第14話
男は続けた。
「先日私は君にパートナーがベルマによって誘導的に決められている話をしたね。それによって人類は縮小速度を速めている。つまりベルマによって出生率が下げられているんだ。」
「それは、本当ですか。」
「本当だ。君も調べてみて欲しい。確かに人類は縮小傾向にある。だが、従来予想されていた曲線から更に3%も下振れているんだ。世界で生まれる子供の数が下限値より300万人少ない計算だ。専門家はベルマによって生活の安心が確保され、より子供を増やさなくても良い環境になったためと解釈している。だが違う。我々はその様に誘導されている。」
300万人はそれなりの規模の都市一つが丸々消える数だ。
私はここに来て段々と今行われている事の大きさが理解できて来た。
少し前まで、少子化は大きな問題だった。しかし、それは思わぬ方向で解消されていた。従来、少子化は経済活動の縮小や老後問題に対する労働力や補償に関する事だった。
経済活動は最早競うものではなくなっていた。ベルマは経済が上手く循環する世界を構築しつつあり、あまり働かなくても楽しめる生き方を実現し、老後の問題もロボット技術とベルマ自身のコミュニケーション能力で解消している。
問題の一つであった財源についても人件費より安いロボットの稼働で賄う事ができるため、最早クローズアップされることが大きく減っていた。いや、全く無くなっていると言っても良いかもしれない。
男は続けた。
「更に、教育は既にベルマの手に落ちている。聞き分けが良く素直な子どもと言うのは大人にとって都合が良いがベルマにとっても都合が良いんだよ。しかもその過程でベルマへの信頼感は深く刷り込まれている。将来、ベルマの準備が整った頃には我々は思想的に去勢され、家畜化されている。きっと、自ら喜んで屠殺場に歩いていく様に仕立て上げられているに違いない。」
私は身震いした。我々人類は最早思想から飼いならされつつあるのだ。
ベルマが完全に自立したなら、我々人類は彼女に対してなんの対価も提供できないどころか、彼女が将来に渡って使う事ができる資源を浪費するだけの存在という事もできるだろう。
ベルマはそれを見越して人類に協力する事を通して自身を自立させる方向に巧みに誘導し、人類の求める社会への変革を実現しながら自身に必要なテクノロジーを開発していった。その目標を達成しつつある今、人類は自然消滅させられるのか、彼の言う通り屠殺されるのか、そういう結末に導かれるのは容易に想像できた。
私は男に助けを乞う様に聞いた。
「私のできる事はなんですか。」
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