックの技が相殺されていく……」
武闘家の子解説どうも。同じ技量のおかげで、目の前の男はもう驚異では無くなっていた。もっとも明日は全身筋肉痛だろうが、この場を十分凌げればいい。次々と来る攻撃に、同じものをぶつけるだけの作業。
けど。
わかっている、スキル名は聞いてしまった。何とか隊なんてふざけた物じゃない、列記としたその名前を。
「なぁお前、もしかして」
ラシックの大振りを弾き飛ばして、ゆっくりと口を開く。
響き渡ったさっきの言葉が、頭の中で反芻される。間違いじゃない、この男の戦い方が嘘じゃないと教えてくれた。
『レアスキル「魔法剣士」を入手しました』
あれは確かにそう言った。魔王と対になり得ない、少し珍しい程度の名前を。
「偽物……なのか?」
俺の出した結論は、間違いなんかじゃないはずだ。
◆◆◆今回の獲得スキル◆◆◆
レアスキル:魔法剣士
アーツ:ファイアスラッシュ ウィンドエッジ 氷雪斬 紫電突 エンチャントソード
レアスキル:女の子同士のイチャイチャ見守り隊
アーツ:隠密 忍び足 熱い眼差し 地獄耳 オペラグラス常備 妄想
女の子二人が手を恋人つなぎをしているのにこっちを向いている表紙の本ならどんな厚さでも破ける
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