54話 結果発表!

 それからテスト週間はあっという間に過ぎていった。

 詠の宣言どおり、俺と詠は日曜日以外、毎日一緒に勉強をした。


 平日の放課後は学校の図書室で。そして土曜日は詠の部屋で。

 黙々と、真剣に、学習の時間を積み重ねていく。


 勉強に向かう詠の姿勢は常に真剣で、誠実で。

 そんな詠に引っ張られるように、俺も否応なしに勉強に真剣に向き合った。


 おかげで、俺の人生において、過去一有意義なテスト期間を過ごすことができた。


 そして、迎えた期末テスト当日。

 勉強の甲斐かいあって、どの科目もとどこおりなくシャーペンが進む。


 あ、この問題、チ○レンジでやったところだ!


 某通信教材の販促漫画の主人公はかような気持ちだったんだな、なんてことを考える余裕があるくらい、テスト問題をすらすら解いていく俺。


 これは結果が楽しみだ。

 そう思えるほど、今回のテストの手応えは十分だった。


 最後の科目のテストが終わった瞬間、俺は隣の席に座る詠の方へ視線をやった。

 ちょうどそのタイミングで詠も俺を見つめる。


 視線があった俺たちは、どちらともなく笑いあった。

 その爽やかな笑顔が、俺たちの努力の結果を物語っていた。


***


 期末テストが終了した、その数日後の昼休み。

 一年の教室が立ち並ぶ、廊下の掲示板スペースに、期末テストの結果が張り出された。

 

 自分の順位を確認するために、生徒たちが我先にと集まって、人だかりを作っている。

 俺と詠は、その人壁の一歩後ろから、生徒達の隙間すきまって、自分たちの順位を確認していた。


「えっと、詠の名前は……」

「見つかった?」

「うん、すごい……」


 自分の身長を利用して、首を伸ばしながら確認した俺の目に飛び込んできたのは、三位の位置に陣取った「優木坂 詠」の名前だった。


「詠――学年で三位。凄すぎる……」

「ほんと? やった」


 俺から自分の順位を聞いた詠は、短く喜びの声を上げ、笑顔を浮かべた。


「おめでとう。詠……いや、これからは詠さんと呼ばないとダメですね」

「もう、からかわないでよ……! それより、夜空くんは?」


照れくさそうにはにかんだのは一瞬、すぐに詠は俺の順位をたずねた。


「うーん……どうだろう……」


詠の問いかけに応えつつ、俺は自分の名前が記載されているであろう順位に当たりをつけて、そこから順番に眺めていく。

 一〇〇位くらいから順に見ていっているけど、一向に自分の名前が見つからない。


「あれ、おかしいなぁ」

「名前、見つからないの?」


 俺が首をひねっていると、詠が不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 それから、ちょうど彼女の前辺りの人だかりがいたので、「私も直接見てみるよ」といって、彼女は前の方へ進んでいった。

 

「あっ!」


 しばらくして、詠が小さく声を上げた。そして俺の方に振り返る。


「あったよ! 夜空くんの名前」

「え、ほんと? 何位?」

「四十五位!」

「ええ? マジ?」


 詠の口から驚きの順位が語られる。俺は思わず聞き返してしまった。

 ちなみに一年の生徒数は五〇〇人ちょっと。参考までに中間テストの俺の順位は二五〇位より下だったので、二〇〇位くらいまくった大躍進だいやくしんといえる。


「キャー! やったね! 夜空くん!」


 ガシッ。


 俺のもとに戻ってきた詠は、そのままの勢いで俺の両手を手にとった。


「ひゃっ!?」


 俺の両手のひらに、詠の手のひらの温かさと柔らかさを感じて、俺は思わず変な声をあげてしまった。


 身体が、一気に熱を帯びる。

 やばい、手汗が。マズイ。ちょっ。


 詠はそんな俺の内心の戸惑いなんてお構いなしにそのままブンブンと両手を振り回す。


「わわっ。ちょっと……!」

「夜空くん、すっごく頑張ってたもんね! よかったね! よかったね!」

 

 そのまま彼女は、飛び跳ねんばかりに全身で喜びの感情を爆発させた。

 そのたびにたわわに実った二つのおっぱいが、ボインボインと悩ましげに揺れる。あわわわわ……! あわわわわ……!


「詠。落ち着いて……!」

  

 俺は慌てて制止しようとするけど、詠はそんなのお構いなしだ。

 彼女は、自分の順位を確認したときよりも、すっかりテンションが上ってしまっていた。


 やがて、そんな彼女の様子に、周囲の生徒たちの奇異きいの視線が集まりだす。

 ようやく詠は、自分の振る舞いが周囲の注目をえらく集めていることに気付き、慌てて体を小さくして、掴んでいた俺の手を離した。


「ご、ゴメン。私、浮かれちゃって……」

「ううん、ありがとう、詠」


 小声になった彼女に、俺も同じトーンの小声で応じる。

 それから、俺たちはお互いの顔を見合わせて、コクリと一つうなずいた後、喜びと達成感をしっかりと噛みしめるのだった。

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