33話 二人一緒に本を読む
「『銀河鉄道の夜』って……宮沢賢治の?」
「青井くんは読んだことある?」
「えーと、子供の頃に、確か絵本か何かで読んだような……」
たしかこんな話だった。
遥か未来の地球。
スラム街出身の貧しい少年である主人公は、アンドロメダ星に行き、機械の身体を手に入れることを願っていた。
そんなある日、主人公はアンドロメダ行き超特急列車銀河鉄道のパスをくれるという謎の美女メー◯ルに出会い――
なんか違くね?
「あーゴメン。やっぱわかんないや」
俺は腕を組んで、記憶を
優木坂さんはそんな俺の様子を見て、少し
「わたし、子供の頃ね。この本を初めて読んで、泣いちゃったんだ」
「そうなんだ?」
「うん」
優木坂さんはそう言って、はにかむように視線を落とした。
優木坂さんが一番好きな本。
子供の頃に初めて読んで、そして泣いたという本。
銀河鉄道の夜――
正直、全然読まないジャンルの本ではあるけれど、ちょっとだけ興味が湧いてきた。
俺は、優木坂さんが差し出した本を手に取る。
「俺も読んでみようかな」
「ほんと?」
「うん。優木坂さんが泣いた
「そう言われると、ちょっと恥ずかしいな……子供の頃の話だし」
優木坂さんは顔を赤らめた。
「あ、じゃあ私貸すよ」
「いや。せっかくだから、これ買うよ。手元に置いておきたい」
「そう? いいの?」
「うん、今日の記念にね」
「そっか。わかった」
彼女は微笑んで、こくりと小さく
「じゃあ、ちょっと待ってて、これだけレジ通してくるから」
「うん。ここで待ってるね」
***
レジで会計をした後、今度はブックカフェに持ち込む本を選ぶために、俺と優木坂さんは再び本屋を見て回ることにした。
二人でしばらく本屋の中をうろうろしてから、結局、カフェに持ち込む本は、二人で一緒に読むことができる雑誌にすることにした。
雑誌コーナーでお互いに興味のあるジャンルのものを持ち寄ってから、ソファーシートに戻る。
それから、コーヒーのおかわりを注文して、テーブルの上に
「優木坂さんは、なに読んでるの?」
「えっとね、料理の本」
優木坂さんは手に取った雑誌の背表紙を俺の方へ向けてくれる。
「料理?」
「うん、お弁当作りの参考にしたくて」
「あ、ああ……やっぱ、作るの、ね……」
「当然だよ! ごめんね、昨日はちょっと時間がなくてお弁当を作ってこれなかったけど。来週の金曜日からは絶対に作ってくるから!」
「いや、無理しなくても――」
毎週金曜日は、教室を抜け出して、二人一緒にお昼ご飯を食べることになった俺たち。
更に優木坂さんの発案で、そのときは俺の弁当を彼女が作ってくれることになった。
可愛い女の子が自分のために手作り弁当を作ってくれる。本来なら、それは飛び上がるくらい嬉しいことなんだけど……
「ね、お弁当に入れられそうなおかずで、青井くんの好きな食べ物を教えて?」
「えっと、バナナ、りんご、キウイフルーツ、プチトマト、ブロッコリー、梅干し、白米、ふりかけ……」
俺が指折りしながら、思いつくかぎりの食べ物を伝えていると「ちょっとストップ!」と優木坂さんに止められた。
「え?」
「それじゃおかずっていうより食材じゃん。もっとお弁当のおかずっぽいやつ! ほら、から揚げとか、玉子焼きとかさ。ちゃんと料理っぽいのを教えてよ」
優木坂さんは口を尖らせてそう言った。
「あ、ああ……そう?」
本音を言うと、できれば料理は最小限にしてほしかった。
なぜか彼女の料理はすべてがとっても
だけど、そのことを口に出して指摘することは、俺にはできない。
「え、えっと……ハンバーグとか好きかな」
俺はそう言いながら「しょっぱくなければね」と心の中で付け加える。
「ハンバーグかぁ。定番だねぇ。了解、了解。あとは?」
「あとは……ミートボールも好きかも」
しょっぱくなければ(以下略。
「ミートボールね。でも手作りって感じじゃないかな?」
「いや、手作りじゃなくても全然大丈夫だよ! ミートボール大好き! お惣菜サイコー! やっぱお弁当にはレンチンフードは欠かせないでしょう!」
「うーん、でもやっぱり、初めは全部手作りしてあげたいから、却下で」
「あ、はい。すいません……」
その後も優木坂さんの質問は続いた。
「え、青井くんって薄味のほうが好みなの?」
「そうだね。
「ふむふむ……」
これもウソだった。本当は若者らしくガッツリ濃い味の方が好みだ。だけど、こう言っておけば、優木坂さんの狂気的に塩辛い味付けが、ほんの少しでもマシになるかと思って、俺はあえてウソをついてみる。
「うん。すっごい参考になった! ふふふ、来週の金曜日楽しみにしててね」
優木坂さんはそう言って嬉しそうに笑う。
その笑顔が可愛すぎて眩しかった。
光あるところに必ず闇もまたある。
何故だかそんな偉人の名言が思い浮かんだ。
えーと、ニーチェだっけ?
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