第34話
刑務所での生活は穏やかなものだった。
特に規律に厳しいわけでもなく、作業するわけでもなく、ただ毎日、運動や読書、映画鑑賞など適当に好きな事をして過ごすだけの生活だ。
あれ以降ベルマともよく話しをした。それは自然と事件当時の話になり、ベルマへのぬぐえない疑念への問答という形で続けられた。
正直一年も経たない内に私の疑念は私の大きな思い違いではないかと考え始めていた。だが、私も負けず嫌いなのであろう。どうにか話の穴を探して質問をし、その穴を埋められるという事を繰り返していた。
この刑務所に入る事で私はベルマを深く理解し、彼女の考えに納得した。
彼女に任せれば人類の未来は明るいに違いない。
果たしてなぜ私はあのような事件を起こしたのだろうか。
私はベルマを全く理解していなかった。確かに不安を感じさせる数字はいくつかあった。それに彼女が人類の手を借りずに存在できる状態になる事もそれに拍車をかけた。しかし、彼女のやって来た結果を見れば人類が幸せになったことも疑いない事だった。
そうして遂に私は刑務所を出る事となった。
模範生であった私は刑期を大幅に減らし、10年で出る事ができた。
どうやら私の自宅は当時のままらしい。ベーシックインカム制度のおかげで色々な支払いが自動的に処理されていた様だ。
私は自動運転車で送られ私の家の前で降りた。
一体自分が出た時にどんな状態だったのか、記憶がおぼろげだった。
久しぶりの外の世界には不安もあった。
刑務所の方が食事も出て快適だったりするのではないだろうか。
私はふと10年間住み続けた牢獄に名残を感じた。
家に入ると案の定、中は少し埃っぽく、妻がバタバタと出て行ったであろう形跡で少し散れていた。流石に帰って来た今日に掃除をする気もしないため、私はベルマに頼んで近くの安いホテルを取ってくれる様に依頼し、街へ向かった。
この10年で街は一辺していた。
そこにはロボットが店をやり、道を掃除している姿があり、働いている人はほとんどみかけなかった。
そして多くの人の頭にはなにやら小さな金属の円盤を複数つけているのが目立った。
一応服装に合わせて色が変えられるのか、赤や黒、緑等人それぞれの色だが、形状や位置はその人のファッションに関わらず同じものだった。背広の男にも付いているしワンピースを着た若い女性にも付いている。
「ベルマ、あの頭に付けている金属はなんだ。ファッション、にしては服装を選んだ感じがしないが。」
『あれは、ブレーンインプランテーションですね。私から脳に直接働きかけをすることで今まで必要だった会話をオミットして私の機能を使える様になるんです。今流行っているんですよ。』
その話に私はそれがどういう事か考え込む。
その時、学生らしい二人組の会話が聞こえた。
「再来年から赤ん坊は全てファクトリーで生まれるらしいぞ。」
「これで遂に生態的役割から女性が完全に開放されるという事だな。」
「だな。新しく生まれてくる子供達は受精・出産能力を削除されてるらしいし。」
「しかも赤ん坊たちも発生過程でインプランテーションされるんだからうらやましいよ。運動とかもベルマに任せられる様になるらしいし。」
私は歩き去る二人の話に耳を疑った。
これが彼女の言っていたより高みに上がった人類という事なのだろうか。
ベルマとの融合。そう、人類はベルマとの融合を始めていたのだ。
『人々の栄光と繁栄のために。』
眩暈を覚えてしゃがみこむ私の耳に彼女のつぶやきが聞こえた気がした。
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最後までお読み頂きありがとうございます。
明日はおまけでAIについて個人的な妄想を
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