3話 優木坂 詠(ゆぎさか よみ)
「お、おはよう……優木坂さん」
「なんだか眠そうだね。もしかして
「うん、まあちょっと」
「遅くまで勉強してたの?」
「え? あ、うん。まぁそんな感じかな、ナハハ……」
ウソだ。
本当は深夜までゲームをしてただけだ。
しかもそのあとはキミがでてくるエッチな夢を見た。
夢の中のキミはすごいエッチだった。ハァハァ。
そんな俺の内心なんてつゆ知らず、優木坂さんはニコニコ愛想のよい笑顔を浮かべる。
それから何かに気づいたかのような表情になり、俺の方を指差した。
「寝ぐせ――」
「え?」
「頭の後ろ」
「マジで?」
「マジだよ」
優木坂さんに指摘されて、慌てて後頭部を手で押さえる。確かに髪の毛が外側に跳ねていた。外見に気を使う方ではないけれど、さすがにちょっと恥ずかしい。
「ふふ、さては寝坊ギリギリだったでしょ」
「いやー恥ずかしながら……」
「授業中、居眠りしないようにね」
「うん……」
そんな風に優木坂さんと話していると。
「
「おっはーヨミヨミ」
「あ、おはよう
後ろから女子二人組がやってきて、優木坂さんの席を取り囲んだ。
どうやら二人は優木坂さんの友人らしく、そのまま三人で話しはじめる。
「詠、数学の課題やったー?」
「うん、やったよ」
「さっすが! そんなヨミヨミにわたし達から一生のお願いが……」
「はいはい、どうせノート見せてってことでしょ」
「えへっ。バレた?」
「二人ともいっつもそれだからね。いいけど」
「うわぁい、ありがとう! 持つべきものは友だちだよねぇ!」
「その言葉は聞き飽きました」
「まぁまぁそう言わずにさぁ」
話の内容から察するに、優木坂さんはいつも友だちに課題のノートを見せてあげているらしい。
昨日の掃除の件もそうだったけれど、やっぱり優木坂さんは優しい子らしかった。
***
そんなこんなで優木坂さんとの関わり――俺にとって初めての高校生活におけるクラスメイトとの交流が生まれたので、何となく彼女のことが気になり始める。
ということで、気づいたら今日一日ずっと、隣の席の優木坂さんの様子を目で追ってしまっていた。
まず改めてわかったこと。
俺が第一印象で感じたとおり。いやそれ以上に。
彼女は底抜けに優しくて、お人好しな性格だった。
「実はどうしても外せない用事があって。優木坂さんお願い! 日直変わってくれない?」
「詠ちゃん、英語のノート見せてー?」
「すいません、このプリント職員室まで運ぶの手伝ってくれませんか」
こんな調子で彼女の周りにはひっきりなしに、バラエティ豊かな頼みごとが舞い込んでくる。そして彼女は、そのひとつひとつに対して、嫌な顔ひとつせずに応じているのだ。
それはクラスメイトだけじゃなくて、先生も同様で、授業の準備や片付けなどがあるときは、大体優木坂さんが指名されていた。
頼まれたら断れないタイプなのか、頼られるのが好きなのか。それともその両方か。
とにかく彼女のお人好しぶりは俺の予想以上だった。
そしてもう一つ。これはまぁ、彼女と俺の席が隣になってから、思い返せば今までずっとそうだったことなので。なにを今更といった感じなんだけど。
そんな優しい性格だからか、優木坂さんの周囲には男女問わず多くの人が集まっていて、常に楽しげな雰囲気に包まれているのだ。
優木坂さんは、休み時間には大体誰かと話していることが多いし、お昼休みも大勢のクラスメイトと机を固めて賑やかに過ごしているみたいだ。
俺はといえば、特に誰と話すわけでもなく、ぽつんと一人ぼっちなので、席が隣同士なのもあって、
更にあと一つ。これは新しく気づいたこと。
優木坂さんは可愛い。
重要なことなのでもう一回言っておこう。
優木坂さんは、と・て・も可愛い。
髪型は黒髪のショートボブで髪質はサラサラ。
顔立ちは丸顔なので少し幼く見えるけれど、整っている。
大きな瞳とそれを縁取る長いまつげ。鼻筋も通っていて、唇はふっくらと柔らかそうだ。
なんというか、小動物系の親しみやすい
そのうえ誰に対しても優しく気立がいい、天使のような性格だから、クラっときてしまう男子も多いだろう。
そして、ダメ押しとばかりの
優木坂さんはかなりおっぱいが大きい。
いやマジで。デカい。
隣の席から彼女を目で追うと、どうしても視界に入ってしまうわけだが、制服越しでもはっきりと分かるくらい胸が大きい。
机の上にそのふたつの膨らみを余裕で乗せることができるんじゃないかってくらい大きい。
これはもう健全な男子高校生としては見逃せないポイントであり、なぜ今まで気がつかなかったのか我ながらナゾである。どれだけ他人に興味がなかったんだ俺。
こんな調子で見れば見るほど魅力的な優木坂さん。
昨日放課後の教室で会ったときは、気弱な性格につけ込まれて、掃除を無理やり押し付けられていて。
下手したらイジメられたりしてないかとか、勝手に心配になったけど、とんでもない。
彼女はむしろ、俺みたいなぼっちの陰キャとは真逆の存在。クラスの明るい輪の中にいる女の子だった。
まあそんな風に優木坂さんのことを観察していたら、当然のように目が合ってしまうことも何度かあった。
その度に俺はつい目を
あれ、なんか俺キモくない?
優木坂さんに引かれたりしなければいいんだけど。
そんなことを
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