22 空間転送

 二人はスペース・シップの中へ入った。成瀬はヴァーチャル・モニターを空中に出して、地図を表示し、位置を示しながら、

「ここにミニドローンを飛ばして」

と、『アイコン』に指示した。それからドローン搭載のカメラの映像に切り替えると、やがてひかるにとって見覚えのある景色が映し出された。


「スペース・シップを、目標地点の上空に飛ばした方が、簡単にいくんだけどね」

 ひかるが何のことかわからずにいると、

「よし、この辺でいいな。ひかるさん、ちょっと目をつぶってて」

ひかるが、訳もわからずに言われたとおり目をつぶると、

「『アイコン』、俺たちを空間転送してくれ」

 成瀬の言葉の後、ひかるは体がふわっと浮き上がるような感じがした。

「もういいよ、目を開けて」

 ひかるが目を開けると、そこはひかるのアパートの裏路地だった。


「えっ、どうして?」

「これが『空間転送』っていうやつ」

 彼は説明した。

「ミニドローンを飛ばして目標地点を設定して、そこに空間転送したから、この先何回でもスペース・シップと簡単に往復できるよ。もっとも、車を置いてきたから俺はまた戻らないといけないけどね」

「車は空間転送できないんですか?」

「できるけど、スペースを取るから転送場所の選択が難しいし、誰かに見られたら困るから」

なるほど、それもそうだ。


「じゃあ俺は、もう一回戻って、車を運転して帰るから」

「この次は、車を使わなくてもスペース・シップへ行けるってことですか?」

「そうだよ」

「じゃあ、向こうで暮らすこともできるんですね」

「あっそうか」彼は頭をかいた。「後継者候補を派遣するって言ってたよなあ。君のアパートで一緒に暮らすわけにはいかないよな」

 二人でも手狭なのに、三人になったらルームシェアどころではない。


「引っ越した方がいいですね。空間転送してもらえるなら、私も通勤には困らないし」

「それなんだけど」

 彼は、ちょっと言いにくそうに話し出した。

「実は、前々から政府にいわれてるんだけど、架空の会社を作って経理を丸投げしているんで、いいかげん自分でやれって。後継者候補が来たら、そいつも社員ってことになるし、給料も振り込んでもらわなきゃならないから、さすがに怒られると思うんだ。だから、どっかのビルの一室を借りて、そこで仕事をしている体裁にしたいんだけど、この際、君も社員になって経理を担当してくれないかな。今の仕事をやめるのは辛いだろうけど」

「そうだったんですか」

 ひかるは、割とあっけらかんとしていた。


「橋田かなちゃんとは、ときどき飲みにでも行けるように、君の今の会社の近くにオフィスを借りようと思ってるんだけどね」

 成瀬は、彼女たちの友情には気を遣おうと考えていた。


「わかりました。私、実は寿退社を考えていたんですよ。悠さんが命をかけて戦っているときに、仕事なんかとてもできませんから。悠さんの会社だったら、悠さんを待っている間、仕事しなくてもいいですよね?」

 成瀬はにっこり笑った。

「勿論だよ」



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