第26話
サーバルームは図面で見るよりも広く感じた。実際も幅130mあるため普通のビルとしてかなり広い部類なのだが、サーバラックが薄暗い部屋の奥まで整然と並ぶ様がまるでそれが永遠に続いているかの様に錯覚させた。
私はラックの通路の度に足を止めて警備ロボなどが居ないかを確認しながら進んだ。ケーブルはいくつかのラックごとに綺麗に束ねられ、天井へと送られていた。
私は手数を減らすために、その一番太くなる部分を探すと共に量子コンピュータらしき躯体が無いか目を配る。
量子コンピュータはその構造の複雑さに加え極低温までの冷却が必要である為に小部屋程もある躯体が設置されているはずだった。しかしそれらしきものは全く見つからない。
その時、突然入って来た方向からゴーという何かが駆動する音が聞こえ、ガコンという何かが締まる様な音が響いた。
遂に恐れていた何かが起こったのだと私は悟った。それは今までに何事も無かった事自体が異常であり、ある種の正常な事態に陥ったという変な納得感があった。
そしてこの瞬間、私は判断に迫られている事に気が付いた。
果たしてそのまま続けて計画を実行するべきか、あるいは一旦戻って状況を把握すべきか。そもそもの我々の作戦は警備を排除しつつ作戦を遂行する事であり、今の様な事態は想定されていなかった。
私はすぐにトランシーバーを取り出して呼びかけた。
「こちらラムザ・トゥエンティ、こちらラムザ・トゥエンティ。アルファ・セブンに作戦継続の是非を問う。」
しばらく返事を待つがトランシーバーからの返事はない。
代わりにどこからともなく声がした。
『この部屋では全ての電波がジャミングされています。』
その声は考えるまでもなくベルマの声だった。
そしてそれに呼応する様に「ベルマァ」という声がアルファ・セブンの居るであろう方向から聞こえた。
建物に侵入した以上、存在がバレている事は当然だし、行動も逐一カメラに取られていたのは当然だ。それを承知で数と武力で完遂するのが計画の要だ。逆にベルマはそれを承知で今まで放置し、そして今動き出した。
このまま作戦を継続するのは危険だ。私はそう判断してアルファ・セブンの元へと引き返した。いや、正直言えば私は怖気づいたのだ。この空間でただ一人で居る事に、何が起こるか判らない事態に身を置く事に。
夢の中で恐怖から逃れる時の様に、私の足はふわふわと床を蹴り、普通に走れば10秒もかからない距離をのろのろと進む感覚にもどかしさを覚えながら扉まで戻ると、ガラス張りの扉のあった所には見るからに分厚い金属の扉がその口を塞いでいた。
そして、アルファ・セブンが更に奥へと向かっている姿が見えた。
彼は「どこだ。どこにいる。」と叫びながら走っていた。
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