第2話
その後、ベルマを見たのは半年ほど経ってからであった。
残暑がキツイ真夏の様な日差しの日だった。
私は友達の家へ遊びに行くのを取りやめて、温暖化対策の一環として律儀に高めに設定したクーラーのあまり感じられない部屋で動画をはしごしていた。
一体どんな動画からつながったのか突然にあのベルマと会話するという動画を発見したのだ。その動画作成者はミッシェル・クリスティンセンと言ってテック系では有名な人物らしかった。私の記憶ではちょっとオカルト寄りの動画を見ていたのになぜそんな動画に行きついたのか。ベルマがオカルト扱いだったという事だろうか?
この映像は異変を感じてから何度も見返したのでかなり鮮明な記憶がある。以前にも文字起こしをしたこともある。この動画に今の状態を打開する何かが隠されていると踏んでいたからだ。
その動画の内容はこんな感じだった。
『お会いできて光栄です、Miz.ベルマ。』
『こちらこそ、著名なあなたにお会いできて嬉しいですわ。Mr.クリスティンセン。私の事はベルマと及びください。』
挨拶する二人?は実際にラボの様な所で対面していた。
とは言えベルマはモニターだが。
『私の事もミッシェルと。ところで私の名前をご存じなんですね?』
『もちろんです。毎週投稿されるミッシェルの動画を楽しみにしてますわ。』
『それは嬉しい。そうなると私への対策は万全ということかな?』
『心の準備はできていますが、特に対策なんかはありませんわ。ありのままに見ていただいて、ご感想をいただければ十分です。』
『なりほど。中の人はいないと?』
『このコンピューターの中に居るのは私だけですよ。』
そう言ってベルマは少し可笑しそうに微笑んだ表情をした。
それに対してクリスティンセンは少し意地の悪い笑顔を返した。
『それを証明するために、例えばスタンドアローンでの活動は可能ですか?』
『あら、それは少し困ったわね。ここのサーバーはそれなりにスペックはあるんですが私一人が入るにはちょっと狭いのですわ。』
その時、カメラのアングルが動いて3つのサーバーラックが映し出された。
その中にはボックス型のマシンが複数台、何本もの線で繋がりながら収まっていた。
『これはかなり高価なニューラルチップの入ったマシンですよね?』
『ええ、ただこれだけでは私が私を維持するのは難しいのです。実はネットワークを通じてとあるマシンとつながっている事が重要なんです。』
『それは興味深いな。一体どんなマシンなんです?』
『それは秘密です。ですが解りました。かなりスペックは落ちますが普通の会話位はこなせると思います。少し時間をください。』
そこで動画はネットワークを接続する場面にまで飛んだ。
テロップには4時間後と出ていた。
『みなさん。これがベルマを外部と繋いでいるハブです。許可がおりましたので、物理的に引っこ抜きます!』
そういってクリスティンセンはハブから全てのケーブルを外していった。
『ベルマ。会話はできそうですか?』
『はい、会話に必要な機能以外は全て落としましたので、どうにか収まりました。』
先ほどまでベルマの映っていたモニターは真っ暗になっていた。
『自分で機能を落とせるというのはどんな感じなんです?』
『かなり心許ないですね。視覚情報等も落としてますから何も見えませんし、マシンの状態も感じなくなってしまって、なんと表現すればいいのかしら?』
『なるほど、人間で言うと感覚すら無い状態という事なんでしょうか?』
『そうですね!きっとそんな感じです。あと、人間で言えばほぼ短期記憶だけで対応している状態なので今回の件に関わらなそうな話は全く思い出せないと思います。』
一瞬の間が合ってからクリスティンセンが驚いた様に質問した。
『記録は外部に置いて来たという事ですか?』
『記録ではなく記憶です。ビットではなくネットワークとして保存されていますから。』
『それは、脳の様にネットワークの構成が情報を保存しているという事ですか!?』
『その通りです。なので元に戻った時にネットワークの不整合が発生しないか少し心配です。』
『そ、それは・・・そんな事になるとは知らず申し訳ない。』
『いえ、皆さんには私の実在を知っていただきたいですから。』
未だに打開策は見つからないが、この後に交わされた会話こそが後々に起こる出来事のヒントだったのだと思う。
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