28話 相合傘の帰り道
教室の掃除が終わり、俺と優木坂さんは
靴に履き替えながら、
「あはは、都合よくは止まないね……」
俺の隣でローファーに履き替えた優木坂さんが、困り顔で笑いかけた。
梅雨の時期ど真ん中なので、雨に見舞われることは仕方ないのだが、登下校時に被ってしまうとやはりテンションは下がってしまうものだ。
俺はため息をひとつ吐いてから、傘立てに
「あれ……? 私の傘……」
俺の後に続いて、傘立てを覗き込んでいた優木坂さんがそんな声を上げる。
「どうしたの?」
「傘が見当たらなくて、確かにこの辺りに刺しておいたはずなんだけど……」
優木坂さんは首を
「うーん、やっぱり無いや」
「もしかして、誰かが勝手に持ってったとか?」
「そうかも。只のビニール傘だったし、誰かが間違えて持っていっちゃったのかな……」
優木坂さんは自分の傘を探すのを諦めて、俺の方に向き直ってそう言った。
世の中には、ビニール傘なら自由にシェアしても構わないという身勝手なルールで、他人の傘を勝手に使用してしまう
そんな悪意の可能性なんて夢にも思わずに、誰かが間違って持っていってしまったものだと思えるところが、優しい彼女らしいところだ。
とはいえ、このままだと優木坂さんがずぶ濡れになってしまう。なんとかしなければ。
「もしかしたら職員室に置き傘があるかもよ。いってみる?」
「うん……そうする。あ、でも青井くんは付き合わなくていいよ? 先に帰ってて?」
「何言ってるんだよ。この状況で優木坂さんだけ置いて帰るような
俺がそう言うと、優木坂さんは少し申し訳なさそうな表情を見せた後、「ありがとう」と微笑んだ。
そして、二人で職員室まで向かい、先生に置き傘の有無を確認する。だけど、その結果は無情にも、一本も残っていないとのことだった。
「うーん、どうしようかなぁ」
再び昇降口に戻り、途方に暮れたような声でつぶやく優木坂さん。
雨足は依然として強く、雨が地面を打つ音が激しさを増している。
「はあ、走って帰るしかないかぁ……」
「この雨の中を? 駅に着く頃にはずぶ濡れだよ?」
「うん……そうだけど……」
諦め混じりの声で言いながら、優木坂さんは意を決するように深呼吸をした。
「仕方ないかな……」
優木坂さんのその言葉を聞いて、俺はあることに思い至る。
いや、本当は最初から、頭の片隅にその選択肢はあったのだけれど、なんとなくそれを口にするのは
だが今の状況では、もうそれを口にせざるを得ないだろう。
「あのさ、ちょっと提案があるんだけど……」
「え?」
俺は意を決して優木坂さんに声をかけた。
「俺の傘――よかったら一緒に使う?」
俺と優木坂さんの二人に対して、使える傘は一本だけ。
この状況で優木坂さんを置いて俺だけ帰るなんて真似は絶対にできない。
となると、スタンダードな選択肢は俺の傘を優木坂さんに使ってもらって、俺は走って帰るというものになる。
だけど、優しい優木坂さんのことだから、自分のせいで俺が雨に濡れて帰ることについて、絶対に首を縦に振ることはないだろう。
ならば残された選択肢はただ一つ。
一本の傘を二人でシェアして切り抜ける方法だ。
とはいえ、この方法には大きな問題がある。
そう。男女が一本の傘を差すこと。
それはいわゆる、相合傘になってしまうのである!
え、いや、相合傘だぜ?
その行為が転じて、小学生くらいのキッズが、仲が良い男女を冷やかすときに黒板に書くようなアレ。
それを、俺から優木坂さんに提案するなんて。
そんなの、まるで俺が優木さんをそういう目でみているような……
いやいや、これはあくまで善意の提案だ。俺にやましい気持ちなんて神サマに誓って一切ない。断じてない!
だけど、優木坂さんが俺との相合傘の申し出をどのように受け取るかは、俺の下心の有無とは関係なくて。
恋人でもない、好きでもない男とそんな状況になるのは嫌かもしれないし、そんな場面を誰かに見られるのも嫌かもしれない。それに、優木坂さんの場合は嫌なことでも断れない性格だから、余計に困らせてしまうかもしれない。
そんなネガティブな思考が頭の中をぐるぐると巡る。
「えっと……その……」
俺の申し出を受けて、案の定、優木坂さんは、俯きがちに視線を泳がせていた。
「ご、ごめん、変なこと言ったねイヤだよね死にたくなるよねそんなもん濡れた方がまだマシだよね……忘れてくれていいから……」
そうだよな、流石に相合傘はダメだよな。
よし、それならどんなに優木坂さんに断られようとこの傘は優木坂さんに託して、俺は走って帰ろう――
俺は意を決して、自分の傘を優木坂さんに差し出そうとする。
しかし、優木坂さんはそれを制した。
「待って――」
その声を聞いて顔を上げると、優木坂さんは真っ赤になった顔を俺の方へ向けていた。
「その……青井くんがよかったら、お願いします……」
俺の疑問を
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