第25話

ドンッ、と小さな振動が踊り場に響いた。

多分補助電源を破壊した音だろう。それと同時に無線から連絡が入る。


「よし、行くぞ。」

アルファ・セブンが扉を引き開けて26階を覗き見る。


そこは薄明るいオレンジ色の廊下だった。

多分バッテリー式だろうと思われる光がゆっくりと明暗を繰り返していた。


アルファ・セブンの手招きでフロアに入った私も左右を見渡したが、そこには相変わらずなんの気配もない。


「不気味だな。」

ぽつりとアルファ・セブンがつぶやく。


全くその通りだった。

これだけの事が起こっているにも関わらず、ビルは無人であるかの様になんの反応も見せなかった。


「本当にここがヨーロッパコアのあるビルなんですか。」

私が訪ねるとアルファ・セブンは俺に聞くなという様に顔をしかめた。


「今ここで議論したところで答えなんか出やしない。とにかく、俺たちは俺たちのできる事を成すんだ。この作戦を成功させれば答えは自ずと出る。」


そう言うと彼は歩き始めた。

確かにここで引いた所でなんの成果も得られない。だが、なんだ、この状況は。ベルマにとって重要な施設がこんなにも無防備なんてことがあるだろうか。

私は祈る様に彼についていった。


我々は北側中央の扉に到着し、その両側に構える。

その扉はガラス張りで中には大量のサーバがネットワークデータの入出力する度に点滅していた。


その様子を見て私はコアルームの可能性がある事に心臓が高鳴った。

しかしアルファ・セブンは全く違った。彼は当惑した様に中の様子を凝視していた。

「どういう事だ。」


彼のセリフの意味がすぐには分からなかったが、私も彼のセリフでそのおかしさに気が付いた。なぜ電源が入ったままなんだ。


主電源を破壊し、補助電源も破壊したはずだが、中のサーバは依然稼働している様だった。


「全て破壊しますか。」

「そんな爆薬量は無い。なんとしてもコアを見つけ出して破壊しなければ。」

アルファ・セブンのその声は明らかに動揺していた。


彼は大きく息を吐き出すと、目を瞑った。


ほんのしばらく後、彼は目を開けると口を開いた。

「状況的には補助電源破壊が失敗したものとして進める。早急に各サーバルームに突入し、ネットワークケーブルを切断しながらコアの探索を継続。」


そう言うが早いか彼はサーバルームのガラスドアを自動小銃の柄でたたき割り、靴で残った部分を蹴り付けながら侵入していった。

私も慌ててそれに続く。


補助電源破壊失敗時のプランB。

それは帰還の可能性が大幅に下がる事を意味していた。当てずっぽうにコアと接続されているネットワークにダメージを与えつつコアの破壊も完遂する。それは大幅に時間を消化するという事だ。


近隣の警備や警察、あるいは軍隊が危険数到着するまでに大凡1時間。

それを想定して45分というのがこの作戦の限界時間だった。しかしこの状態では限界時間を超えるのは必至であり、作戦終了後に投降するしか生き残る手段が無いという事だった。


きっと逃げ道はない。だからと言ってこの場を投げ出して逃げ出す様な無責任な事はできない。私の脳裏に妻の顔や職場、法廷に立つ自分の姿が思い浮かんだ。


「お前はあちらを頼む、俺はこっちのケーブルを切断していく。」


アルファ・セブンの指示の声に私は我を取り戻し、急いで行動を開始した。

サーバルームは電力供給量等関係ないとばかりに唸りを上げており、侵入者を威嚇するかの様に部屋中を満たしていた。



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