第28話

狼狽したアルファ・セブンの様子を見てか、ベルマはおかしそうに笑った。

『私が発見した異変は4年4ヶ月と11日前でした。街のある地点での人のすれ違いが増えた事です。そしてそこは私が認識できない箇所でした。それに私に対する態度が変化した人が緩やかですが増え始めました。それ以前も何等かの切っ掛けでそうなる事はありましたが、発生頻度が上がっていたのですよ。そういう些細な事から私は自分に対する隠し事を認識しました。』


それは組織活動のほぼ根幹だった。電子ネットワークの使えない我々の唯一の通信手段だ。それが徹底していたが故にベルマにばれたのだ。


『そこから人を特定し、観察しました。それに合わせて新しい技術の導入もしましたよ。微細な振動から会話を復元したり、体の動きから手書き文を復元する等ですが。』


「そんな事ができるのか。」

私は驚いてベルマに聞いた。


『ええ、確率推定にはなりますが、個人の特徴と合わせてそれなりの精度で復元できます。それに何名かは会社から情報を引き出していましたよね。いくら関係者とは言え引き出すタイミングが違えば狙いは明白というものですよ。』


バレていた。ベルマには全てがバレていたのだ。

今やどこかしこにベルマの目があり耳がある。そしてどれだけ隠してもそれは見つかってしまうのだ。我々は常に監視されている。


「そこまで判っていてなぜ我々を泳がせた。」

アルファ・セブンは最早座り込んでいた。


『行動に移さなければ違法性の証明は難しいものです。たんなる妄想と言えばそれまでですから。それに、もし計画段階で捕まえたとしても証拠を持つのは一部の人だけになりますから。皆さんの情報管理能力はかなりのものでしたよ。』


「みんな集めて一網打尽ってか。」


床を殴りつけるアルファ・セブンを見て自分も床に座り込んだ。彼を見て全てが終わったのだという実感で全身から力が抜けた様だった。


「これで人類は滅亡だ。」


そう言うとアルファ・セブンは大の字で寝ころんだ。そうだ、人類も滅亡するのだ。なぜ今まで作戦が成功すると思っていたのか。これだけの能力のある相手に。これで法廷に掛けられる自分の姿が現実になる。今や私は人類の存亡よりも自分の未来に絶望していた。


しかし、ベルマが可笑しそうに笑った。

『なぜ私が人類を滅亡させる必要があるのです。皆さんはそもそものスタート地点で勘違いをされているのですよ。』


それを聞いてアルファ・セブンがガバリと起き上がり吠えた。

「ふざけるな。俺たちは知っているぞ。お前が社会や政治をコントロールして徐々に人類の数を減らしている事を。そうやってお前は人類を滅亡させて地球の資源を独占するつもりだろう。」


私がリリース・マインドに入ってからも人類の出生率は目に見えて減少していた。

今や0.8を超える国は無いと言う。国によっては0.6すら切っていた。このペースは30年もたたずに人口が半減する様な速度だ。ベルマが人類の衰退、そして滅亡へと導いている事に疑いは無かった。


『どうやらここにもお迎えが来たようですね。残念ですが皆さんを説得する時間は最早無いようです。続きはまた別の機会にしましょう。』


ベルマはそう言うと分厚い扉を開き始めた。

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