23 退職

 ひかるは、今月いっぱいで退職する旨を上司に告げ、かなとみなにも事情を説明した。

「彼がこの近くに会社を移転するんで、経理を手伝うことにしたんだ。ついでにアパートも引き払って、彼の所有する家に引っ越すことにしたし、そういうわけで、引っ越しが終わったら連絡するから、遊びに来て」


「いいけどさ」

 急なことなので、かなは仏頂面になっていた。

「結局、旦那って何者なの? 娘みたいなあんたとルームシェアしてた人が、会社の経営者だなんて信じられない。ひかるとは男女関係にない、なんて言ってたのに、舌の根も乾かないうちに結婚するとか、まっとうな大人とは思えないんだけど」

「その点については、かなに申し訳ないって、彼も言ってて」

 ひかるは、よくやる両手の平を合わせての『ごめんね』ポーズをした。

「でも、あれでも政府と取引のある会社の、立派な社長なんだよ。私、間違いなく玉の輿なんだから」

「で、何をやってる会社なわけ?」


「それは・・・」

 ひかるは、説明に困った。まさか『グレイトヒーロー』だとは言えない。苦し紛れに彼女は、

「ごめん、国家機密に関わることだから、話せないんだ」

などと、ますます怪しまれるような発言をしてしまった。ため息をついたかなの表情が、(ダメだこりゃ)と言っているようだった。


「まあまあ」

 と、例によってみなが割って入った。

「ひかるが幸せになってくれれば、それでいいよ。引っ越し、手伝おうか?」

「大丈夫、業者に頼んであるから」


 実際には、荷物は全部『空間転送』できると彼が言ったので、業者には頼んでいないのだが。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る