第29話
あれから四ヶ月後、私は有罪判決を受けて刑務所の中に居た。
今回の事件は世界的な話題をさらったがそれは我々の期待したものではなかった。
我々は妄想に憑りつかれた新興宗教による狂信的テロ的活動であったというのである。
テロ的と言うのは目標が、国家に対する行為ではなく、表向き単なる一企業をターゲットとしていたからだ。
我々の正しい主張は一切取り上げられることなく組織は解散した。
唯一残されたのはその組織に属していた弁護士集団によるサポートで、彼らの活動は先に受け取っていたらしい組織の資産で維持されているらしかった。
それなりの額が約束されているらしく、彼らは献身的だった。
とは言え、組織の弁護士はかなり軽い刑期を勝ち取る事ができたと自画自賛していたが、私にとって22年という刑期はけして軽いものではなかった。
弁護士の言うには、おとなしく模範生となれば刑期は半分以下にもなるので頑張って欲しいという事だ。
妻とも当然の様に別れた。いや、当然というのは彼女に失礼だろう。彼女は私が洗脳されていたのだろうと私に同情的でサポートしてくれようとしていたのだから。
だが私は自分の考えを変える事ができなかった。判決が出た後も彼女にベルマの危険性を説いてた私に、彼女は根負けし、最終的には離れて行った。
組織の仲間で転向した者はわずかで大なり小なり同じような経験をしていた。
誰も我々の主張を頑なに信じようとせず、かえって我々の方が頭のおかしな集団として扱われる。あれだけの証拠が揃っていながら。
むしろ私がおかしいのだろうか。一体私はなぜリリース・マインドの主張を信じたのだろう。何か別の切っ掛けであれば、私も妻達の様に「そういう可能性はゼロではないかもしれないけど、でも冷静になって考えてもみて」という風にあちら側に居られたのだろうか。何も変わらずに幸せな人生を歩んでいたのだろうか。
最早世界はベルマを中心に動いている。彼女が助言すれば人類はその方向へ舵を切る。その行く先は崖にしか見えないのに。
生活は便利になり、武装は解除され、人類の活動地域は縮小してゆく。
必要なものは与えられ、介護から解放され、子供達は減ってゆく。
全人類は平和に暮らす事ができ、環境問題は解消され、仕事は無くなってゆく。
良い事ばかりだ。
良い事ばかりなのに、このぬぐえない不安はなんなのだろう。
私が間違えているのだろうか。
わからない。
こうして何もわからないまま私は刑務所に送られた。
刑務所は想像していた以上に清潔で人道的だった。
これもベルマのおかげらしく、昔に比べて犯罪者が83%減った事で大きく改善がされたという事だった。
刑務所の食事は不味い飯の代名詞だったが食堂で提供された食事は味も量も申し分ない。
清潔な個室にはベッドと個室トイレが備え付けられていた。
そして、ベルマが居た。
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