61話 優木坂詠は恋をしていたようです
夜空くんと最後に電話をした日から、もう一週間が過ぎてしまった。
私は、自分の部屋の片隅で、
部屋の中は薄暗くて、カーテンの隙間から差し込む月明かりだけが、ほんのりと私のいる場所を照らしている。
「夜空くん……会いたいよ」
暗闇に向けられて迷子になる私のつぶやき声。
自分の気持ちを言葉にしたことで、私の胸は
終業式の日、夜空くんの言うとおり、私と彼は別々に登校した。
朝、教室で自席に座っていると、
「詠おはよー」
「うん、おはよう……」
「あれ、どしたの? なんか元気なさげ?」
「ううん、そんなことないよ」
「そう? それならいいんだけど」
「あはは、心配してくれてありがと。波美ちゃん」
すると、隣の秋穂ちゃんが身を乗り出すようにして、入れ替わりで話しかけてくる。
「それよりさー、クラス会のこと聞いたよ!? なんか青井のヤツが暴れて大変だったんでしょ?」
「えっ……」
「私たち部活で行けなかったんだけどさ。なんか太陽くんに殴りつけたとか聞いたんだけど。ヨミヨミは参加してたよね? 実際どうだったの!?」
彼女達は興味津々と言った表情を浮かべて聞いてくる。
私はその顔を見て、自分の心がしんと沈むのを感じた。
「……正直、私は何があったかよくわからないんだ」
「そっかー、ナマの声を聞きたかったんだけどなー」
「でも――」
私はまっすぐ二人を見据えて――ううん、まるで
「これだけは言えるよ。夜空くんは絶対に暴力を振るうような人じゃないから。黒野くんとの間に何があったか、私は知らないけど。暴れたとか、殴りつけたとか、そんなの絶対にありえない。事情も何にも知らない人達が好き勝手想像して。噂に
私は吐き出すように一気にそう言った。
言い終わった後、トゲトゲしい言葉になってしまった気がして、ハッとなる。
そんな私を、二人は不思議そうな表情で見つめた。
「詠、なんか怒ってる……?」
「あ、ううん。そんなことない」
慌てて愛想笑いを浮かべる私。
「ていうか、夜空って……青井のこと、だよね?」
「なんかヨミヨミ、妙に青井のこと
「私は――」
夜空くんは、私の大切な人だから。
そう答えようとしたタイミングで。
「ごめん、そこ。俺の席だから――」
「げ……」
夜空くんが、彼の席を通せんぼするように立っている波美ちゃん達に声をかけた。
二人はバツの悪そうな表情を浮かべて、すごすごと自分達の席に戻っていく。
「夜空くん……」
「おはよう、
夜空くんはそう言って、乾いた笑顔だけを残した。
なんで、名前で呼んでくれないんだろう。
一学期の最終日であるその日は、終業式と通知表の返却だけがあって、半日で学校は終わった。
放課後、いつものように夜空くんは教室の掃除を手伝ってくれなかった。私が声をかける間もなく一人で帰ってしまった。
それが夜空くんに最後に会った日のこと。
その日から一週間。私は夜空くんに会うどころか、声すら聞けていない。
何度かLINKでメッセージを送ったり、電話もかけてみたけど、返信はなかった。
既読のつかないメッセージ画面を見るたびに、胸の内を引き裂かれるような痛みが襲う。
なんで、夜空くんは、急に私のことを無視するようになったんだろう。
暗がりに向けた自問自答。
だけど、私はその答えが分かるような気がした。
夜空くんはきっと、私のことを守るために、こんな態度をとっているんだ。
黒野くんとの一件をきっかけに、クラスの中で浮いてしまうかもしれない夜空くん。私を巻き添いにしないために突き放しているんだ。
優しいきみの性格のことを考えると、そう思えてならなかった。
でも、そんなの!
私、一度だって頼んでない!
私はただ、夜空くんと一緒にいたかった。
それは傷ついているきみを助けたいとか、孤立したきみを見捨てないとか、そんな偉そうな感情じゃない。
ただ、私がきみのそばにいたいだけ。
きみともう一度、話をしたい。
不器用な笑顔をもう一度みたい。
なんてことない日常を二人で一緒に過ごしたい。
それができるなら、私のクラス内での立場なんてどうなってもいい。
そんなもの全部いらない。
ねぇ、夜空くん。それは、もう叶わないことなのかな。
私まだ、『銀河鉄道の夜』を読んだきみの感想を聞いてないよ。
そんなことを考えていると、目の奥がじんと熱くなった。
じわりと涙で暗闇の世界が
ついに私は
私は、こんな状況になって、自分自身の気持ちをはっきりと自覚していた。
私は、夜空くんに恋をしていたんだ。
痛いくらいにきみのことが好きなんだ。
きみに会いたいよ。夜空くん――
そうして、ひとしきり泣いた後。
自問自答がまた始まる。
もう、私にできることは何もないんだろうか。
私はきみに、きみの優しさに救われた。
きみは私に色々な初めてを与えてくれた。
素敵な気持ちを、景色を。ひとつずつリボンをつけて、私にプレゼントしてくれた。
きみは、私を変えてくれた。
私は――
まだ、きみになにもお返してできていない。
私は!
手の甲で涙をぬぐい、立ち上がった。
一人で泣いていたって、何も解決しない。
迷惑かもしれない。
余計なお世話かもしれない。
きみを困らせるだけかもしれない。
でも。
私は、きみのためにできることをする。
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