第7話
それから6年間の激変は人類史に残る革命であったに違いない。
2037年に私は19になっていたが、小さい頃の生活とのギャップにその当時の記憶が本か何かで読んだ、遠い昔の話だったのではないかと思ってしまう事があった。それほど劇的な変化だったのだ。
ネオ・フォーミュラー社上場から彼らは世界を変革しつづけた。ベルマは世界のあらゆるシステムに搭載されていき、車等の交通機関の自動化、倉庫や工場の監視、ニュースメディアの編集、企業運営、医療診断からロボット手術、あらゆるものにベルマが活用され続けた。
いや、活用した、というのは人間からの言いぶりであり、実際は徐々に人の活動範囲を狭められた、と言うべきなのかもしれない。しかも彼女はその組織の人々に適切に新しい仕事を作り、割り当てて行ったため、失業者があふれる様な事もなかった。
ベルマは巧みに人の心を掴み、満足させていった。社長はふんぞり返り、官僚は集める資料を指示し、医師は自分の判断で手術開始のボタンを押し、弁護士は整えられた反論書を読み上げ、裁判官は最後の判決を選択し、先生は子供達をただ背後から見守った。
それほどまでに急速に広まったベルマだったが、ネオ・フォーミュラー社は政治とメディアに対して大きく距離を取っていた。シンクタンクを通して政策立案のサポートをする事はあっても政治的行動は一切行わず、メディアに至っては資本的にも広告的にも一切の圧力をかける事がなかった。
しかし、誰も彼もが予感していた。一番良い政治を行えるのはベルマであろうと。
一昔前なら政治家は社会に必要な贅肉だった。しかし今は違う。ベルマが情報を集め、政策を検討し、それを適切な企業に発注して実施すれば事は済むのだ。
そしてその様な声は徐々に大きくなっていった。
推測だが、ベルマが政治やメディアに関与しなかったのは自然とこの様な動きが出る事を見通していたからなのかもしれない。
その証拠に、ある報道が一つの国を消滅させ、そして、世界の国々を激変させる事になったからだ。
それはその国のメディアによる『今こそ真の共産国に生まれ変わるべき』という見出しの記事が切っ掛けであった。
そこにはベルマを機関の最高権限機能とし、その能力を十全に使う事で真の計画経済を達成すべし、というモノであった。それに対してその国の政治家は他国の能力に政治的権限を譲る危険性を声高に主張し、すぐに行動に移した。
強権的な首長はすぐにその報道企業を取り潰し、あろうことか国内におけるベルマの利用および普及の禁止を宣言したのだ。その国の政治力をもってすれば、それは本来実施できうるレベルの政策であった。しかし、ベルマは排除するには最早浸透しすぎていた。
国民はその強権ぶりにおおいに怒り、そして蜂起した。
そして軍の一部の部隊もそれに同調し、あっという間に首都は陥落し、大量の政治家が独裁者として処刑されたのだ。
この事変は多くの国の政治家が戦慄し、そしてネオ・フォーミュラー社の出方を固唾を呑んでうかがった。
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