6話 新着メッセージがあります。


 家について部屋着に着替えた後、晩飯の準備をしようとしていたときに、俺のスマホがピコンと通知を告げた。

 

優木坂:(優木坂です。もう家についた?)

優木坂:(今日はありがとう)

優木坂:(色々話せて楽しかったよ)


 画面を見るとさっそく優木坂さんからのメッセージが届いていた。

 ポンポンポンッとテンポ良くメッセージが届く。

 

 えーと、返信しないと失礼だよな。

 俺は頭をかきながらスマホを操作する。

 

青井:(こちらこそ ありがと)

青井:(一ヶ月ずっとぼっちだったから、俺も楽しかったw)

青井:(これからよろしくね)


 えーと、こんな感じでいいかな。

 家族以外で女子とメールのやり取りするのが初めてなので、いまいち勝手がわからず、とりあえず無難な返信にしてみた。


 ……無難だよな?

 無難とする基準が漫画とラノベとアニメから得た知識しかないため、心許こころもとないことこのうえなし。

 

 さて、晩飯を……と思ったら、すぐにまたスマホが鳴った。


優木坂:(こちらこそよろしくお願いします)

優木坂:(青井くんすっごい話しやすかったし)

優木坂:(たぶんちゃんと話せばすぐ友だちできるよw)


 返信早っ!

 えーと、えーと。無難にありがとうスタンプでいいかな。ポンっと。


 俺が返したスタンプに対して、またしても間髪かんぱつおかずに返信がくる。

 それは可愛らしいネコのイラストのスタンプだった。

 アイコンもネコの写真だし、優木坂さんはネコ好きなんだろうか。ちょっと掘り下げてみることにした。


青井:(優木坂さんってネコ好きな人?)

 

優木坂:(うん 大好き!)

 

青井:(やっぱり)

青井:(LINKのアイコンになってる三毛猫は優木坂さんの飼い猫?)


優木坂:(そうだよ!)

優木坂:(名前はムギっていうんだ〜)

優木坂:(写真みたい?)


 はは、やっぱり食いついてきた。

 わかりやすくて可愛い反応だな。


 俺はくすりと微笑んでから返信する。


青井:(ぜひ見せてほしいな)


 俺がそう返信すると、すぐにムギちゃんと思しき猫の写真が、ポンポンポンと何枚も送られてきた。


「どれどれ、へぇ、可愛いな……」


 俺は送られてきた写真ひとつひとつをスワイプして、眺めていく。写真に写るムギちゃんはどれも愛くるしい。

 写真越しでも毛並みがよく整っていて、大切に飼われているということが伝わってきた。


 そして、とある写真に画面が移ったとき。

 俺の目はそれに釘付けになって、思わずスワイプする手を止めてしまった。


「これは……」


 思わず独りごとがこぼれてしまう。

 それはお腹を見せて気持ちよさそうに寝ているムギちゃんを上から撮影した写真なのだが、問題はその寝ている場所と撮影のアングルだ。

 

 ムギちゃんは、おそらく優木坂さんと思われる制服を着た撮影者の膝の上にのっており、その制服のスカートから伸びる白く柔らかそうな太ももが、ムギちゃんと一緒にばっちりと写ってしまっている。

 しかもそれだけじゃない。写真には優木坂さんの自己主張の強すぎる胸元の膨らみが、制服越しだけど、しっかりと写り込んでいるのだ。


 一旦そういう風に意識すると、健全な男子高校生にとっては、猫の写真というより、おっぱいと太ももの写真でしかなくなる。

 

 ごくり。


 思わず生唾を飲み込んでしまった。

 正直言ってエチエチのエチ。

 ちゃんと服は着ているのだけど、そこに秘められたエロスを感じてしまう。

 そもそも男子高校生なんて、


 W

 X

 Y

 

 この三文字で興奮できてしまう無限の妄想力を持つ生き物なのだから。


優木坂:(じゃーん 自慢のセレクションでした)

優木坂:(どう? 可愛いでしょ〜?)


 優木坂さんは、そんな清く正しい男子高校生に、クラスターボムを投げつけたことなどつゆ知らず、呑気のんきな様子でそんなメッセージを寄越よこしてきた。

 

青井:(めっちゃかわいいね)

 

 なんとか平静へいせいよそおいながら無難な返信をしたけど、心臓はバクバクだ。

 ヤバい、このままやりとりを続けてたら、優木坂さんのことを完全にで見てしまいそうだ。

 

 今日はこの辺りで切り上げたほうがいいかもしれない。

 俺はLINKのやりとりを終えることにした。


青井:(あ、ごめん。そろそろ飯の準備しなきゃ)


優木坂:(そうだね。わたしもお風呂入ろっと)

優木坂:(また明日 学校でね)


 そして、やり取りは、優木坂さんから送られたネコイラストのバイバイスタンプで締められた。


「ふぅ……」


 LINKを終えた俺は、スマホを片手にほっとため息をついた。

 女子とのLINKって……こんな感じなのか……

 正直、テンポの速さについて行くのが大変で、ちょっと疲れた。

 

 だけど、うん。

 楽しかった。

 それは間違いない。

 

 それにやり取りを切り上げたのは俺の方なのに、不思議なことに、いざ終わってみると、寂しさを感じていることに気がついた。

 別に優木坂さんと二度と会えなくなるわけでもない。明日学校に行けばすぐにまた会えるのに。

 

 それは、目当てのアニメが終わって、テレビを消した後に感じる奇妙な寂しさに似ている気がした。


 これまで俺にとって、LINKは家族と事務的な連絡を取り合うのと、クーポン情報が届くだけのツールだった。

 だけど、はじめて優木坂さんとそれ以外のやりとりをしてみたことで、こういった何気ないメッセージや写真を送り合ったりするのも、案外悪くないものなんだなと思う。

 

 優木坂さんとのLINKのやりとりを思い返して、気がつくと俺は顔がにやけてしまっていた。


「さーて、晩飯は何を作ろうかな♪」


 俺は少し上機嫌になって、キッチンへ移動する。

 そのまま鼻歌混じりに晩飯の準備を始めたのだった。


 こうして、高校生活が始まって以来の色々なを経験した一日は、あっという間に過ぎていった。





 


 ……ちなみに例の写真はこっそりと保存しました。

 見つからないように隠しフォルダに突っ込んでおく。


 誰だってそうする。俺だってそうする。

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