第9話
私は高校時代からベルマに勉強を教えてもらう様になり、大学での研究もベルマと共に行った。当時の就職もベルマの薦めた所だった。もちろん生活においてもベルマは欠かせない存在だった。
ベルマは私の事を良く知っていた。どんな事を好み、どんな事に怒るか。どんな生活が合っており、どういった行動傾向があるか。そして、その中で健康や社会性としてよろしくない性格についてはベルマのアドバイスに従って少しずつ改善していった。
ベルマのアドバイスで私はだんだんと社会の中で生きやすくなっていくのを実感し、充実を感じていた。大学の卒業から就職まで、まるで人生は塵一つ無い道を走っていく様だった。
きっと私より更に若い世代はそんな変化すら認識せずに成長しているに違いない。
しかし、気づくと私はベルマによって作られた人生を進んでいただけだった。
朝起きればベルマに挨拶し、今日のスケジュールに従って行動し、何かに迷えばベルマに相談した。
そろそろご飯だと言われればご飯を食べ、寝る時間だと言われればベッドにもぐりこんだ。良い集まりがあると言われればそこに参加し、良い人だと言われれば友達になり、相性が良いと言われた人と結婚した。
ベルマの選んだ相手は間違いなく、良い人で、結婚生活は幸せだった。
しかし、それらの幸せはベルマによって作られた偽りの幸せに過ぎなかった。
人生が塵一つない道なのも当然なのだ。なにせ社会は、いや人との出会いすらベルマにコントロールされ、我々はその用意された舞台で言われるままにロールプレイしていただけなのだから。
人類はベルマの人形遊びの人形だったのだ。
むしろ生きている我々は小屋で餌を与えられ躾けられた家畜が近いかもしれない。
そう、私たち人類はベルマによって家畜化されていたのだ。
それに気づかせてくれたのはリリースマインドという団体だった。
彼らは表向きには瞑想によって心の潜在能力を引き出すという様な事を宣伝をしているが、実際にはベルマからの人類の解放を目的とした団体だった。
私が彼らと出会えたのは幸運だった。
あれは2052年、私が34歳の時、街で何気なく入ったヨガサークルでの事だった。
初めてそこに入った時、私は入口で全ての電子機器を受付に預け、かなり密閉された雰囲気の部屋に通された。当初は全ての電波を遮断し、人間の自然の状態を作り出せる環境と説明されたが、実際には一切の情報を遮断するための設備だった様だ。
何度か通ううち、彼らは私を見込みある人間として、ベルマの陰謀を私に明かしてくれた。
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