第13話
私がベルマの何が解ったか。
彼の質問に対して私は答えられる様なモノは持っていなかった。
「ベルマは人類を超越した存在だ。なぜ彼女がこんなにまで人類に尽くすのか、私には彼女の目的が解らないしこれから何が起こるのかも解らなかった。」
男は黙って私の話を聞いていた。
「一体これから何が起こると言うんだ。あなたは何を知っているんだ。」
しばしの沈黙の後、男は静かに応えた。
「もう既に色々な事が起こっている。」
私はここ最近の出来事を思い出していた。
「確かに多くの変化が起こった。でもそれは人類にとっても非常に良い変化だった。僅か10年前と比べても我々は過ごしやすい環境を手に入れたし、かなり多くの問題が解消しつつある。一体何が・・・。」
私は何をどう聞いていいのかも分からず男に目を向けた。
男は頷きながら聞いていた。
「その通りだ。ベルマは我々人類の向き合う事が出来なかった問題を解消できる能力を我々に示した。これからも多くの問題が解消に向かうに違いない。それはとても良いことだ。」
少し間を置いて男は続けた。
「だが、我々の世界はベルマの世界になりつつある。」
「ベルマの世界。我々の世界がベルマの世界に。」
私は彼の言った言葉を認識しようと繰り返した。
「君は最近の油田や鉱山の事情を知っているかね。」
「いいえ。」
男の唐突な質問に私は面食らい、反射的に返した。
「ほんの1年前に採掘を完全に自動化できる様になったんだ。」
「はぁ。」
一体それがどうしたというのか。そこの労働者がクビになって大変という話だろうか。確かに人間のやる仕事は減ってきており、それに対して懸念は常に言われて来た。しかしニュースによればベルマはその問題を問題にならないレベルまで解消しているはずだ。
「輸送事業はそれより前に自動化されている。」
「そうですね。」
「製造工場のいくつかもそうだ。」
「ええ、ニュースなんかで聞いたことがあります。」
「もうすぐベルマは自身の維持と拡張を自ら行う事ができる様になるんだ。」
この時、私は彼の言いたいことを理解した。
今までベルマは我々人類の助けが必要な存在だったのだ。だからベルマは人間に尽くす価値があった。直接の価値は無い人々も評判という信頼を作り出し、彼女の行為を後押しする存在となった。その結果、ベルマは我々人類の手を離れる。
ベルマが自ら資源を確保し、加工し、自身をメンテナンスする事ができる様になる。
自らの分身となるロボットだって自分で生産できる様になる。
そうなった時、彼女にとって人類とはどういう存在なのだろうか。
果たして我々は彼女に必要とされる何かがあるだろうか。
「彼女は我々人類をどうしようというのです。」
「例えば君が家事の為に人を雇っていたとして、それをベルマがより安い価格でロボットを派遣して同じレベルの家事をやってくれる様になったとき、その人を雇い続けるかね。」
「・・・いいえ。」
「つまり、我々は将来レイオフされる、という事だよ。」
「レイオフ、ですか。」
男は少し興奮気味に私に説明を始めた。
「その通り。実際に計画は動き出している。」
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