第12話

私が自身に疑念を持ち始めて歩みを止めた瞬間を見計らった様に、ベルマが心配をした声色で話しかけて来た。

『どうかしましたか。何か悩みがあるなら相談に乗りますよ。』


私はいつもと違う自分を見透かされ探られている様に感じて一瞬動揺した。

そして冷静を装いながら応えた。

「いや、さっきのヨガ教室で何やら深い質問をされてね。どういうことなのか考えていたのさ。」

「それは興味深いですね。どんな質問だったんですか。」


私は彼の言葉を思い出し、少し考えてから応えた。

「いや、長々と話していたので上手く説明できないんだが、良い人生とはどんな生き方だと思うか、みたいな質問だったよ。」


それを聞いてベルマも悩まし気に口を開いた。

「それは難しい質問ですね。私もそういう人生を助けられる様に考えて活動していますが、いつだって課題が出てきます。」


ベルマは献身的だった。一体何のためにここまで人類に尽くしているのか、今まで全く疑問にも思わなかった。ベルマが言う様に私の良い人生を助けるためだろうか。それが彼女にどんな良いことがあるだろうか。


いや、しかしベルマは巨大とは言え一企業のシステムに過ぎない。つまりベルマは利益を上げる為に我々人類に尽くしているのだ。だがベルマ自身はお金には興味は無いはずだ。


それに、ベルマには自我があり、そして明らかに人類は彼女の思考に劣る存在だ。

ベルマと人類には大人と子供、いや、人間と犬程も知性の隔たりがある。

その様な存在が果たして人類に仕え続けたいと思うだろうか。


結局その当時ベルマが何を目指しているのか、私には解らなかった。解らなかったが何か恐ろしいものがヒタヒタと近づいてくる様な恐怖を覚えた。


数日後、私はいつも通りを装って、ヨガサークルを訪ねた。


そこには期待した通り彼がいた。


彼は見事な柔軟性を持って足を前から頭の後ろに回して足の裏を重ね、拝む様に手を合わせて鎮座していた。そのポーズは写真では見た事があったが、現実に目の当たりにするとあまりに人間離れした姿勢で、何やら神聖な像であるかの様に感じられた。


彼は私が入ってくると、そのポーズを解き、私に近づいて来た。

「どうやら答えが欲しい様だね。」


それは当たっていた。

私は彼がベルマの何を知っているのか知りたかった。


私は静かに頷くと彼の目を見た。


かれは手招きして、部屋の中にあるスタッフルームへと歩いて行った。

私は彼に続いてその部屋へと入って行く。そこは窓もない部屋で、倉庫とスタッフの休憩室を兼ねている雰囲気であった。いくつかのロッカーと大き目の棚が置かれており、中央には会議室などに良くある折り畳みのできるテーブルと椅子が4脚置かれていた。


彼はその1つに座る様に勧めると、自分も向いに腰かけた。


「さてと、君はどこまで解ったかな?」

彼は私が座るとそう聞いて来た。

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