第23話
作戦の1時間前。
我々は目的のビル近くの路面店の駐車場に居た。
そこの駐車場にはマンホールがあり、車の床から直通で地下へと降りていくためだった。
私は訓練の時に、まさか本当にこんな映画の様な事をするのかと驚いたが、冷静に考えればそれ以外に容易な侵入方法も無い事は確かだった。地下は未だにベルマの監視の届かない唯一の道だった。
とは言え全てのチームが地下から侵入するわけではない。いくつかのチームは電源停止後、ヘリで屋上から侵入するし、更に正面から突撃する部隊もあるらしい。
「はぁ、これからネズミとお友達だと思うと気が滅入るわ。」
マンホールの入り口へ体を沈めながらイタ・ナインがため息をついた。
「この地下道は電気系統だからお目当てのネズミさんと会えなくて寂しい思いするぜ。作戦が成功したら夢の国にでも行くんだな。」
アルファ・セブンが鼻を鳴らす。
中はコンクリートと埃の匂いが立ち込めていた。道幅2m程の矩形のトンネルで高さも十分にあり、道の両脇に水捌け用の溝があるだけで確かにネズミが住みつく様な雰囲気ではなかった。
我々は暗視ゴーグルと赤外線ランプを頼りに道を進んでいく。道は入り組んでいたが、特に障害らしい障害も無く、作戦の15分前には目的のマンホールの下に到着した。
アルファ・セブンがそのマンホールの蓋に触れ、ロックされていないかを確認する。
彼はハンドサインで問題の無いことをこちらに返し、待機の指示を出す。
我々は作戦開始時間まで音を立てない様に腰を下ろして休憩を挟んだ。
ここを出るとビルの西側だ。そこにある非常用の入り口を爆破し、侵入する手はずになっていた。近くには別のチームが同じ入り口を使うため、下水用の地下通路から来ているはずであった。我々はかなりの階層を駆け上がる為に優遇されていると言うわけだ。
時間が来ると、ドンと鈍い振動音が地下に響いた。
主電源系統の爆発、これが作戦の合図だった。
「よし、出るぞ。」
アルファ・セブンが掛け声を上げ、勢いよくマンホールの蓋を持ち上げてずらした。
緊張が高鳴る。一秒でも無駄にできない状況が、その動作を非常にまどろっこしく感じさせた。
訓練通り、アルファ・セブンがマンホールの口で一人一人を引っ張り上げ、入り口へと走らせる。引っ張り上げられた勢いをままに私は散歩コースとなっている裏庭を道も芝生もなく走り抜け、裏口へと向かう。
頭に叩き込んだ地図のまま、入り口は見つかり、先に向かっていた二人が既に爆弾を仕掛ける準備に取り掛かっていた。私は入口の脇の壁に背を付けて、全員がそろうのを待った。
それから20秒とかからずイタ・ナイン、アルファ・セブンが走ってくる。
彼らが息を切らせて壁に背を付けると私は二人に声をかけた。
「レディ。」
二人も設置を終えると急いで両側に分かれて壁に背を付け、スイッチを押す。
耳をつんざく様な轟音が響き、金属製の扉が跳ね飛んだ。
まだ煙の立ち込める建物へ一人が姿勢をかがめて言葉通り飛び込み、中を確認する。
「クリア。」
裏のフロアに警備ロボは居なかった様だ。
近くに別のチームがいくつか近づいてくるのが見える中、我々は遂に建物へと侵入した。
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