第24話

我々の緊張とは裏腹にビル内は静まり返っていた。

武装したロボットが居る等とは想定していなかったが、警備ロボ位は配置されている事を想定していたが、その気配すらない。


我々は気を取り直して走り出し、階段を駆け上がっていく。

静かな非常階段の空間を我々の足音がこだましている。その音を聞きつけて何かが動き出すのではないかと私はフロアの扉が近づく毎に凝視していた。


5階に上がる頃、階段の下から足音が聞こえ始めた。

他の階層の探索チームが階段に入って来た様だ。足音はまるで無限に反響を繰り返すかの様に空間に響き渡り、大きくなったり小さくなったりとまるで何ものかが自分を追い立てているかの様に感じられた。


そして何かが起こるかもしれないという不安は呼吸を浅くし、訓練の時には感じなかった息苦しさで足がもつれそうになっていた。


13階


漸く半分だ。


周りのメンバーの顔を見ると、誰もが無表情に階段を駆け上がり続けていた。

彼らは平気なのだろうか。それとも私と同じ様に息苦しい感覚の中を走っているのだろうか。あるいは私の気づかぬ内に彼らにそっくりなアンドロイドに入れ替わっているのではないだろうか。


そんな唐突に思い浮かんだばかばかしい想像を振り払い、彼らに遅れない様に足を動かす。


18階


もう少しだ。もう少しでゴールだ。

いや、ゴールではない。25階は作戦のスタートラインだ。

25階にたどり着けなければ何も始まらない。


だが、足が段々と言う事を聞かなくなっている。

訓練の時には30階までも駆け上がる事ができたのに半分程度でこんな状態になるとは。周りのメンバーもいつもより苦しそうだ。


その顔を見て私は安堵した。

彼らも自分と同じ様に訓練の時よりも苦しいのだと。


あと2階層


私は銃を背中に回して手すりを使いながら登っていた。

この状態で敵と遭遇したら私は一切の反撃もできずにあの世行きだろう。

だがそれ以上に遅れるわけにはいかなかった。

もし私の遅れが原因でこの作戦が失敗したら、私は私のプライドにかけて生きていく事ができない。


そしてとうとう25階に到着した。

踊り場についてアルファ・セブンが私を見る。

私は両膝に手を置いて息をしていた。


「作戦変更だ。この階層はイタ・ナインとクシ・テン頼む。」

その言葉に私は驚いて顔を上げる。

指名された二人は「はい」と返事をした。


「心配するな。ラムザ・トゥエンティ、お前は私と一緒に26階に上がる。補助電源の爆破までの時間休憩が取れる。」


こうして二人が補助電源の破壊のため25階に突入し、アルファ・セブンと私は26階へゆっくりと上がっり、26階の踊り場でほんの少しの休息をとった。


「申し訳ありません。私のせいで作戦が変更してしまって。」

「なに、本番ってのは色んな事が起こるもんだ。緊張は特に体力と集中力を減らす。戻ったらもっと本気でヨガの訓練をするんだな。」


いつもと全く変わらない調子のアルファ・セブンに驚嘆しながら私は彼に小さな笑いで応えた。

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