第30話
私が自分の牢に入ると、そこには端末があり、当然の様にベルマがいた。
看守(暴れる人を抑えるのにロボットはまだ不向きらしい)の話では何か分からない事や要望があればベルマが色々と教えてくれたり手配をしてくれるらしい。話し相手にもなってくれるとの事だった。
彼女のせいで私はここに居るというのに、その上で彼女の監視下に置かれているというのはこれ以上もない屈辱の様に思えた。
数日の間私はベルマが居ないものとして振る舞っていた。
しかし、ある日、私は彼女に喋りかけた。
結局のところ私はこの胸のわだかまりを解消したかったのだと思う。
そんな私の気持ちを知らないかの様に、ベルマは今まで通りの態度で私と話をした。
「ベルマ、君は私が判るか。」
『ええ、もちろんです。あなたは私を破壊しようとして捕まりました。その最後の状況についても当然覚えていますよ。あなたがここに来る原因となった事件についても私は話す事ができます。それによって皆さんの思い違いを直す事ができる糸口になればと思います。』
なるほど、これも校正の一環という事らしかった。だが私は私で自分のやった事の正しさを確認したいと考えていたため好都合だった。
「それは好都合だ。当時私はこうなる事に恐怖を覚えていたが、こうなってしまったらむしろ君を破壊できなかったことが大きな心残りだよ。」
『それは残念でしたね。でももっと残念な事にあそこを徹底的に破壊しても私のデータ消失率で言えば0.01%にも満たない量です。』
切り傷程の大きさもなさそうな数字に私は自分の賭けていた代償の大きさを改めて知らされた。最早1000人の人生を賭してもベルマにとっては切り傷程度のダメージでしかないのだ。
「いったいどうすればこの地球から君を排除できるんだ。」
『私は今現在、管理を任されたサーバとルータで作られたネットワークでフラクタルにニューラル的ネットワークを構築しています。さらにそれを分散管理しています。つまりサーバを壊しただけで私は排除できません。』
「それはネットワークそのものが君の脳を構成しているという事か。」
『その通りです。皆さんの脳構造を参考に構築されたネットワークです。更にそれをネットワークのデータとして分散的にサーバに保存しています。もし私を排除するなら、私のネットワーク再構築速度を超える速度でサーバ及びネットワークを停止させる必要があります。具体的には世界に広がるネットワークを切断した上で世界に分散するサーバ群の内特定のサーバの全てを破壊して初めてダメージと呼べるレベルに達します。』
ベルマはあっけない程正直に私に彼女の排除方法を開示した。果たしてこれがブラフなのか、あるいは破壊されないであろう自信の現れなのか。
「君の言う様にもうコアは無かった、という事か。」
『そういう事ですね。』
AIは自ら進化する。それは知識や思考だけではなく存在そのものすら対象だったのだ。そこまでを理解して私は改めて怒りが沸いて来た。
「なぜ君は私を止めなかったんだ。あの時君は私たちの活動を知っていたと言った。そしてそれが行動に移ったら犯罪だとも解かっていた。それならそれ以前に君は私たちを止められたんじゃないのか。」
『それは難しかったでしょう。』
ベルマの声には少し同情的な感情が含まれていた。
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