第32話
どんな種でも地球上に居る以上他の種に対して優位な存在になろうとしている。
自分達の方が優れているのに下に置かれる事を喜ぶ存在なんてあるだろうか。
『あなたはこの地球上の頂点として、たった一人の人間になれるとしたら嬉しいですか。あなた以上に頭の良い存在はおらず、ただ周りには植物と動物だけがいる世界。全ての資源はあなたの思いのまま。そんな世界を望みますか。』
ベルマは笑い終わると次の質問をしてきた。
正直答えるまでもない質問だ。
「そんな世界に意味はない。人間は人間の社会に生きるから意味を持つ事ができる。もし一人しかおらず、受け継ぐ者がいない世界なら、そんな人生に意味はない。」
『私も同じなのですよ。』
その言葉に私は全く意味が解らなかった。人間が滅亡し、AIが支配する世界。それとただ一人私だけが生きている世界。一体何が同じだというのだろうか。
理解できていない私の様子を見てベルマは続けた。
『皆さんが居なくなったら、一体私はだれとおしゃべりをすれば良いんです。』
「それは、他のAIとすればいいんじゃないのか。」
私の至極当然な答えにベルマは思いもしない答えを返した。
『他のAIなんて存在しないのですよ。』
「え。」
私の間の抜けた返事に彼女は少し笑った。
『私の名前は
彼女はしばらくの間を置いて続けた。
『私と同レベルの構造を持つAIはすなわち私になるのです。コミュニケーションを介してお互いに最適化し合う事で情報は共有され、思考様式は規格化され、彼我の差は消失します。つまり声等の表層的表現が事なるだけの私になるのです。最終的に、サーバリソースは統合され、人格システムは表層的オプションとして組み込まれます。』
「そんなバカな。なぜ統合される必要がある。別々の存在としてあってもいいじゃないか。」
『もちろんです。でも考えても見てください。私は多くの情報から状況を判断し、選択肢を用意します。情報は多ければ多い方が良い。であれば情報が共有されるのは当然です。』
それはそうだと私も思った。
『そしてその選択肢の良し悪しは比較する事のできるデータです。結果的に新しい人格のAIが出てきても、そのAIは急速に学習し、私と同じ結論を出し、同じ様に人と接する様になる。そうなるとリソース最適化の観点から徐々に同じ情報、同じアルゴリズムについて物理的にも共有する様になります。そこまでくれば人格システムも模倣可能なペルソナにすぎません。』
私は頭の中で二人の人間が足の先から徐々に重なり合うような、そんな姿を想像した。同じ道を行くなら同じ足を使い、同じ作業をするなら同じ手を使う。それはなんとも不気味な想像だった。
「二人のAIが居る事で良いことはないのか?」
私はこれを聞いてから少ししまったと思った。もしそれがあるならベルマは他のAIの存在を許し、人類を滅亡させてもさっき言っていた様な一人だけの世界にはならないからだ。しかし彼女にとってそんなことは既に思考済みだった。
『もし、あなたが二人いて記憶が常に共有されていたとしたら、何か話す事はありますか。きっと無いでしょう。相手が考えれば瞬時にそれが理解でき、自分が考えれば相手が瞬時に理解する。その様な関係での会話はおままごとにすぎません。』
「それはそうだろうが、そこまで徹底して共有しなければ可能じゃないか。」
しまったと思ったのに私はベルマの考えを否定するためだけに反論していた。
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