第19話
それから三年間、組織は地道に活動をつづけた。
その間にも世界は変容していった。
世界は以前にも増して平和になり、人々はゆったりと暮らせる様になっていた。
仕事の殆どはベルマのアシスタントの様な事ばかりで、技術は徐々にベルマの中へと移行していった。そのアシスタント作業ですら本来ベルマには必要の無い仕事の様に思えた。
国の重要施設はほぼ無人となり、ベルマによって管理された。
人々には毎月お金が自動的に入金され、ただ生活するにはそれだけで十分であった。
穏やかな生活のためか、ベルマの教育のたまものか、人々の思想にも大きな変化が起こっていた。誰もが温和な性格となり、みな質素な生活を送る様になっていた。
資産家の多くもそのお金の多くをベルマにその使い道をゆだね、徐々に暮らしぶりを縮小していった。
それは何よりも不気味な出来事だった。
人類の家畜化は最早目前であり、引かれるがままに屠殺場に連れていかれる日が徐々に迫っている様だった。
ベルマの自給サイクルもかなり完成に近づいていた。残るは資源採掘の僅かな一部だけで、それ以外の資源採掘、エネルギーやパーツの生産、ベルマの拡張と修復はほぼベルマによって成される様になっていた。
その最後の一部は我々リリースマインドが会社を押さえている最後の牙城だった。
我々が押さえていたいくつかの企業は社会的な圧力と資本的戦略によって次々と呑み込まれていった。
この最後の一社が落ちればベルマは完成し、我々は滅亡への道を歩み始めるのだ。
その前に我々は行動を開始する必要がある。
そして、私がヨガサークルに行った時に遂に行動への指令が下った。
私に与えられたミッションはベルマのヨーロッパコアを爆破する事だった。
組織の地道な調査によると、世界にはベルマの本体となるコアが9つ存在していた。
コアは基本的にその置かれている地域とその周辺特有の情報を保有し、ベルマの自我が格納されている。そこから更に無数のローカルサーバに必要情報と自我の一部が同期的コピーがされており、それによって人々へのサービスが提供されていた。
しかし、コアがその地域に根差したものであるとは言っても、そのコアだけを破壊したところでベルマを崩壊させる事はできない。
それらのコアは補完的にお互いのデータを保有しており、どれか一つが破壊されてもデータ断片を持ち寄る事でほぼ無傷な状態でコアを復旧させることができるからだ。
そのため、破壊は9つのコアをほぼ同時に行う必要があった。
それによってプログラムとデータを補完不可能にし、ベルマの自我を崩壊させることができるというのだ。
決行は20日後、ロンドン時間の5時だった。
私はヨガマットにカモフラージュしたプラスチック爆弾を受け取るとその日に備えての活動を開始した。
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