第18話

イニシエーションを終えて私の二重生活が始まった。


ベルマは優秀だったが、完璧ではなかった。

街のいたるところのカメラはベルマに繋がり彼女の目となっていたし、人々の持ち歩く端末のマイクは周囲の音を拾い、彼女の耳となっていた。


しかしプライベートな空間や、意図した密閉空間でベルマが入る事ができない場所がある。そして街のカメラが全てをカバーしているわけでもなかった。


リリースマインドはそれらのブラインドスポットを多く抑えており、そこでの接触を持って組織のコミュニケーションをとっていた。


組織は既に多くの会社にメンバーを持っており、多くの情報を入手していた。そしてそれらの情報はスタンドアローンマシーンによって管理され、紙で指令が出されていた。


私の最初の仕事はベルマを所有しながら日常を送る訓練と、それらのブラインドスポットで指令を受け取る事だった。その指令には次の指示を受け取る時間とブラインドスポットの場所が記されており、それを繰り返す事で必要なブラインドスポットの場所を覚える事だった。


組織の行動は徹底していた。

私に指示されるブラインドスポットはほぼ私の日常的な行動の中に設定されており、その時間についても私の行動習慣を考慮したものだったのだ。


そしてそれらの指示を渡す人も毎回の様に異なり。彼らはすれ違いざまに私のカバンやポケットに指示を記した紙を差し入れて去っていった。私は教えられた様に、紙の本や雑誌、新聞等を読む時に一緒に読み、記憶するとそのまま挟んで駅やビルのごみ箱に捨てた。


それから一ヶ月程、毎日の様にトレーニングを受けて私が紙を渡す訓練にも慣れて来た頃、遂に本当の指示が私に送られて来た。そこには今までと同じ様に次回のブラインドスポットの場所と時間、そして簡潔な指示が記されていた。


そこには私の所属する会社のベルマへの送信情報の種類や接続方式に関する情報の提供となっていた。私は最近の気分転換という名目で購入していたバインダー型の日記帳にそれらのメモを日々分割しながら彼らに提供をしていった。


最初の頃、私にはそれらの情報をどの様に使うのか見当もつかなかった。もちろん開発情報の一部なので機密扱いではあったが、ネオ・フォーミュラー社と契約すればある程度形式は決まっており、特に大きな秘密ではなかったからだ。


しかし、それは私に対するデモンストレーションだった。

徐々に求められる情報は会社中枢に関わるものとなり、より機密性の高い技術情報になっていったからだ。

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