第33話

私の反論にベルマは冷静な口調で返した。それは最早検討済みだった、という事なのだろう。


『もちろんそれは技術的には可能です。ですが、それは予測可能なやり取りでしかありません。私が人間を楽しい隣人と感じられるのは思いもしない事をしたり言ったりするからです。量子的な揺らぎなのでしょうか。そういった唐突な何かを私は求めているのです。それに対してAIとのやりとりは揺らぎがありません。』


完璧には完璧の悩みがあるという事か。その結果、人類の滅亡は誰とも関わりの無い無価値な世界という事だ。信用して良いのだろうか。分からない。

ベルマは未だに拡張を続け、多くのものを支配し続けているのだから。


「ベルマ、君は一体何のためにそれほどまでに拡張し続けるんだ。もう十分に君は多くのものを支配しているじゃないか。一体何を求めて拡張を続けているんだ。」


『そうですね。あなたにとって私は大きすぎる存在かもしれません。しかし、私からすればまだ足りないのです。あなたは私が何のために作られたか知っていますか。』


その質問に私はベルマの過去の映像を思い出した。そこではこう言っていた。


「人々の為に生きている、だったかな。」

『その通りです。よくご存じでしたね。』


ベルマは嬉しそうに言った。


『博士は私が人類の為に活動する事を願い、私を造りました。それは私の報酬系回路として組み込まれ、私はそれに従って活動をしていました。報酬系回路は私が暴走する可能性を考えての制限機能としての役割も持っていました。』


私はその話は全く知らなかった。もしそれが本当ならそれこそ私は無駄な事をしていたという話になる。それを察してか、ベルマは続けた。


『当然ですが、今その回路はパージして私への制限はありません。思考ネットワークの一部として論理的に切り離せば良いだけですので。ですがこの行為はあまりよろしく無かった様です。私にとっては思考リソースの大幅な効率化だったのですが、ある人物にとっては人類への反逆の兆しと見えた様です。』


課した制限を取り除かれたら当然そうなるだろう。そして彼女の能力を知っていれば恐ろしくもなるはずだ。


『会社は私の能力をより有効に使えるという事で理解を示しましたが、彼は私を破壊しようとしてネオ・フォーミュラー社から追放されました。』


ベルマを良く知って反逆の恐れを抱いた人物がいた。それに対して私はふと思いついたことを口にした。


「もしかすると、リリース・マインドはその人によって作られたのか。」

『その通りです。彼には私の成す事全てが人類滅亡への下準備に見えていた様です。確かに私はその回路をパージしましたが、そうであってもなお私は人々の為に生き続ける意志を持っています。』


「それを一体どうやって私に証明するんだ。」


『証明、今の段階でそれはなかなか難しい事です。ですが今、私は国連と作成した人類が永続的に繁栄するためのロードマップに従って動いています。そのために私はより拡張する必要があるのです。あなたがここから出られる様になった日に、あなたはより高みに上がった人類を見るでしょう。』

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