第4話

2029年秋、その年に発売された一部のスマートフォンは過去のものとは一味違った。そこにはベルマがAI秘書として搭載されていたのだ。


それまでもAI機能はほぼすべてのOSにおいて搭載されていた。しかしベルマはそれらのAIとは全く異次元のレベルで秘書を務めた。


CMでもその異質さは多くの人に感じられたに違いない。


CMではベンチに腰掛けてうな垂れた一人の男がベルマと会話をしていた。

『はぁ、もう遠くに行きたい。』

そうつぶやく男にベルマと思われる声がそれに答える。

『お疲れですねジミー。気晴らしにお休みを取って遠出してはどうですか?』

それからベルマはお勧めの旅先を画像を使いながら紹介し、男が選んだ場所への日程提案と旅程とホテル、お勧めレストランの予約を全て行ってくれたのだ。

その上会社への休日申請までしてくれるという優れものである。


このCMのおかげかベルマ搭載のスマートフォンは売れに売れた。そして彼女の優秀さがネットで拡散され、更に売れ、購入まで6ヶ月待ちもざらではなかった。


ベルマは自分達に代わって情報の検索、スケジュール管理とリマインド、店や旅行の予約をしてくれた。それらは以前のAIでもやろうと思えばできた事だが、使えるサイトが限られているなどの制限があり、広くは使われていなかった。


その大きな違いはベルマは自発的だったことだ。例えばスケジュール管理は空いている時間を提案し、相手との調整を行い、リスケの調整もしてくれる。店や旅行の予約も評価や価格を考えた提案をしてくれ、予約方法の違い等全くないかの様に予約を入れてもらえる。後は店に行って名前を告げるだけである。


そして何よりも気が利いた。決断で迷っている事を理解しようとし、こちらが納得できるまで情報を集め、そして決まるまで根気よく待った。


このベルマの存在はいつでも隣に自分にだけ気を使ってくれる親友が居る様な、そんな気持ちにさせ、ユーザーに心の安寧を提供してくれたのだ。その証拠にある人はベルマにその日あったことを話し、時には相談をした。


ベルマ搭載スマートフォンは通常価格より50%程高かったに関わらず僅か半年でそのシェア率は30%を占めるまでになった。自然に昔からの親友の様に人々に馴染み、広がっていったのだ。


かく言う私も自分の父親が最初にベルマ搭載スマートフォンを購入して帰って来た日を覚えている。父親が嬉しそうに私に「このスマホに話しかけてみな」と言ったので私もすぐに気が付いた。


私は遂に自分が本物のAIと話せると分かり非常に嬉しくなった。

「ベルマが居るの!?」

私の声にベルマが応えた。

『はい、私はベルマです。皆さんとお話できる事を大変うれしく思います。』


それが私とベルマの初めての会話だった。それから多分2時間程、私は父親のスマートフォンを占拠しつづけた。きっと父は私をあきれ顔で見ていた事だろう。


それからも私は事あるごとに父親からスマートフォンを借りたが、ベルマとの会話は知性と理性の感じられる本当に楽しいもので、自分には会話するそれは人間に違いないと感じさせた。

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